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GALAPAGOSの失敗、シャープがようやく認める

この「愛と苦悩の日記」に「シャープの電子書籍端末『ガラパゴス』は完全にバカげている」というエッセーを書いたのは、2010/09/28だ。
そのシャープがようやく、失敗を認めたらしい。
「電子書籍端末GALAPAGOSがAndroid 2.3端末に変身!」(2011/07/14 15:19 ASCII.jp)
以下、僕の単なる想像だが、シャープ社内の液晶デバイス開発陣は、液晶テレビ「AQUOS」や亀山の世界ブランド化の成功体験で、社内の政治力学において、営業部門より不当に強い発言力を持ってしまったに違いない。
ところが、液晶テレビがコモディティー化することで値崩れが進み、利益が出なくなった。
その打開策として、開発陣がプロダクト・アウトの発想で、利益率の高い小型液晶を、利益が出る価格で売り出すために開発したのが、電子書籍専用端末のGALAPAGOSだったのではないか。
たまたまアップル社のiPadの登場に合わせて、米アマゾンのキンドル、ソニーのReaderなど、電子書籍を読むためのタブレット型端末が普及し始めたので、それに便乗した。
ただ、汎用的なAndroidタブレットとして販売すると、汎用性のあるiPadとの差別化ができないので、あくまで流通経路の限定された電子書籍や動画コンテンツ専用端末の位置づけとした。
シャープの営業部門は、もしかすると次のように考えたのかもしれない。
日本では米国と異なり、書籍の流通が閉鎖的で、再販制度で書籍の価格が維持されている。そのため、コンテンツをそのまま電子化しても、米アマゾンのキンドルのように、コンテンツの価格を下げないと端末が売れない、ということは起こらないはずだ。
むしろ電子化されることによる検索性の向上や、何千冊もの本を持ち歩けるという利便性を、そのまま端末価格に付加価値として上乗せできると考えたのだろう。
というより、そういう理屈で、シャープの営業部門は、なんとか名誉挽回したい液晶デバイスの開発陣にねじ伏せられたのだろう。
結果は大失敗。iPadは日本では電子書籍端末として売れたのではなく、Twitter(ツイッター)などのソーシャルメディアや、ゲーム、さまざまなアプリを楽しむための端末として売れたのだ。
結局、日本でも米国同様、電子コンテンツが紙のコンテンツより安くなり、消費者が端末の購入代金を、電子コンテンツを購入することで「償却」できるようにならないと、本格的に電子書籍端末は普及しない。
あるいは、iPadやAndroidタブレットのような、汎用性のある端末に、たまたま電子書籍リーダーが入っている、という状態でなければ、誰も電子書籍など読まない。
成功体験に溺れたシャープの液晶デバイスの開発陣には、そういった「当たり前の理屈」が見えなくなっていたのかもしれない。
今回、GALAPAGOSが汎用的なAndroid 2.3タブレットとして使えるようになったことで、シャープはGALAPAGOSを、すでにコモディティー化したAndroidタブレットに対して価格競争力のある、相当安い価格に下げざるを得ないはずだ。
例えば、エイサーの「ICONIA TAB」は、すでにAndroidのバージョンが3.0になっており、価格は実売で35,000円からとなっている。シャープがこの価格でGALAPAGOSを売れば、生産ラインをより人件費の安い国に移さない限り、間違いなく赤字だろう。
シャープさん。ご愁傷さまでした。
*2011/09/15 追記:
僕の予想どおり、このシャープの電子書籍端末「ガラパゴス」は2011/09/15に販売終了が正式アナウンスされた。こちらがシャープの「お知らせ」ページ。もう少し頭を使えばムダな投資をせずにすんだと思うのだが。

著作権保護つき電子書籍の普及は、弱者から本を奪う

電子書籍について、Apple社がソニーのiOS用Readerアプリを、App Storeに登録すすることを拒否したらしい。
I heard that Apple rejected the registration of Sony’s Reader to App Store.
「アップルが iPhone版 ソニー Reader アプリを却下、独自ストアを締め出し?」(『エンガジェット・ジャパン』2011/02/01 07:45)
“Apple rejects Sony Reader app, really doesn’t want you buying content from others (update: Apple says it needs official in-app purchases)” (ENGADGET Feb 1st, 2011 12:39PM)
個人的な推測だが、AppleはAmazonなど、他社の独自ストアまで締めだすつもりはなく、ソニーが自社レーベルの楽曲をiTunes Storeに提供していないことを、根に持っているだけじゃないかと思うのだが。
I personally suppose Apple has no intention to reject other stores such as Amazon’s digital book store for Kindle. Apple simply doesn’t like Sony because Sony doesn’t sell their music on iTunes.
まあ、それはどうでもいいとして…。
Anywhere, that’s none of my business…
電子書籍について、シャープがGALAPAGOS(ガラパゴス)みたいなものに、開発費や広告宣伝費を投じるなんてバカげていると考えるうちに、次のような疑問が浮かんだ。
When I was thinking why Sharp learns too slowly to stop spending shareholders’ money on advertising and improving their proprietary digital book reader ‘GALAPAGOS’, an idea came to me.
電子書籍図書館というものができたら、著作権法違反になるのではないか?
digital book libraries might be involved in a lawsuit because of copyright infringement.
電子書籍には「古本」市場がないのではないか?
There might be no used book stores for digital books.
読み終わった電子書籍は、寄付することができないのではないか?
After I finish reading digital books, I might not be able to donate them.
極端な話、世の中のすべての本や雑誌が、クレジットカード決裁のオンライン・ストアでしか買えない電子書籍になると、クレジットカードを持てない「貧しい」人たちは本を読めなくなる。
In an extreme case, if all books in the world go electronic which can be bought only with credit card, the poor who can’t hold credit card will no be able to read any books.
そこまで行かなくても、いったい図書館というものはどうなるのか。
Even not in an extreme case, what will the future of library look like?
自分で決済手段を持てない子どもたちや、貧しい人たちは、紙の本であれば、たとえ一冊1万円近い専門書でも、図書館から無料で借り出して学ぶことができる。
Children and poor people who don’t have their own way of online payment can borrow even expensive books from libraries in the real world.
読み終わった本を図書館などに寄付することで、図書館は図書購入費をわずかでも節約できるかもしれない。
If people donate the books they finish reading, the libraries can reduce purchase cost a little.
本や雑誌が電子化された後も、図書館という無料貸し出しモデルを維持しようと思えば、端末ごと無料で貸し出す必要があるだろう。
If libraries want to continue lending out books for free even after many books go digital, they also have to lend e-book readers for free.
でも、よほど端末の価格が下がらない限り、端末も無料で貸し出すのは、図書館にとって運営リスクが高すぎるだろう。
However, lending digital devices for free is too risky for the libraries from the viewpoint of operational cost, unless such devices get cheaper enough.
例えば、今や性能の低いノートパソコンは1万円以下で手に入るが、館外持ち出し可のノートパソコンを準備している図書館なんてあるだろうか。
For example, low-spec laptop PCs already cost only 100 dollars or so, but we can’t find libraries which lend laptop PCs for free, at least in Japan.
それに、「まねきTV」の判例などを見ると、図書館が大量の電子書籍端末を、任意の電子書籍を読める状態で保管し、任意の利用者に貸し出せるようにすれば、著作権法違反になるのではないか。
In addition, there was a surprising subrime court decision in Japan. It says a company called Maneki TV infringes the copyright of television stations because this copany helps customers to watch Japanese domestic television programs in another country by using Sony’s device called ‘Location Free’.
善意の図書館と、悪意の「図書館」を技術的に分類するには、日本だけでなく、世界で統一された著作権管理の規格が必要になるだろう。ネット上の図書館には国境などない。
We will need global standard for managing copyrights in order to distinguish ‘good’ libraries from ‘bad’ libraries because the online libraries is borderless.
だが、電子書籍の販売がビジネスである以上、規格どうしの競争がつづき、世界統一規格など望むべくもない。
As long as selling digital books is a pure business, the competition among different technologies for managing copyrights will go on. Why can we expect the one and the only standard technology for managing copyrights?
また、古本の流通がなくなってしまうと、やはり経済的な弱者が読書の機会を奪われることになる。
Another problem is the vanishment of used book market. This also deprives poor people of opportunities of reading expensive books.
今までなら、値段の高い本でも、古本なら何とか買えるということで、手に入ったかもしれない。
Even poor people can buy expensive books for the time being because there are used book markets.
しかし、電子書籍は物理的に劣化しないので、「古本」という概念そのものがなくなる。値段を下げて売る根拠がなく、すべての電子書籍は「新品」だ。
However, digital books will never deteriorate. There can’t be any “used digital books”. There is no reason for discounting digital books even if read thousands of times. Every digital book is “new”.
このように電子書籍は、経済弱者から教育の機会を奪い、経済格差による教育の格差をいま以上に拡大させるおそれがある。
As you can see, digital books might deprive the poor people of educational opportunity and produce the widening disparity of education caused by economic inequality.
書籍の権利者が、電子書籍の著作権管理を厳しくすればするほど、経済弱者から学習の機会を奪うことになる。
The more strictly the copyright holders manage their copyrights, the less opportunities the poor people will have.
もちろん、逆にインターネットを通じてタダで手に入る知識や情報も増えているが、それにしてもインターネットをいつでも使えることが前提だ。
Of course, the Internet provides more and more knowledge and information for free on the asumption that the users can access the Internet anytime.
著作権管理のシステムや、クレジットカード決裁、特定のウェブサイトへの登録など、電子書籍を使うためのしきいを上げれば上げるほど、そもそも活版印刷が人間に何をもたらしたのか、という話になる。
If the prerequisites for using digital books continue increasing, e.g. copyright management systems, credit card payment and registration to the vendor’s website, why did the human-being invent movable types?
活版印刷によって、それまで一部のエリートしか手に入れられなかった知識を、より多くの人たちに伝えることができるようになった。
Movable type has made it possible that more and more people can access to the knowledge and information which only elites was able to access before.
ところが、電子書籍の普及によって、逆に電子書籍化された知識が、経済的に豊かだったり、IT知識のある人たちだけのものになるなら、いったい何のために活版印刷で情報を大量に印刷できるようにしたのか。
If the digital books encourage the monopoly of digital knowledge, why did we facilitate information exchange by inventing the movable type?
経済弱者やIT弱者は、電子書籍が自分たちの手に落ちてくるまで、指をくわえて見ていろ、ということなのだろうか。
Do the poor and IT illiterate people have to wait with envy until cheap digital books and e-book readers drop into their hands?
>>「シャープの電子書籍端末『ガラパゴス』は完全にバカげている」(2010/09/28)
>>「続・シャープの電子書籍端末『ガラパゴス』は完全にバカげている」(2010/12/14)
>>「SHARP、GALAPAGOSが海外展開するというアホらしさ」(2010/12/31)
>>「SHARP、GALAPAGOSをインドやアフリカの電子教科書に!?」(2011/01/03)
>>「電子書籍なんて、やめてしまえばいい」(2011/01/25)
>>「SHARP、GALAPAGOS(ガラパゴス)の哀れをもよおすテレビCM」(2011/02/01)
>>「電子書籍端末って、一体だれが、どこで使うの?」(2011/02/04)

SHARP、GALAPAGOS(ガラパゴス)の哀れをもよおすテレビCM

最近やたらとシャープの電子書籍端末「GALAPAGOS(ガラパゴス)」のテレビCMを見かける。CMを見るたびに、ますます何を売りにしたいのか分からなくなる。
ここで言っている「GALAPAGOS」は3G通信非対応、つまり携帯電話として使えない、純粋な電子書籍端末の「GALAPAGOS」のことだ。
テレビCMを見ていると、寝ているあいだに枕元に置いておけば、GALAPAGOS(ガラパゴス)に自動的に新聞や雑誌が配信される、かのように見える。
ホテルの窓際や、ダイニングの食卓に置いておけば、勝手に新聞や雑誌や書籍が入ってくる、かのように見える。
このCMを見て、これはカンタン便利だと勘違いしてしまう人は、間違いなくITに詳しくない人だ。
カンタン便利だと思って家電量販店に行き、「GALAPAGOSを下さい!」と店員に言った瞬間から、なかなか厳しい日々が始まる。
まずは、「え?いま持って帰れないんですか?」という事実につまずく。いちいちインターネット経由などで申し込みをして、製品が届くまで待たなきゃいけない。
そして、いざ製品が届いてから、初期設定をしようとして気づく。
「無線LAN?」
じつは自宅のインターネット回線を無線LAN化するという作業を、まずやっておく必要があることに気づく。ITに詳しくない人が、製品が届いてからそのことに気づく可能性は十分ある。じっさいは量販店の店員が説明しているはずだが。
仮に親切な店員が無線LANが必要だということを、ていねいに説明してくれたとしても、疑問が残る。
携帯電話みたいに電波を拾えばいいじゃないか。どうしてわざわざ無線LANの機械を購入する必要があるんだ?それに、どうやって無線LANの機械を設定すればいいんだ?
そして家電量販店の無線LANのコーナーに行ってみると、さまざまなメーカーの、さまざまな種類の機器がズラリとならんでいる。
「今まで壁の挿し込み口に、パソコンからネットワークの線を直接つないでいたのに、その口に無線LANの機械をつないでしまうと、パソコンでインターネットが見られなくなるじゃないか」などなど…。
正しくは無線LAN「ルーター」を買わなければいけないのに、間違ってただのHUBや、無線LANの子機や、USB機器を無線化するアダプタを、間違って買ってしまうかもしれない。
なんとか無線LANルーターを購入できたとしても、最低限のIPアドレスの知識がないと、無線LANルーターの管理画面にたどりつけないかもしれない。
説明書どおりに設定できたとしても、お隣さんや、道行くモバイラーにかんたんにタダ乗りされたり、最悪の場合、設定変更されるような設定にしてしまうおそれもある。
たとえば、無線LANルーターの管理者用パスワードを、初期値のままだったり、「1234」にしてしまうなど。
なんとか無線LANルーターの設定ができても、GALAPAGOS(ガラパゴス)端末をルーターに無線で接続する設定ができるかどうかが、また別の関門になる。
シャープがYouTubeで公開している動画は、AOSSの自動設定について説明しているが、AOSS非対応の無線LANを買ってしまったら、「このAOSSってのは何なんだ」ということになる。
長々と説明したが、あのテレビCMを見てGALAPAGOS(ガラパゴス)に飛びつく程度に、ITに詳しくない人たちが、果たして自宅の無線LAN構築から、GALAPAGOS(ガラパゴス)をWiFi端末として認識させるところまで、すんなりとできるだろうか。
さらに言えば、仮に家庭内の接続には成功したとしても、テレビCMにあったように、出張先の海外のホテルで日本の新聞を読むために、自宅とはまったく違う環境で、すんなりGALAPAGOS(ガラパゴス)を無線LANに接続できるだろうか。
海外のホテルの無線LANはAOSSではないかもしれない。Yahoo!BBのWiFiサービスのように、いったんウェブブラウザの認証画面から、ホテルが指定したユーザ名とパスワードでログインする必要があるかもしれない。
そもそもITに詳しい人なら、GALAPAGOS(ガラパゴス)のような汎用性のない電子書籍端末より、間違いなくiPadやGalaxy Tabなど、汎用性のあるタブレットを選ぶだろう。
百歩ゆずって、IT知識のない人が苦心してGALAPAGOS(ガラパゴス)の設定に成功したとしよう。その次に来るのは、「金がかかるじゃないか!」という不満だ。
今までパソコンや携帯電話で、タダでYahoo!ニュースや、各大手新聞社のニュースを読めていたのに、どうして電子機器でニュースを読むのに購読料を払わなければいけないのか。
書籍や雑誌にしても、紙の本より大幅に安いならまだしも、値段があまり変わらない上に、一覧性の悪い小さな画面で読むことになる。
電子版の雑誌で、写真は固定されて本文だけスクロールする、なんていう小技をつかわれても、紙の一覧性にくらべれははるかに劣る。
また、女性の利用者が、ファッション雑誌を買うとき、印刷版より電子版を好んで買うなどいうことがあるだろうか。
光沢紙に印刷された紙面の美しさや、ページを切り取って保管できること、そして最近のファッション誌のように、手にとれるオマケがあってこそのファッション誌だろう。
いくらテレビCMに、GALAPAGOS(ガラパゴス)を会議室で自慢気に見せる女子社員を登場させても、汎用性のないGALAPAGOS(ガラパゴス)を買う顧客層はきわめて限られるだろう。
iPadでさえ、購入して数週間は外へ持ち出し、友だちに自慢したりしていたが、そのうち使い道がなくなって、ホコリをかぶる例が多いらしい。
iPadのように自由にアプリを選んで、追加インストールできないGALAPAGOS(ガラパゴス)は、なおさらそういった例が多くなるに違いない。
しばらくテレビでGALAPAGOS(ガラパゴス)のCMを目にすることになるだろうが、他のシャープ製品のCMと違って、哀れをもよおすCMになることは間違いない。
*2011/09/15 追記:
僕の予想どおり、このシャープの電子書籍端末「ガラパゴス」は2011/09/15に販売終了が正式アナウンスされた。こちらがシャープの「お知らせ」ページ。もう少し頭を使えばムダな投資をせずにすんだと思うのだが。
>>「シャープの電子書籍端末『ガラパゴス』は完全にバカげている」(2010/09/28)
>>「続・シャープの電子書籍端末『ガラパゴス』は完全にバカげている」(2010/12/14)
>>「SHARP、GALAPAGOSが海外展開するというアホらしさ」(2010/12/31)
>>「SHARP、GALAPAGOSをインドやアフリカの電子教科書に!?」(2011/01/03)
>>「電子書籍なんて、やめてしまえばいい」(2011/01/25)
>>「著作権保護つき電子書籍の普及は、弱者から本を奪う」(2011/02/02)
>>「電子書籍端末って、一体だれが、どこで使うの?」(2011/02/04)

電子書籍なんて、やめてしまえばいい

以前この「愛と苦悩の日記」に書いた『シャープの電子書籍端末「ガラパゴス」は完全にバカげている』は、まんざら誇張でもなくなってきたような気がする。
以前書いたのは、「ハードウェアに依存した特殊仕様のタブレット型情報端末」が100万契約も売れるはずがないという主旨だ。ソニーのReaderも結局、「ハードウェアに依存した特殊仕様のタブレット型端末」という意味では同じことだ。
iPadユーザは、閉鎖的な電子書籍端末をつかまされなくて助かった、と思っているかもしれないが、iPad向けに日本国内でまともな電子書籍販売サービスが始まっているわけではない。
個人的に読みたい本は、いまのところ「自炊」(自分で電子データ化)するしかないので、電子書籍端末の観点だけからすると、iPadも大差ない。
何がネックになっているかと言えば、単純なことで、過剰な著作権保護技術と、その原因になっている、既得権益をうばわれたくない出版業界の抵抗だろう。
先日、裁断済みの書籍を提供し、お客が有料で複合機をつかって「自炊」できる場所を提供していた業者「自炊の森」が、ネットで批判にさらされ、サービスの変更に追い込まれたというニュースがあった。
その批判に対抗して、書籍の提供から収入を得なければ、図書館と同じで、著作権法に違反しないだろうということで、課金の範囲を変更して営業を再開したようだ。
『著作権侵害?書籍電子化、自炊代行業者にNO!出版社が対抗策』(2011/01/24 SankeiBiz)
ただ、日本の出版業界や出版関係者は、「自炊の森」のような業者を個々につぶしていくだけでいいはずがない。そもそも「自炊の森」のような業者は、需要があるから出てきたわけだ。
その需要はどこから出てくるかと言えば、デジタル技術でガチガチに保護された電子書籍である。
本来、著作物に認められている私的利用を制限するような、過剰な著作権保護技術こそが、消費者が「勝手に」自分で書籍を電子化する需要が出てくる原因だと言える。
ソニーがiTunesにコンテンツ提供を拒否し、結果としてソニーのReaderがMacintosh非対応になるのも、ソニーが自社で利用している著作権保護技術の保護水準にこだわるからだ。
また、日本国内のメーカー間でさえ、電子書籍の規格が乱立するのも、各メーカーが別々の著作権保護政策と技術を採用しているためだ。
結果として、権利者の立場からすると、書籍を電子化しても十分な読者数を獲得できないことが最初からわかっているので、電子化するメリットがないという本末転倒の状況になっている。
電子書籍を爆発的に流通させようとすれば、メーカー間で著作権保護技術を共通化し、電子データの購入手続きを簡素化する必要がある。誰が考えてもわかる、当たり前のことだ。
ただ、技術を共通化し、購入手続きを簡素化すれば、一点突破で著作権保護が解除され、違法コピーが大量に出回るおそれもある。
読み手にとっての利便性と、権利者保護のための技術の厳格化は両立できないからこそ、権利者側が一定の妥協をしなければ、電子書籍市場そのものをつぶしてしまうことになる。
音楽業界はコピー・コントロールCDをはじめとする、さまざまな失敗を通じて、すでにこのことを学んでいるはずなのだが、出版業界は前例から学ぶ意思がないようだ。
仮に、出版業界が、電子書籍化によって消費者がうける便益と市場の拡大よりも、書き手の権利保護を優先したいというなら、完全に電子化をやめる選択肢もあるだろう。
中途半端に電子化して消費者を混乱させたり、電子書籍化にムダな資金を投じるくらいなら、電子書籍から撤退し、「自炊の森」のような業者を徹底的に排除するのも、出版業界としては一つの合理的な選択だと考える。
少なくとも、電子書籍が現時点で見られる程度の利便性しかないなら、電子書籍がなくなっても大した混乱は起きない。
>>「シャープの電子書籍端末『ガラパゴス』は完全にバカげている」(2010/09/28)
>>「続・シャープの電子書籍端末『ガラパゴス』は完全にバカげている」(2010/12/14)
>>「SHARP、GALAPAGOSが海外展開するというアホらしさ」(2010/12/31)
>>「SHARP、GALAPAGOSをインドやアフリカの電子教科書に!?」(2011/01/03)
>>「著作権保護つき電子書籍の普及は、弱者から本を奪う」(2011/02/02)
>>「電子書籍端末って、一体だれが、どこで使うの?」(2011/02/04)

SHARP、GALAPAGOSをインドやアフリカの電子教科書に!?

シャープの電子書籍端末「GALAPAGOS」だが、年末にこんな記事を見つけていた。ここまで来るとお笑いネタの領域だ。いくら関西地盤の企業といっても、冗談が過ぎるという感じがする。
『ガラパゴス、インドの電子教科書に シャープが実用化へ』(朝日新聞 2010/12/31)
日本でGALAPAGOS(ガラパゴス)が売れるわけがないということを、発売してから学習されたのだろうか。インドで電子教科書の閲覧用端末として実用化する方針を固めたらしい。
それだけでなく、将来的にはアフリカで教育環境の整備されていない遠隔地に、ネット中継で授業を配信する端末としても事業展開を狙っているという。
まず言えるのは、日本で販売されているような、コンテンツ配信元を限定した囲い込み型のビジネスモデルのままで、グローバルにIT人材を供給しているインドの高等教育機関に通用するのか、ということ。
さすがにシャープも日本仕様そのままでインドで展開するはずはない。クローズドなコンテンツ配信機能を解除した、オープンな電子書籍端末として売りだすだろう。
仮にそうだとすると、次の問題が出てくる。それは、インドの高等教育機関に売り込むほどGALAPAGOS(ガラパゴス)に価格競争力があるのか、ということ。
シャープはGALAPAGOS(ガラパゴス)ともっともらしい製品名を付けているが、所詮は、静電容量式タッチパネルと、大容量バッテリー、省電力型CPUを搭載した、Android OSタブレットに過ぎない。
中国で品質の悪いAndroid OSタブレットが大量に出回っているように、Android OSタブレットという製品そのものが、あっという間に陳腐化し、コモディティー化するのは目に見えている。
中国や台湾のメーカーが、GALAPAGOS(ガラパゴス)同等の性能を持つ端末を、さらに安く供給するようになるのは時間の問題だ。
そのとき、インドでGALAPAGOS(ガラパゴス)に価格競争力以外のどんな競争力があるのか。SHARPというブランド自体に、サムソンやLGに負けないグローバルな競争力があるということだろうか。よく分からない。
さらに、アフリカで教育環境の整備されていない遠隔地のための、情報端末として展開するという計画にいたっては、全く成功を見込める根拠が分からない。
この計画を実現するには、まず通信インフラの整備が必要だが、商社を介さずに、アフリカの携帯電話事業者と直接合弁でもするつもりなのだろうか。
また、遠隔地の学校での利用ということは、現地での事業展開はアフリカ諸国の政府と共同で行う公共事業になるはずだ。
しかし、温暖化ガス削減や生物多様性のグローバルな会議でも見られたように、アフリカ諸国の政府の支持を取り付けることに成功しているのは、今や中国である。
日本のマスメディアは中国のアフリカ諸国に対する支援を、現地住民の意向を無視し、資源の既得権益だけを目的とした非民主的なやり方だと非難している。
ただ、民主的な支援というキレイごとを実現するには、まずアフリカ諸国が民主化されるのを待つしかなくなる。
中国が日本をしのぐ影響力をすでに持っているアフリカ諸国に対して、シャープが民間レベルの努力だけで、GALAPAGOSの事業展開をするつもりだとすれば、かなりの平和ボケとしか言いようがない。
将来への投資ということで、赤字覚悟でボランティア的に事業展開するならまだ理解できるが、そうなると、そこまでしてGALAPAGOSをアフリカに展開することに対して、株主が理解を示すかという話になってくる。
とにかくシャープのGALAPAGOS(ガラパゴス)については、出てくる報道がことごとく夢物語のような内容ばかりだ。
思えばSHARPは、1980年代前半に、IBMのPC/ATに先行して、オールRAMの「クリーン設計」というパソコンを家庭用に販売していた。しかしそれを世界規格にするだけのグローバルな戦略と実行力はなく、今では単なる「語り草」にしかなっていない。
今回のGALAPAGOSはパソコンの事例よりもひどい。なぜなら、Androidタブレットは、すでにGoogleが国際標準を作り、ハードウェアとしてもほぼ陳腐化しているからだ。
いってみれば、すでにPC/AT機が普及しつつある中で、クリーン設計のMZシリーズのパソコンを売り出すようなもので、新たな国際標準を創出できないことは初めから分かっている。
ますます理解に苦しむSHARPのGALAPAGOS(ガラパゴス)販売戦略からは、当分、目が離せそうにない。
*2011/09/15 追記:
僕の予想どおり、このシャープの電子書籍端末「ガラパゴス」は2011/09/15に販売終了が正式アナウンスされた。こちらがシャープの「お知らせ」ページ。もう少し頭を使えばムダな投資をせずにすんだと思うのだが。
>>「電子書籍なんて、やめてしまえばいい」
>>「シャープの電子書籍端末『ガラパゴス』は完全にバカげている」
>>「続・シャープの電子書籍端末『ガラパゴス』は完全にバカげている」
>>「SHARP、GALAPAGOSが海外展開するというアホらしさ」