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Android PoliceがNEC新機種Medias X 06Eをやや冷笑的にレビュー

Android関連の最新情報をとるなら、Android Policeという英語サイトがいちばんおすすめだ。
たまたま今日このサイトが、NECのNTTドコモ向け最新機種「Medias X 06E」を、かなり冷笑的に取り上げていたのを見つけた。世界初の水冷CPUスマホだ。
[WTF Japan] NEC Unveils A Water-Cooled Smartphone – With Jewelery – Especially For Women (2013/05/15 Android Police)
Android Policeの記事の文面は、いつも言葉の端々に皮肉が効いている。この記事をできるだけ原文どおりに試訳してみる。
「あなたが探していたのはたぶん水冷式のスマートフォンではないだろう、でも日本のスマートフォンメーカーNECは今日、Medias X 06Eと大まじめに名付けられたNTTドコモ向け端末を発表した。CPUをH2Oで冷却する世界初のスマートフォンだが、性能は決定的にふつうで、NECはHTCのRhymeと本質的に同じように、”女性の”電話としてマーケティングするつもりだ。」
「正直に言って、Medias X 06Eはちょっとひどい冗談のように聞こえる。必要以上に女性的なデザインと水冷システムというギミックは、望ましい機能より注目を集めるための叫び声のように見える。たぶん、女性のためのスーパーフォンというのはありだが、私は興味が無い。」
このAndroid Policeの記事の引用元は、『The Verge』の下記の記事だ。
NEC knows what women want: a water-cooled smartphone (2013/05/15 The Verge)
ちなみにこのThe Vergeは、NECの2画面折りたたみ式「Medias W N-05E」について、以下のように書いていた。
NEC says two phone screens are better than one with Medias W (2013/01/21 The Verge)
タイトルからして「NECはMedias Wについて電話の画面は1つより2つのほうがいいと言っている」と、人を食ったようなタイトルだ。
そして本文の冒頭。
「世界でもっとも奇妙なデザインの電話を提供することにかけては、いまや日本に頼れるだろう、しかしシャープや富士通のような会社はどこにでもあるようなストレートな平板のAndroidを生産することで落ち着いている。NECに感謝」
本文の末尾。
「これを日本以外で見ることができるだろうか?まずありそうにない。しかしNECは最初に2画面の試作品を発表したときこれを”グローバルモデル”だと確かに呼んだ――輸入業者はしっかり注目したいと思うかもしれない」
NECがグローバルモデルだと言い張るからには、本当に海外市場に輸出するのかどうか、海外の輸入業者は注目したくなるだろう、という意味だ。
さて、水冷CPUのNEC新機種の記事にもどろう。
「私たちは、日本の電子機器メーカーNECがワイルドなデザインの電話(訳注:上記の2画面スマホのこと)を嫌がらないことを既に知っている。しかし、同社は画期的なスマートフォンの機能を発表した。世界最初の水冷CPUだ。」
「では性能上の利点はあるのか?そうとは言い難い。内臓チップ(APQ8064T)は、今日発表されたいくつかのドコモ向け製品を含め、他の多くの電話と同じ1.7GHzだ。クアルコムは1.9GHzまでのクロックアップに対応しているにもかかわらずである。NECによれば、冷却に酔って過熱しがちにならないので、プロセッサがフルパワーでより長く稼働するという。しかしCPUがバッテリー寿命を最適化するために、電力消費を動的に低減しているのに、そういった特定の問題がどれくらいの頻度で起こるのか、興味深いところだ。」
平均的な性能のスマートフォンに、水冷システムを組み込んでいる点に、The Vergeの記者は明らかに懐疑的だ。
さて、日本の電気機器メーカーが、グローバルな観点からしてもおかしくない開発センスを取りもどすのは、いつの日のことだろうか。

GALAPAGOSの失敗、シャープがようやく認める

この「愛と苦悩の日記」に「シャープの電子書籍端末『ガラパゴス』は完全にバカげている」というエッセーを書いたのは、2010/09/28だ。
そのシャープがようやく、失敗を認めたらしい。
「電子書籍端末GALAPAGOSがAndroid 2.3端末に変身!」(2011/07/14 15:19 ASCII.jp)
以下、僕の単なる想像だが、シャープ社内の液晶デバイス開発陣は、液晶テレビ「AQUOS」や亀山の世界ブランド化の成功体験で、社内の政治力学において、営業部門より不当に強い発言力を持ってしまったに違いない。
ところが、液晶テレビがコモディティー化することで値崩れが進み、利益が出なくなった。
その打開策として、開発陣がプロダクト・アウトの発想で、利益率の高い小型液晶を、利益が出る価格で売り出すために開発したのが、電子書籍専用端末のGALAPAGOSだったのではないか。
たまたまアップル社のiPadの登場に合わせて、米アマゾンのキンドル、ソニーのReaderなど、電子書籍を読むためのタブレット型端末が普及し始めたので、それに便乗した。
ただ、汎用的なAndroidタブレットとして販売すると、汎用性のあるiPadとの差別化ができないので、あくまで流通経路の限定された電子書籍や動画コンテンツ専用端末の位置づけとした。
シャープの営業部門は、もしかすると次のように考えたのかもしれない。
日本では米国と異なり、書籍の流通が閉鎖的で、再販制度で書籍の価格が維持されている。そのため、コンテンツをそのまま電子化しても、米アマゾンのキンドルのように、コンテンツの価格を下げないと端末が売れない、ということは起こらないはずだ。
むしろ電子化されることによる検索性の向上や、何千冊もの本を持ち歩けるという利便性を、そのまま端末価格に付加価値として上乗せできると考えたのだろう。
というより、そういう理屈で、シャープの営業部門は、なんとか名誉挽回したい液晶デバイスの開発陣にねじ伏せられたのだろう。
結果は大失敗。iPadは日本では電子書籍端末として売れたのではなく、Twitter(ツイッター)などのソーシャルメディアや、ゲーム、さまざまなアプリを楽しむための端末として売れたのだ。
結局、日本でも米国同様、電子コンテンツが紙のコンテンツより安くなり、消費者が端末の購入代金を、電子コンテンツを購入することで「償却」できるようにならないと、本格的に電子書籍端末は普及しない。
あるいは、iPadやAndroidタブレットのような、汎用性のある端末に、たまたま電子書籍リーダーが入っている、という状態でなければ、誰も電子書籍など読まない。
成功体験に溺れたシャープの液晶デバイスの開発陣には、そういった「当たり前の理屈」が見えなくなっていたのかもしれない。
今回、GALAPAGOSが汎用的なAndroid 2.3タブレットとして使えるようになったことで、シャープはGALAPAGOSを、すでにコモディティー化したAndroidタブレットに対して価格競争力のある、相当安い価格に下げざるを得ないはずだ。
例えば、エイサーの「ICONIA TAB」は、すでにAndroidのバージョンが3.0になっており、価格は実売で35,000円からとなっている。シャープがこの価格でGALAPAGOSを売れば、生産ラインをより人件費の安い国に移さない限り、間違いなく赤字だろう。
シャープさん。ご愁傷さまでした。
*2011/09/15 追記:
僕の予想どおり、このシャープの電子書籍端末「ガラパゴス」は2011/09/15に販売終了が正式アナウンスされた。こちらがシャープの「お知らせ」ページ。もう少し頭を使えばムダな投資をせずにすんだと思うのだが。

SHARP、GALAPAGOS(ガラパゴス)の哀れをもよおすテレビCM

最近やたらとシャープの電子書籍端末「GALAPAGOS(ガラパゴス)」のテレビCMを見かける。CMを見るたびに、ますます何を売りにしたいのか分からなくなる。
ここで言っている「GALAPAGOS」は3G通信非対応、つまり携帯電話として使えない、純粋な電子書籍端末の「GALAPAGOS」のことだ。
テレビCMを見ていると、寝ているあいだに枕元に置いておけば、GALAPAGOS(ガラパゴス)に自動的に新聞や雑誌が配信される、かのように見える。
ホテルの窓際や、ダイニングの食卓に置いておけば、勝手に新聞や雑誌や書籍が入ってくる、かのように見える。
このCMを見て、これはカンタン便利だと勘違いしてしまう人は、間違いなくITに詳しくない人だ。
カンタン便利だと思って家電量販店に行き、「GALAPAGOSを下さい!」と店員に言った瞬間から、なかなか厳しい日々が始まる。
まずは、「え?いま持って帰れないんですか?」という事実につまずく。いちいちインターネット経由などで申し込みをして、製品が届くまで待たなきゃいけない。
そして、いざ製品が届いてから、初期設定をしようとして気づく。
「無線LAN?」
じつは自宅のインターネット回線を無線LAN化するという作業を、まずやっておく必要があることに気づく。ITに詳しくない人が、製品が届いてからそのことに気づく可能性は十分ある。じっさいは量販店の店員が説明しているはずだが。
仮に親切な店員が無線LANが必要だということを、ていねいに説明してくれたとしても、疑問が残る。
携帯電話みたいに電波を拾えばいいじゃないか。どうしてわざわざ無線LANの機械を購入する必要があるんだ?それに、どうやって無線LANの機械を設定すればいいんだ?
そして家電量販店の無線LANのコーナーに行ってみると、さまざまなメーカーの、さまざまな種類の機器がズラリとならんでいる。
「今まで壁の挿し込み口に、パソコンからネットワークの線を直接つないでいたのに、その口に無線LANの機械をつないでしまうと、パソコンでインターネットが見られなくなるじゃないか」などなど…。
正しくは無線LAN「ルーター」を買わなければいけないのに、間違ってただのHUBや、無線LANの子機や、USB機器を無線化するアダプタを、間違って買ってしまうかもしれない。
なんとか無線LANルーターを購入できたとしても、最低限のIPアドレスの知識がないと、無線LANルーターの管理画面にたどりつけないかもしれない。
説明書どおりに設定できたとしても、お隣さんや、道行くモバイラーにかんたんにタダ乗りされたり、最悪の場合、設定変更されるような設定にしてしまうおそれもある。
たとえば、無線LANルーターの管理者用パスワードを、初期値のままだったり、「1234」にしてしまうなど。
なんとか無線LANルーターの設定ができても、GALAPAGOS(ガラパゴス)端末をルーターに無線で接続する設定ができるかどうかが、また別の関門になる。
シャープがYouTubeで公開している動画は、AOSSの自動設定について説明しているが、AOSS非対応の無線LANを買ってしまったら、「このAOSSってのは何なんだ」ということになる。
長々と説明したが、あのテレビCMを見てGALAPAGOS(ガラパゴス)に飛びつく程度に、ITに詳しくない人たちが、果たして自宅の無線LAN構築から、GALAPAGOS(ガラパゴス)をWiFi端末として認識させるところまで、すんなりとできるだろうか。
さらに言えば、仮に家庭内の接続には成功したとしても、テレビCMにあったように、出張先の海外のホテルで日本の新聞を読むために、自宅とはまったく違う環境で、すんなりGALAPAGOS(ガラパゴス)を無線LANに接続できるだろうか。
海外のホテルの無線LANはAOSSではないかもしれない。Yahoo!BBのWiFiサービスのように、いったんウェブブラウザの認証画面から、ホテルが指定したユーザ名とパスワードでログインする必要があるかもしれない。
そもそもITに詳しい人なら、GALAPAGOS(ガラパゴス)のような汎用性のない電子書籍端末より、間違いなくiPadやGalaxy Tabなど、汎用性のあるタブレットを選ぶだろう。
百歩ゆずって、IT知識のない人が苦心してGALAPAGOS(ガラパゴス)の設定に成功したとしよう。その次に来るのは、「金がかかるじゃないか!」という不満だ。
今までパソコンや携帯電話で、タダでYahoo!ニュースや、各大手新聞社のニュースを読めていたのに、どうして電子機器でニュースを読むのに購読料を払わなければいけないのか。
書籍や雑誌にしても、紙の本より大幅に安いならまだしも、値段があまり変わらない上に、一覧性の悪い小さな画面で読むことになる。
電子版の雑誌で、写真は固定されて本文だけスクロールする、なんていう小技をつかわれても、紙の一覧性にくらべれははるかに劣る。
また、女性の利用者が、ファッション雑誌を買うとき、印刷版より電子版を好んで買うなどいうことがあるだろうか。
光沢紙に印刷された紙面の美しさや、ページを切り取って保管できること、そして最近のファッション誌のように、手にとれるオマケがあってこそのファッション誌だろう。
いくらテレビCMに、GALAPAGOS(ガラパゴス)を会議室で自慢気に見せる女子社員を登場させても、汎用性のないGALAPAGOS(ガラパゴス)を買う顧客層はきわめて限られるだろう。
iPadでさえ、購入して数週間は外へ持ち出し、友だちに自慢したりしていたが、そのうち使い道がなくなって、ホコリをかぶる例が多いらしい。
iPadのように自由にアプリを選んで、追加インストールできないGALAPAGOS(ガラパゴス)は、なおさらそういった例が多くなるに違いない。
しばらくテレビでGALAPAGOS(ガラパゴス)のCMを目にすることになるだろうが、他のシャープ製品のCMと違って、哀れをもよおすCMになることは間違いない。
*2011/09/15 追記:
僕の予想どおり、このシャープの電子書籍端末「ガラパゴス」は2011/09/15に販売終了が正式アナウンスされた。こちらがシャープの「お知らせ」ページ。もう少し頭を使えばムダな投資をせずにすんだと思うのだが。
>>「シャープの電子書籍端末『ガラパゴス』は完全にバカげている」(2010/09/28)
>>「続・シャープの電子書籍端末『ガラパゴス』は完全にバカげている」(2010/12/14)
>>「SHARP、GALAPAGOSが海外展開するというアホらしさ」(2010/12/31)
>>「SHARP、GALAPAGOSをインドやアフリカの電子教科書に!?」(2011/01/03)
>>「電子書籍なんて、やめてしまえばいい」(2011/01/25)
>>「著作権保護つき電子書籍の普及は、弱者から本を奪う」(2011/02/02)
>>「電子書籍端末って、一体だれが、どこで使うの?」(2011/02/04)

「Life is beautiful」のAppleとAndroidに関する記事

AppleとAndroidについて興味深いブログ記事を見つけた。
「なぜ横並びで展示されるAndroidタブレットを作ってもだめなのか」(ブログ『Life is beautiful』2011/01/17の記事)
ターゲットや付加価値や差別化要素がはっきりしないAndroid携帯やAndroidタブレットを、各社横並びで作ってもだめで、iPhoneやiPadの優位性は変わらない、という主旨の記事だと理解した。
ハードウェアメーカーとしてのAppleの付加価値の優位性は、売上高より利益の絶対値を見れば分かる、というわけだ。
まったくその通りだと思う。
しかし、この『Life is beautiful』の記事の筆者は、ではなぜApple社がそれだけの付加価値の創出や差別化に成功したのかについて、適切に論じていない。
ヒットチャートに例えて言えば、このブログ『Life is beautiful』の筆者は、チャートで10位より下の曲には付加価値がないので、リリースする意味がないと言っているに等しい。
しかし、ヒットチャートが成立するのは、無数の失敗曲があるからこそだ。10位より下の曲がなければ、ヒットチャートのトップ10入りが「すばらしい」という世間的評価そのものが成り立たない。
PC事業で言えば、収益性で成功する企業があるのは、収益性で失敗した企業が無数に存在するからこそだ。仮に成功企業しか存在しない状態を是とするなら、世の中のすべての製品は独占状態におちいることになる。
なぜ、Apple社が付加価値の創出や差別化に成功したのか?
それは、他の一部のPCハードウェアメーカー(HPやDELL)が、Appleのマネをして、付加価値の創出や差別化を目指していてはAppleに対抗できないと判断し、オペレーションの効率性を目指すという、別の目標を採用したからだ。
さらに、その他すべてのPCメーカー、たとえば、すでにPC生産から撤退したIBMや、PC事業単体で利益を挙げられない日本メーカーが、そのような対抗戦略をとれず、ただ単に失敗したからだ。
当たり前のことだが、PC事業を全体として見たとき、成功した企業がいれば、必ず失敗した企業がいる。誰かの失敗がなければ、誰かの成功はありえない。
したがって、横並びのAndroidタブレットを作るべきではないと論じるのは、端的に間違っている。
逆に、各社は横並びのAndroidタブレットをどんどん作って、Androidタブレット市場の内側で、いったい何が勝敗を決める基準になるかをあぶり出すべきなのだ。
たとえば、僕はこの「愛と苦悩の日記」で、シャープの電子書籍端末「GALAPAGOS」や、NECの「Smartia」というAndroidタブレットを、けちょんけちょんに批判している。
これら製品のように、各社がさまざまなとんでもないAndroidタブレットを発売すればするほど、どうすれば成功し、どうすれば失敗するかが明らかになる。
結果として、何をやってはいけないかが分かり、Androidタブレット市場の内部で、何が優位性や高収益性につながるか、集団的な学習が進む。
そうすれば、PC市場で、最終的にDELLがオペレーションの効率性という一つの成功パターンを見出したように、Androidタブレット市場で、Apple製品に対抗できるビジネスモデルが見つかる。
それが競争による淘汰というものだ。
なので僕らは、上述のブログ『Life is beautiful』の筆者の言う「逃げ切りメンタリティ」に犯された日本のメーカーの経営陣が、ヘボい横並びAndroidタブレットをつぎつぎ発売するのを、大歓迎すべきなのだ。
と同時に、それらのタブレットを、具体的に、けちょんけちょんに批判することで、Androidタブレット市場の議論を活性化すべきなのだ。
もう一つ言えるのは、生産者側の理屈と、購買者側の理屈は違うという点を、上述のブログ『Life is beautiful』の筆者は見逃している。
確かに生産者側の立場で、Apple的価値観から見れば、Windowsパソコンなんてハードウェア的には横並びで陳腐な製品群かもしれない。
しかし、その陳腐さや個性のなさのおかげで、企業の購買担当者からすれば、納入業者をたがいに競争させて買い叩き、業務用パソコンの調達コストを抑えることができたわけだ。
もしこれが、横並びで比較できない、個性的なパソコンしか市場にないとなれば、どのパソコンを選択するかが、社内の業務プロセスや、取引先との情報のやりとりにまで影響をおよぼすことになる。
差別化要素がなく没個性的であることは、購入する側の企業にとっては、Apple製のパソコンに対する、まったく別の意味での「差別化要素」になっているのだ。
ブログ『Life is beautiful』の筆者は、ここまで深く考えていないのか、あえて浅薄な考えを披露することで議論を呼びこもうとしているのか。
いずれにせよ、ブログ『Life is beautiful』の筆者のAndroidタブレットに対する考え方は、個性を伸ばす教育を無条件に称賛し、そのような教育を成立させている環境的な条件を見ない、ナイーブな教育論を思い出させる。

Appleの競争力と商業音楽の関係について

今さらながら、ふとしたことから、Apple製品の競争力の源泉について考えさせられた。
ご承知のように、MacintoshやiPhoneなどのApple製品は、ふつうの会社員よりも、クリエイティブな仕事をしている人たち、ミュージシャン、イラストレーター、ディレクターなどに圧倒的に人気がある。
それは、単にApple製品のデザインが、たとえばWindowsパソコンの大多数が無骨なのに比べて、洗練されているからだと思っていたが、もっと本質的な理由があるんじゃないかと気づいた。
それは、競争がないことだ。
最近、スマートフォンの分野でグーグルのアンドロイドOSが、急速にシェアを伸ばしているが、WindowsパソコンとMacintosh、そして、Android端末とiPhoneを比較すると、Apple製品はつねに競争がないところで一定のシェアを確保していることがわかる。
Windowsパソコンはハードウェアの規格が、Android端末はOS(基本ソフト)と対応ハードウェアの規格が公開されているので、世界中の無数のメーカーが参入して製品を発売し、価格面や性能面など、いろいろな点の優位性を競う激しい競争が起きる。
一方、Macintoshは少なくともハードウェアの規格は、OSがUnixベースになり、インテル製CPUに対応するまでは、非公開だったし、iPhoneはOSもハードウェアも規格は非公開だ。(もちろんアプリケーション開発の規格は公開されているが)
なので、Appleが独占的に製造でき、同じ規格の中での競争にさらされることがない。
競争がないので、製品コンセプトやデザインを、Apple社の思うままにできるのは、ある意味、当然だ。
iPhoneのヒットは、iPodのヒットがあってこそで、さらにそれはMacintoshのヒットがあってこそだが、MacintoshがWindowsパソコンに完全に淘汰されることがなかった点は、たしかにApple社のマーケティングの勝利だろう。
そしてそのマーケティングの根っこにある思想は、「同じ規格内での競争をしなくてよい創造性」というようなものだったに違いない。
この「同じ土俵で競争しなくていい創造性」という思想は、創造性より効率性が求められるふつうの会社員にはまったく無縁だが、創造性や個性そのものを売りにして生活しているクリエイターたちには、ぴったり来るものだったはず。
だからApple製品はクリエイターたちの根強い支持を得て、その思想がiPod、iPhoneと受け継がれ、市場全体で見ても確実に一定のシェアを確保しつづけることができたのだろう。
どうしてこんなことを今さら考えさせられたのかと言うと、商業音楽(ポップスも演歌も含む)のクリエイターは、クラシック音楽の担い手たちと比べたとき、「競争のない創造性」という思想が当てはまるだろうかと、ふと疑問に思ったからだ。
商業音楽に競争がない、なんてことはない。CDやコンサートのチケットが、少なくとも創り手の再生産を支えるだけの売上をあげなければ、商業音楽は成り立たない。
それだけの売上をあげるためには、他の商業音楽との競争で勝たなければいけない。
だから商業音楽にはヒットチャートというものが存在する。ふつうの産業製品と同じように、商業音楽は音楽としての良し悪しとは無関係に、商品として、数量や金銭という一つのモノサシで比較される。
なので、いくら音楽の聴き手の耳がヒドくても、聴き手の音楽に対する考え方がお話にならなくても、商業音楽の創り手は聴き手に「媚び」を売らなければならない。
一定数の聴き手を獲得できなければ、商業音楽は成り立たないからだ。
逆に言えば、聴き手に媚びず、送り手側の妥協のない創造性だけで商業音楽は成り立つと勘違いしたが最後、それは商業音楽にとって自殺行為になってしまう。
ただ、一つだけ可能性があって、商業音楽の世界にもApple社のようなスタンスが安定して存在するかもしれない、ということだ。つまり、「競争のない創造性」を体現できる立ち位置が。
しかし、Apple社のスタンスが安定して成立するには、「規格の非公開」という大前提が必須だった。果たして商業音楽を作るときに、規格を非公開にすることなどできるだろうか。
このテーマについては、まだいろいろと考えることができると思うが、この記事はこの辺でおしまい。