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中国式QRコード決済について(6):「中国QRガー」にだまされないために日本の銀行系「~ペイ」を自習

中国のインターネット決済、主にスマートフォン決済の普及率の高さを手放しで称賛する人々を、5ちゃんねるから言葉を借りて「QRガー」と呼んでいるが、もしかすると日本でのモバイル決済の普及のスピードに追従できていないだけかもしれない。

「中国QRガー」の皆さんは日本に無知すぎるのか

筆者もここ数日ネットで調べて知ったのだが、メディア露出の高いLINE Pay、PayPay、楽天ペイに加えて、大手金融機関も続々スマホアプリによるQRコード決済に進出、個人間送金サービスも始めている。

下記のような日本のQRコード展開状況にまったくふれない「中国QRガー」のみなさんは、わざと無視しているのか、単に知らないだけなのかは分からない。

ただ日本におけるQRコード決済で強調したいのは、とにかくいろんなサービスが乱立し、囲い込み戦略をとっていること。

中国はアリババのアリペイ、テンセントのWeChat Payの2社が寡占している。

「中国QRガー」のみなさんはこの2社で中国全土をカバーできることをメリットだと訴求しているが、寡占状態は必ずしもメリットとは言えない。

しかもアリペイが寡占状態なのは、はもともとアリババの「タオバオ」という、楽天のようなネットモールが中国で寡占状態だった背景の流れというだけ。(ネットモールは京東という競合があるが、オンライン決済ではアリペイの寡占をまったく切り崩せていない)

WeChat Payが寡占状態なのは、もともとテンセントのQQというチャットアプリが国民的な普及率を誇るほぼ独占状態といえるアプリで、テンセントがPCメインだったQQをスマホ対応にするのと並行して、ほぼスマホ専用のWeChatへユーザを誘導したというだけ。

中国ではアリババ、テンセントというネット企業がそれぞれEコマース分野、チャットアプリを中心とするオンラインアプリケーション分野でほぼ独占状態にあったから、アリペイ、WeChat Payも寡占状態にあるだけなのだ。

そういう中国の特殊事情がなく、資本主義の正常な競争が行われている日本のQRコード決済業界について、「統一的なQRコード決済が無いのはダメだ!」的な議論は、完全に筋違いと言っていい。

「中国QRガー」のみなさんは、徹底して日本の現状や日本市場の正常な競争状態を、平気で無視するから煙たがられるのだ。

前置きが長くなったが、日本の金融機関のQRコード決済展開として以下のようなものがある。

みずほ系「Jコインペイ」

J-Coin Pay公式サイト

『スマホQR決済「Jコインペイ」、全国50以上の地銀が3月から導入へ』 (iPhone Mania 2019/02/18 13:24)

『銀行スマホ決済「Jコインペイ」で大競争時代に』 (野村総研 2019/02/18)

みずほフィナンシャル・グループが中心になって、50行以上の地方銀行が参加。参加銀行は順次増やしているようだ。

中国のAliPayとも提携し中国観光客にも対応するという、日本でありがちなスマートフォン決済導入パターンである。

このプラットフォームは個人間送金もできる。筆者は個人間送金ができるのはてっきりLINE Payだけだと思っていたが、Jコインペイもできるんじゃないか!

加盟店側手数料は2~5%程度でクレジットカード手数料を下回り、導入費用はスマホやタブレットがあればアプリをインストールするだけなので0円とのこと。

ゆうちょPay

『ゆうちょ銀行、スマホQRコード決済「ゆうちょ Pay」5月開始、口座直結で支払い』 (iPhone Mania 2019/02/07 00:31)

『なぜゆうちょ銀行がスマホ決済に参入するのか? 「ゆうちょPay」の狙いを聞く (1/2)』 (ITMedia Mobile 2019/04/11 06:00)

ゆうちょ銀行はメガバンクと比べると収益性が低いが、その優位性は言うまでもなく顧客との接点の多さ、ATMと店舗数の多さだ。

この「ゆうちょPay」のポイントはGMOペイメントゲートウェイの「銀行Pay」を利用している点だ。

SaaS型銀行間決済「銀行Pay」

GMOペイメントゲートウェイ 銀行Pay公式サイト

『地銀、ゆうちょ銀行が取り組む、銀行Payとは何か?口座連携のQRコード決済のメリット、デメリット』 (Money Lifehack 2018/10/23)

筆者も初耳だったのだが、GMO運営のこのシステムは、ユーザ向け、加盟店向けのスマートフォンアプリと、加盟金融機関の勘定系システムをインターネット経由で連携するSaaS型プラットフォームで、中国のAlipayにも連携、外部連携APIも提供している。

この銀行Payはあくまでプラットフォームであり、じっさいにサービスを提供するのはこのSaaS型サービスを利用する各金融機関となる。

ゆうちょ銀行以前に、りそなグループ、すでに横浜銀行、福岡銀行、熊本銀行、親和銀行、近畿大阪銀行、沖縄銀行、北陸銀行、北海道銀行が参加。

QRコードでの決済方式は、顧客読み取り型、店舗読み取り型、自動精算機型がそろっており、今後は自動精算機で現金の引き出しまで出来てしまうようだ。

Bank Pay (仮)

これが本命のようだが、日本の三大メガバンクが2018/05にQRコード規格の統一で合意していたようだ。

『スマホ決済、3メガ銀がQRコード規格統一で合意 地方銀行に参加促す』 (日経新聞 2018/05/22 20:04)

ただ、みずほは上記の「Jコインペイ」、GMOがSaaS型銀行間決済プラットフォーム「銀行Pay」、ゆうちょは「ゆうちょPay」をすでにサービスインしているので、この「Bank Pay」は本当に実現するのか不安。

膨大なセキュリティ投資

中国のQRコード決済、インターネット決済について、不正アクセスなどサイバー攻撃のリスクが低いのは、中国のインターネットの内部から外部への接続が強力に規制されていることが最大の理由だ。

このインターネット規制は政府が調整できるため、国外から中国内部への逆方向の接続も、通信遅延が増減するなど明らかに規制を受けている。

インターネット全体が中国全体で保護されているおかげで、中国のインターネット決済はサイバー攻撃などのセキュリティ対策にかけるリスクを大幅に抑えられるメリットを享受している。

他方、中国以外の日本を含む、国外とのインターネット接続を規制していない国は、インターネット決済プラットフォームのセキュリティ対策に莫大な投資をする必要がある。

乱立が健全なんです

結論はこれにつきる。

じっさいにLINE PayとメルPayが提携しても、LINE PayとPayPayが提携しそうにないのは、乱立する「~ペイ」がQRコード決済の普及率向上よりも、顧客囲い込みによる自社の利益を優先しているからだ。

これは自由主義の市場ではきわめて正常でまっとうで健全なことである。

かりに日本のQRコード決済が中国のように寡占状態になり、加盟企業に不利益な状況が発生すれば、日本では確実に公正取引委員会が動き出すだろう。

消費者にとって寡占の利便性と、例えば加盟店の手数料が寡占企業によって引き上げられ、価格に転嫁されることによる不利益はもちろん、どちらかを取れば他方を捨てざるを得ない関係にある。

おそらく日本の公正取引委員会は中国のような2社の寡占は許さないのではないか。

「三大メガバンク」や「三大携帯電話会社」の例からすると、全国の消費者に生活基盤にあたるサービスを提供する事業者は、少なくても3社までが許容限度ではないかと思われる。

いずれにせよ自由主義経済の健全な競争を阻害してまで、中国のような寡占状態のQRコード決済の普及を良いことのように称賛する「QRガー」がいたとすれば、遠慮なく非難してよい。

以上、「中国QRガー」のみなさんに騙されないようにするための基礎知識として、自分自身のためにもまとめておいた。

中国式QRコード決済について(4):「QRガー」のみなさんには絶望が足りない

ネット上の「中国のQRコード決済すごい!日本でも普及させるべき!」という人々は、日本のQRコード決済利用実態や現金決済主義の現実から目をそむけ、QRコード決済をまだ使っていない人々への訴求力がほぼゼロである点で、完全に空回りしており、見ものとしては面白い。

以下、このような人々を「QRガー」と呼ぶことにする。この名称はすでに5ちゃんねるで使われている

いかに「QRガー」のみなさんの努力が空回りしているか、下記リンク先の日本でのQRコード決済の実態調査で確認してみたい。IT系でおなじみ、MMD研究所のアンケート調査だ。

PayPayユーザは日本のスマホ所有者の約8.6%

「みんなが一番使っているQRコード決済、現時点でのトップはアレ!」 (GIZMODO 2019/02/06)

引用元のMMD研究所の調査はこちら。「2019年2月 QRコード決済サービスの利用に関する調査」 (MMD研究所 2019/02/05)

なお無用な反論を避けるため、このMMD研究所の調査は2019/01/08~01/10だが、PayPayの大規模キャンペーンを反映していることを別の調査で確認しておく。

「『100億円キャンペーン』はどれくらい効果があったのか? PayPayの利用動向を調査会社が発表」 (Forbes Japan 2019/04/09)

引用元のVALUESの調査はこちら。「『100億円あげちゃうキャンペーン』、その後のマーケティング効果を調査」 (VALUES 2019/04/08)

PayPayをふくむ各種決済アプリの月次ユーザ数推移はこちら。「行動ログ」が基準なのでMAUと考えてよい。

2019/02のPayPayのMAUは599万に達している。インストールベースでは2019/02時点で774万ユーザとある。

NTTドコモ系のモバイル社会研究所の調査によれば2018年の日本のスマートフォン所有率は74.3パーセントのため、スマートフォン所有者のうち約8.6パーセントがPayPayユーザとなる。

インストールユーザ数の推移はこちら。やはりPayPayは2018/12のキャンペーンで現在にいたる8割以上のユーザを獲得しており、MMDの調査期間はPayPayの急激な成長を反映していると考えてよい。

ただそのPayPayも、大きなユーザベースにもかかわらず、1日平均の1ユーザ利用回数は3回以下、キャンペーン終了後は他の決済アプリと大差なく1日平均2回前後と、利用頻度は意外に少ないことが分かる。

このように、MMDの調査は2018/12に一気にユーザベースを増やしたPayPayの急成長を反映していることを確認しておいた。

QRコード決済に消極的、無関心なスマホ所有者は8割

ではそのMMDの調査について、「スマートフォン所有者のQRコード決済サービス利用状況」から見てみよう。

先のVALUES、モバイル社会研究所の調査結果をあわせて、スマートフォン利用者のうちPayPay利用者が約8.6パーセントと計算されたので、このアンケート調査結果でPayPayを「現在利用している」割合の数値8.1パーセントは妥当と考えていい。

このチャートの重要な点は、QRコード決済に対して無関心、消極的な日本人の比率が圧倒的であることだ。

無関心、消極的な日本人の比率は、チャートの緑色と黄色を除いた部分、つまり、「利用したことはあるが、現在は利用していない」+「どんなものかわかるが、利用したことはない」+「聞いたことはあるが、内容はよく知らない」+「全く知らない」の合計だ。

これだけネットで簡単に調べものができる中で、「聞いたことはあるが、内容はよく知らない」のは積極的に調べる気がないとしていいだろう。

消極的な比率がもっとも少ないPayPayの回答者でも82.4パーセント。すべてのQRコード決済アプリで約8割のスマートフォン所有者がQRコード決済の利用に消極的、無関心である。

つぎに「QRコード決済サービスを利用する理由」を見てみる。

回答数887人のうち、QRコード決済を利用していると回答した188人に絞られてしまっている。

ポイントに関係する回答が1位、3位。ポイントは運営会社の囲い込み戦略のため、QRコード決済を社会インフラとして普及させることより、自社顧客の囲い込み優先の運営会社の狙いが反映されていると見ていいだろう。

利便性は2位、5位、6位、8位、10位など。ただしいずれもQRコード決済だけの利便性ではなく、Felica式決済にも共通する内容であり、おそらく回答者の多くはFelica式キャッシュレス決済を併用していると思われる。

「QRガー」のみなさんが、よくメリットとして強調する個人間送金は、13位の8.5パーセント。回答数全体の188×8.5%÷887=1.8パーセント。

日本の全スマートフォン所有者のうち2パーセント弱しか個人間送金を理由として挙げていない計算になる。「QRガー」の一部の方々が個人間送金のメリットを訴求している努力は空回りしているようだ。

「クレジットカードで十分」が4割

つぎは「QRコード決済サービスを利用しない理由」。こちらは母数が699人。

複数回答可で、「クレジットカードで十分だから」が43.1パーセント、2位の「現金で十分だから」が23.6パーセント。日本人が決済手段の変更について異常に保守的だと言える。

3位は決済の取引情報はユーザ別、一件別に記録されるキャッシュレス決済特有の懸念と言っていい。

クレジットカードもQRコード決済も大企業が運営しており、信用の点で大きな差はないはずだが、「クレジットカードで十分」とする人が43.1パーセントである一方、QRコード決済については、情報漏えいの不安が21.6パーセントと第3位になってしまう現実がある。

これこそ、信用にもコストがかかり、誰かがそれを負担しなければならないと筆者が言い続けている点だ。

QRコード決済を利用しない人たちは、そのコストを自分は負担したくないので、QRコード決済は使わない、何かあったときに補償があるクレジットカードで十分だと言っていることになる。「QRガー」のみなさんは常に信用にかかるコストを小さく見積もりすぎている。

意外なのは、「街中で使えるお店が少ないから」という比率が非常に小さいことだ。

「QRガー」のみなさんは使える店舗が増えれば、ネットワーク外部性で利用者も増えると考えているが、QRコード決済を利用しない人にとっては、使える店舗が増えたとしても、クレジットカードや現金の十分さをくつがえす要因になりづらいことが分かる。

以上、MMD研究所の調査結果を見てきたが、フツーの日本人の直感にもほぼ合致していると思われる。

「QRガー」のみなさんが本来やるべきこと

「QRガー」のみなさんが本来やるべきことは、日本人のクレジットカード信仰、現金信仰を「脱洗脳」することだ。

しかし「QRガー」のみなさんがいくら自身の議論の客観性や合理性を主張しても、日本社会の現状の中に置かれた途端に、QRコード決済「信者」になってしまい、両社は宗教戦争の様相を呈してしまう。

筆者がこの記事で「QRガー」のみなさんを「QRガー」とあえて蔑称しているのも、ご自身の主観性やイデオロギー性に無自覚な点を指摘したいからだ。

日本人の決済手段の変更にかんする異常な保守性は、合理性ではなく直感的なものであるため、説得方法も非合理的でなければならない。その一例がPayPayの2018/12の第一弾キャンペーンといえる。

しかしQRコード決済事業者がいっせいに同様のキャンペーンを行えば、日本では行政の指導や規制がなされ、事業者がかんたんに折れることは容易に想像できる。最近ではふるさと納税の規制の例があった。

したがって、「QRガー」のみなさんが日本でQRコード決済を共通の社会基盤として普及させるためにできることは少ない。

ご自身がQRコード決済「信者」だという自覚がなく、QRコード決済の長所を訴える方法しかとれないのでは、決済手段の変更にかんする日本人の異常な保守性を変えることはできない。

筆者がQRコード決済について少しでも否定的なことをツイートするやいなや、たちまち「FF外」からの反論が返ってくるくらいなので。

「QRガー」のみなさんには、現実に対する「絶望」が足りない。

もしもあなたがこの記事に反感を抱いたとしたら、あなたにはこの異常な保守性を変え、QRコード決済を日本の社会インフラにする能力が無いことの、何よりの証拠だ。