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シャープの轍を踏む東芝の「BookPlace」

東芝が発売する電子書籍端末「BookPlace DB50」、この強い既視感はいかんともしがたい。
シャープが芥川賞作家の平野啓一郎を招いて、電子書籍端末「GALAPAGOS」を大々的に発表したのは2010/11/29のことだった。
『シャープ、作家の平野啓一郎氏を招き「GALAPAGOS」イベントを開催』(2010/11/29 PC Watch)
正確にはもう少し前に「GALAPAGOS」は発売されていたが、それを平野啓一郎という若手純文学作家をダシに、端末機器の性能だけでなく、配信されるコンテンツ面からも力を入れますよ、というシャープのアピールだったと思われる。
しかし、純粋な電子書籍端末としての「GALAPAGOS」が大失敗に終わったのは、周知の事実だ。
そして東芝は、あれから1年強しか経っていないのに、同じ過ちをくり返そうとしている。
『東芝、電子書籍専用端末「BookPlace DB50」リリースの理由』(2012/01/26 19:00 IT Media)
さすがに純文学作家の平野啓一郎では、「平野啓一郎。誰それ?」という一般人に訴求しないと思ったか、「キレイどころ」の東京大学卒女性タレント・三浦奈保子と、より柔らかい作風の大衆小説家・井沢元彦の二人をそろえた。
東大卒の女性タレントと大衆小説家をゲストに呼ぶ時点で、すでに「電子書籍はコンテンツ次第で端末機器はどーでもいい」ということを、東芝は完全に見誤っている。
まず、この「BookPlace DB50」が情報端末としてどこまでのことができるかは、以下のGIGAZINEの記事が詳しい。
『東芝の電子ブックリーダー「ブックプレイス(BookPlace)DB50」で何ができるかまとめ』(2012/01/26 15:46:17 GIGAZINE)
Android端末としては使えないので、せっかくのWSVGA液晶やmicroSDカードスロットが、ほぼ完全にムダなスペックであることがわかる。まさにシャープが大失敗した最初の「GALAPAGOS」と同じ考え方で作られた製品だ。
では東芝は何で差別化しようとしているのかといえば、価格であって、価格しかない。
実売価格はネットの各種記事によれば22,000円前後になり、BookPlace専用の電子書籍販売サイトの5000円分ポイントが付いてくるらしい。それでも米国Kindle Fireより高い。
しかし、そもそもシャープの「GALAPAGOS」が大失敗し、ソニーの「Reader」がヒットしない根本原因は、価格ではない。日本の書籍流通が旧態依然たる構造になっていて、電子化される書籍にろくな本がないからだ。
「GALAPAGOS」発売のときにも同じことを書いたような気がするのだが、ゴミみたいな本しか読めないことはBookPlace専用のコンテンツ販売サイトに接続して、例えば「文学」や「ビジネス・社会・IT」、「ノンフィクション・ドキュメンタリー」をクリックしてみるといい。
まず、池田信夫氏に敬意を表して池田信夫著の書籍を検索すると、4件しか出てこない。あの多作の宮台真司にいたってはたったの5件。なんじゃこれは。
しかも、例えば最近、書店で平積みになっている池田信夫氏の新刊『イノベーションとは何か』は1,600円。
Amazon.co.jpで紙の『イノベーションとは何か』を注文すれば2,100円で翌日に届き、読み終わったら同じくAmazon.co.jpで古書として売り払えば、差し引き実質500円くらいで読めるだろう。ブックオフに売っても実質1,500円くらいでは読めるはずだ。
それに対して、BookPlaceで同書を購入してしまうと1,600円かかり、古書として売りさばくことさえできないどころか、自分のPCやスマホで読むことさえできない。
同じことは、現在日本国内で販売されている全ての電子書籍端末に当てはまる。この状況で電子書籍を購入する人は、金があり余ってどうしようもない人か、経済観念のまったくない人だろう。
いい加減、シャープ、東芝、ソニーなどなど、国内の電機メーカーは、日本国内の紙の書籍流通の現状を無視して、電子書籍がビジネスとして成立するという大いなる勘違いをし続けるのはやめたらどうか。

CEATEC JAPAN 2010:中核事業に集中できない日本メーカーの愚

今日はCEATEC JAPAN 2010の無料入場日だったので見学に行ってきた。
シャープの電子書籍端末「ガラパゴス」、同じくシャープが製造してKDDIから発売されるAndroid OSスマートフォン、各社の3Dテレビなどなど、今話題の消費者向け家電・情報機器がいろいろ展示されていた。
まずシャープの「ガラパゴス」と、東芝のAV機器・情報端末向けクラウドサービス「Regza Apps Connect」を見て、なぜ日本メーカーは懲りずに自社独自規格のサービスをやりたがるのだろうかと、疑問に感じずにいられなかった。
シャープの電子書籍端末「ガラパゴス」については先日、この「愛と苦悩の日記」で書いたとおりだ。
『シャープの電子書籍端末「ガラパゴス」は完全にバカげている』(2010/09/28)
いくらTSUTAYAと提携して書籍・動画コンテンツを提供する流通経路を確保したところで、著作権保護がガチガチにかかっており、「ガラパゴス」を使わなければ閲覧できないなら、そんなコンテンツは無数のウェブサイトや、USTREAM、YouTubeといった動画サイトで、無料で提供されているコンテンツに比べれば何の魅力もない。
端末自体に可搬性があっても、例えばダウンロードしたコンテンツを、自分のパソコンに私的利用目的に限って自由にコピーできるなど、コンテンツ自体に「可搬性」がなければ、この種のコンテンツ閲覧用端末は、存在自体が無意味なのだ。
新しもの好きが物珍しさに購入して、遠からず放置される運命にある。それはこれまで登場した電子書籍端末と何ら変わりない。
コンテンツの可搬性を劇的に高める、著作権管理についての大胆な制度変更をしない限り、いくらセンセーショナルに売り出したところで、「ガラパゴス」のような電子書籍閲覧端末は必ず不発に終る。必ず、である。
東芝の「Regza Apps Connect」も、「懲りないなぁ」としか言いようがない。
iPhoneなどのスマートフォンに、東芝のHDDレコーダーや液晶テレビを制御できるアプリを無償提供し、例えば録画しておいたサッカーの試合のハイライトシーンに、自分で「しおり」(タグ)を設定できるらしい。
そしてそのタグの情報を、東芝の提供するクラウドサービスに送信することで、東芝のHDDレコーダー利用者どうしで、そのサッカーの試合の「名場面集」を共有できる。
こういった使い方を想定したのが東芝の「Regza Apps Connect」らしい。詳細は下記の記事を参照のこと。
『「Regza Apps Connect」はテレビの“サードインパクト” - 東芝・片岡氏に聞くクラウドテレビ構想のねらい』(ファイル・ウェブ 2010/10/04付け記事)
しかし、東芝のHDDレコーダーを使っており、かつ、iPhoneまたはAndroidまたはWindows Mobile搭載スマートフォンを使っており、かつ、同じ番組を録画する人間が、世界中にいったい何人いるというのか(東芝はこのサービスを欧米でも展開するらしいので)。
また、英語の出来ない日本人が日本語で名前をつけたタグは、正確な自動翻訳機能が存在しない限り、欧米人にはちんぷんかんぷんだ。英語のできない欧州人もたくさんいる。
大々的にクラウドサービスと謳い上げるのはいいが、あまりに想定できる利用者の母数が少なすぎて、こんなものが東芝の液晶テレビ、HDDレコーダー、ダイナブックを購入する動機づけになる訳がないではないか。
もっと言えば、ニコニコ動画のコメント機能は、まさに「Regza Apps Connect」がやろうとしている、同じ番組に視聴者がよってたかってタグを付けるというサービスそのものではないか。
東芝はニコニコ動画ですでに実現されている、今やごく当たり前になったオンライン・コンテンツの楽しみ方を、わざわざ東芝製品という縛りを付けることで、台無しにしようとしているに過ぎない。
ソニーを唯一の例外として、やっぱり日本の家電メーカーはハードウェア・メーカーとしての固定的な発想から、絶望的なほど抜け出せていないのだ。
東芝が売りにできるのは、専用のメガネを使わずに立体視を実現した液晶テレビの、超高性能な画像処理演算装置を開発した、優秀な技術力であって、決してニコニコ動画の二番煎じのクラウドサービスなどではないはずだ。
中核となる競争力のないところに経営資源を投入するのは、明らかに経営効率が悪い。だから日本企業はいつまでたっても、従業員は一流なのに経営は三流だと言われるのだ。
10年ほど前からCEATECをほぼ毎年見ていると、そう感じざるを得ない。