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中国式QRコード決済について(6):「中国QRガー」にだまされないために日本の銀行系「~ペイ」を自習

中国のインターネット決済、主にスマートフォン決済の普及率の高さを手放しで称賛する人々を、5ちゃんねるから言葉を借りて「QRガー」と呼んでいるが、もしかすると日本でのモバイル決済の普及のスピードに追従できていないだけかもしれない。

「中国QRガー」の皆さんは日本に無知すぎるのか

筆者もここ数日ネットで調べて知ったのだが、メディア露出の高いLINE Pay、PayPay、楽天ペイに加えて、大手金融機関も続々スマホアプリによるQRコード決済に進出、個人間送金サービスも始めている。

下記のような日本のQRコード展開状況にまったくふれない「中国QRガー」のみなさんは、わざと無視しているのか、単に知らないだけなのかは分からない。

ただ日本におけるQRコード決済で強調したいのは、とにかくいろんなサービスが乱立し、囲い込み戦略をとっていること。

中国はアリババのアリペイ、テンセントのWeChat Payの2社が寡占している。

「中国QRガー」のみなさんはこの2社で中国全土をカバーできることをメリットだと訴求しているが、寡占状態は必ずしもメリットとは言えない。

しかもアリペイが寡占状態なのは、はもともとアリババの「タオバオ」という、楽天のようなネットモールが中国で寡占状態だった背景の流れというだけ。(ネットモールは京東という競合があるが、オンライン決済ではアリペイの寡占をまったく切り崩せていない)

WeChat Payが寡占状態なのは、もともとテンセントのQQというチャットアプリが国民的な普及率を誇るほぼ独占状態といえるアプリで、テンセントがPCメインだったQQをスマホ対応にするのと並行して、ほぼスマホ専用のWeChatへユーザを誘導したというだけ。

中国ではアリババ、テンセントというネット企業がそれぞれEコマース分野、チャットアプリを中心とするオンラインアプリケーション分野でほぼ独占状態にあったから、アリペイ、WeChat Payも寡占状態にあるだけなのだ。

そういう中国の特殊事情がなく、資本主義の正常な競争が行われている日本のQRコード決済業界について、「統一的なQRコード決済が無いのはダメだ!」的な議論は、完全に筋違いと言っていい。

「中国QRガー」のみなさんは、徹底して日本の現状や日本市場の正常な競争状態を、平気で無視するから煙たがられるのだ。

前置きが長くなったが、日本の金融機関のQRコード決済展開として以下のようなものがある。

みずほ系「Jコインペイ」

J-Coin Pay公式サイト

『スマホQR決済「Jコインペイ」、全国50以上の地銀が3月から導入へ』 (iPhone Mania 2019/02/18 13:24)

『銀行スマホ決済「Jコインペイ」で大競争時代に』 (野村総研 2019/02/18)

みずほフィナンシャル・グループが中心になって、50行以上の地方銀行が参加。参加銀行は順次増やしているようだ。

中国のAliPayとも提携し中国観光客にも対応するという、日本でありがちなスマートフォン決済導入パターンである。

このプラットフォームは個人間送金もできる。筆者は個人間送金ができるのはてっきりLINE Payだけだと思っていたが、Jコインペイもできるんじゃないか!

加盟店側手数料は2~5%程度でクレジットカード手数料を下回り、導入費用はスマホやタブレットがあればアプリをインストールするだけなので0円とのこと。

ゆうちょPay

『ゆうちょ銀行、スマホQRコード決済「ゆうちょ Pay」5月開始、口座直結で支払い』 (iPhone Mania 2019/02/07 00:31)

『なぜゆうちょ銀行がスマホ決済に参入するのか? 「ゆうちょPay」の狙いを聞く (1/2)』 (ITMedia Mobile 2019/04/11 06:00)

ゆうちょ銀行はメガバンクと比べると収益性が低いが、その優位性は言うまでもなく顧客との接点の多さ、ATMと店舗数の多さだ。

この「ゆうちょPay」のポイントはGMOペイメントゲートウェイの「銀行Pay」を利用している点だ。

SaaS型銀行間決済「銀行Pay」

GMOペイメントゲートウェイ 銀行Pay公式サイト

『地銀、ゆうちょ銀行が取り組む、銀行Payとは何か?口座連携のQRコード決済のメリット、デメリット』 (Money Lifehack 2018/10/23)

筆者も初耳だったのだが、GMO運営のこのシステムは、ユーザ向け、加盟店向けのスマートフォンアプリと、加盟金融機関の勘定系システムをインターネット経由で連携するSaaS型プラットフォームで、中国のAlipayにも連携、外部連携APIも提供している。

この銀行Payはあくまでプラットフォームであり、じっさいにサービスを提供するのはこのSaaS型サービスを利用する各金融機関となる。

ゆうちょ銀行以前に、りそなグループ、すでに横浜銀行、福岡銀行、熊本銀行、親和銀行、近畿大阪銀行、沖縄銀行、北陸銀行、北海道銀行が参加。

QRコードでの決済方式は、顧客読み取り型、店舗読み取り型、自動精算機型がそろっており、今後は自動精算機で現金の引き出しまで出来てしまうようだ。

Bank Pay (仮)

これが本命のようだが、日本の三大メガバンクが2018/05にQRコード規格の統一で合意していたようだ。

『スマホ決済、3メガ銀がQRコード規格統一で合意 地方銀行に参加促す』 (日経新聞 2018/05/22 20:04)

ただ、みずほは上記の「Jコインペイ」、GMOがSaaS型銀行間決済プラットフォーム「銀行Pay」、ゆうちょは「ゆうちょPay」をすでにサービスインしているので、この「Bank Pay」は本当に実現するのか不安。

膨大なセキュリティ投資

中国のQRコード決済、インターネット決済について、不正アクセスなどサイバー攻撃のリスクが低いのは、中国のインターネットの内部から外部への接続が強力に規制されていることが最大の理由だ。

このインターネット規制は政府が調整できるため、国外から中国内部への逆方向の接続も、通信遅延が増減するなど明らかに規制を受けている。

インターネット全体が中国全体で保護されているおかげで、中国のインターネット決済はサイバー攻撃などのセキュリティ対策にかけるリスクを大幅に抑えられるメリットを享受している。

他方、中国以外の日本を含む、国外とのインターネット接続を規制していない国は、インターネット決済プラットフォームのセキュリティ対策に莫大な投資をする必要がある。

乱立が健全なんです

結論はこれにつきる。

じっさいにLINE PayとメルPayが提携しても、LINE PayとPayPayが提携しそうにないのは、乱立する「~ペイ」がQRコード決済の普及率向上よりも、顧客囲い込みによる自社の利益を優先しているからだ。

これは自由主義の市場ではきわめて正常でまっとうで健全なことである。

かりに日本のQRコード決済が中国のように寡占状態になり、加盟企業に不利益な状況が発生すれば、日本では確実に公正取引委員会が動き出すだろう。

消費者にとって寡占の利便性と、例えば加盟店の手数料が寡占企業によって引き上げられ、価格に転嫁されることによる不利益はもちろん、どちらかを取れば他方を捨てざるを得ない関係にある。

おそらく日本の公正取引委員会は中国のような2社の寡占は許さないのではないか。

「三大メガバンク」や「三大携帯電話会社」の例からすると、全国の消費者に生活基盤にあたるサービスを提供する事業者は、少なくても3社までが許容限度ではないかと思われる。

いずれにせよ自由主義経済の健全な競争を阻害してまで、中国のような寡占状態のQRコード決済の普及を良いことのように称賛する「QRガー」がいたとすれば、遠慮なく非難してよい。

以上、「中国QRガー」のみなさんに騙されないようにするための基礎知識として、自分自身のためにもまとめておいた。

中国式QRコード決済について(5):自ら存在意義を抹殺する中国デジタル社会報告書

「QRガー」に関連して、重大な欠陥のある報告書を見つけてしまった。極めて価値のある内容であるのに、冒頭の第1章で自らその価値を台無しにするという「自殺」報告書だ。

どうして中国テクノロジーを称揚したい方々の先入観はここまで強いのか。

最初に断っておくと、筆者は10年来の中国ガジェット好きである。届いた翌日に電源が入らなくなるクオリティの中華タブレットを数枚購入したことがある。

スマートフォンは、7~8年前、Huawei製でも数時間で交換式バッテリーが切れてしまうような代物だったころから始まり、ZTE製も使ったことがある。最近は劇的にコストパフォーマンスが高くなり、ここ数年、Xiaomi、OnePlus製しか使っていない。

中国SNSはWeiboと百度貼吧を10年以上使っており、WeChat Payも現地ネット決済のために便利に利用している。

したがって中国のIT産業について普通の日本人ほど偏見は持っていないつもりだ。

問題の報告書へのリンクがある、報告書の筆者の方自身のブログ記事を貼っておく。

「報告書『中国14億人の社会実装―「軽いIoT」が創るデジタル社会』が刊行されました。」 (Aseiito.net 2019/04/09)

リンク先にある報告書『中国14億人の社会実装―「軽いIoT」が創るデジタル社会』(伊藤亜聖・高口康太)が、冒頭にあげた重大な欠陥のある報告書である。

(わが母校の東京大学も目先の利益に直結する研究に偏向し、基礎研究の質を軽視し始めたか)

あえて「重大な欠陥」と強い表現をつかった理由は、報告書全体の議論の前提となる導入部分に深刻なミスリードと統計の意図的な読み替えがあり、報告書全体の価値を台無しにしているからだ。

その重大な欠陥はp.27にある。

図表2、横軸に国レベルの一人当たりGDP、縦軸に「過去1年間に携帯電話またはインターネットを通じた金融機関口座にアクセスした人の比率」をとったチャートだ。

この図表2を元にして「先進国のほうがIT技術を利用した金融機関利用が普及してるといえる。おおむねベースラインの傾向としては、デジタルエコノミーも経済発展水準と相関するのである」

何の説明もなくインターネットを通じた金融機関利用が、デジタルエコノミーの決定要因であるとされている。あまりに乱暴な議論だ。

しかも「インターネットを通じた金融機関口座へのアクセス」にはPC、スマートフォンなど、複数の手段があるにもかかわらず、図表2で見事に「モバイルバンキングの普及比率」にすり替えられている。

論文ではない報告書とはいえひどすぎるミスリードだ。

なぜ日本が高いGDPのわりに「過去1年間に携帯電話またはインターネットを通じた金融機関口座にアクセスした人の比率」が低いのか、妥当な原因に本当に思い当たらないのだろうか。

一つは、言うまでもなく日本が異常に現金決済に執着する社会であること。それはこのブログの一つ前の記事を参照頂きたい

かつ、都市部ではATMがあらゆる場所に設置されているからだ。

あらゆる場所にATMを設置できる主な理由は治安が良いからだ。治安が良いということは、治安の悪い国よりも相対的に現金の管理コストを抑える要因にもなっている。

警察庁の平成29年版犯罪白書で、強盗の発生率(人口10万人当たり発生件数)は2014年で米国101.1、英国81.8、フランス177.9、ドイツ56.4に対し、日本は2.4。先進国の中でも異常なほど低い。窃盗の発生率も他の4か国のおおむね5分の1以下だ。

ATMが普及する前も、日本の金融機関の経営は極めて「非効率」で、支店が全国津々浦々あり、現金の出し入れができた。銀行のない地域は郵便局がカバーしていた。

ウィキペディアによれば、1970年代に金融機関がクローズドなネットワークで相互接続され、平日日中の即日送金を実現した日本は世界最先端の金融情報技術を誇っていた。

さらに街角のクレジットカード端末にATM機能が備わり、コンビニエンスストアにもATMが設置された。

コンビニエンスストアの店舗そのものが過当競争になるほど増えたため、ますます現金の出し入れが手軽になっている。通勤・通学のついでにいつでも金融機関のATM相当の現金の取扱ができる。

一方、インターネットを経由したネットバンキングやモバイルバンキングについては、不正アクセスやマルウェアによる被害を防止するため巨額のセキュリティ投資が、ユーザには見えないところで行われており、日々「進化」するサイバー攻撃に対応するコストは年々上昇している。

強盗の発生率が極めて低い日本であっても、電話やインターネットを悪用した物理的接触のない犯罪の発生率は高止まりするだろう。

日本における強盗による現金被害金額は2016年で4.0億円だが、特殊詐欺(いわゆるオレオレ詐欺)の同年の被害金額は406.3億円と100倍にのぼる。

強盗のような「体力」犯ではなく、通信網を利用する「知能」犯は、日本の物理的な治安の良さをやすやすと乗り越えてしまう。

日本でインターネットバンキングやモバイルバンキングの必要性が低いのは、こういったさまざまな社会的・文化的要素が理由になっているのであって、決して日本のデジタル化が遅れているわけではない。

これらの要素をすべて無視して、日本のデジタル化の遅れだけに言及するのは、日本でデジタル化の技術開発に取り組んでいるすべての人々に対する侮辱だ。

この報告書はさらに次の図表3にも「モバイルバンキング」というミスリードを確信犯的に持ち込んでいる。

それどころか最終的に次のように書いている。

「日本のデジタル化を議論する際に度々言及されるのは高齢化による影響であるが、比較的近い高齢化水準にあるスイスやデンマークではデジタル化が進んでいる。日本のデジタル化の遅れを人口構造のせいにできないのである」

高齢化とモバイルバンキングの普及率に相関関係がないという事実は、「高齢化しているからモバイルバンキングの普及率が低い」という因果関係を肯定も否定もしない。

図表2においても同じ誤りを犯している。日本と中国だけに注目するという恣意的なサンプリングを行いつつ、経済発展水準とデジタル化に負の相関関係があるという事実で、「経済発展水準が高いからデジタル化する」という因果関係を否定している。相関関係は因果関係を肯定も否定もしない。

相関関係は因果関係ではない。統計学の基礎さえ理解していない人は統計数値を使わない方が良い。

以上、p.29前半部分まででこの報告書の筆者にデジタル化一般について議論をするだけの正確な認識や客観的な思考能力がないことが明白になった。

これらの箇所に見られる報告書の筆者の無意識の”Japanophobia”は、p.29の後半に思わず漏れ出てしまっている。

「技術的に可能なことが、経済的・社会的な要因によって社会への導入が遅れる現象」

これは明らかに日本を指している。

日本はGDPが高いのにデジタル化が遅れていてダメ、中国はGDPが低いのにデジタル化が進んでいてすごい!という稚拙な論評に陥っている。

意図的かどうかは別として、この長い報告書の冒頭、第1章の段階で日本人の神経を逆なですることに成功している。

中国のモバイル決済賛美者の皆さんはこのようなフォーマルな報告書でさえ、モバイル決済に話をつなげるための強引なミスリードをし、わざわざ日本人の神経を逆なでするような議論の組み立てをする。

だからこそ自分で自分の首を絞めているのだが、そのことを「中国屋」のみなさんはいつになったら自覚し、改められるのだろうか。

じっさいにはこの報告書の残りの部分は非常に参考になる具体的な記述が満載である。

シャオミ大好きで、シャオミのバックパックまで中国から取り寄せて使っている筆者にとって、じっくり楽しみたい非常に充実した報告書になっている。

しかしこの報告書は第1章だけで普通の日本人読者を拒絶している。この冒頭の議論にイラっとする日本人は読まなくて良いと言わんばかりに、報告書の残りの部分の価値を自ら抹殺している。

非常にもったいない。もったいなさすぎる。

中国式QRコード決済について(4):「QRガー」のみなさんには絶望が足りない

ネット上の「中国のQRコード決済すごい!日本でも普及させるべき!」という人々は、日本のQRコード決済利用実態や現金決済主義の現実から目をそむけ、QRコード決済をまだ使っていない人々への訴求力がほぼゼロである点で、完全に空回りしており、見ものとしては面白い。

以下、このような人々を「QRガー」と呼ぶことにする。この名称はすでに5ちゃんねるで使われている

いかに「QRガー」のみなさんの努力が空回りしているか、下記リンク先の日本でのQRコード決済の実態調査で確認してみたい。IT系でおなじみ、MMD研究所のアンケート調査だ。

PayPayユーザは日本のスマホ所有者の約8.6%

「みんなが一番使っているQRコード決済、現時点でのトップはアレ!」 (GIZMODO 2019/02/06)

引用元のMMD研究所の調査はこちら。「2019年2月 QRコード決済サービスの利用に関する調査」 (MMD研究所 2019/02/05)

なお無用な反論を避けるため、このMMD研究所の調査は2019/01/08~01/10だが、PayPayの大規模キャンペーンを反映していることを別の調査で確認しておく。

「『100億円キャンペーン』はどれくらい効果があったのか? PayPayの利用動向を調査会社が発表」 (Forbes Japan 2019/04/09)

引用元のVALUESの調査はこちら。「『100億円あげちゃうキャンペーン』、その後のマーケティング効果を調査」 (VALUES 2019/04/08)

PayPayをふくむ各種決済アプリの月次ユーザ数推移はこちら。「行動ログ」が基準なのでMAUと考えてよい。

2019/02のPayPayのMAUは599万に達している。インストールベースでは2019/02時点で774万ユーザとある。

NTTドコモ系のモバイル社会研究所の調査によれば2018年の日本のスマートフォン所有率は74.3パーセントのため、スマートフォン所有者のうち約8.6パーセントがPayPayユーザとなる。

インストールユーザ数の推移はこちら。やはりPayPayは2018/12のキャンペーンで現在にいたる8割以上のユーザを獲得しており、MMDの調査期間はPayPayの急激な成長を反映していると考えてよい。

ただそのPayPayも、大きなユーザベースにもかかわらず、1日平均の1ユーザ利用回数は3回以下、キャンペーン終了後は他の決済アプリと大差なく1日平均2回前後と、利用頻度は意外に少ないことが分かる。

このように、MMDの調査は2018/12に一気にユーザベースを増やしたPayPayの急成長を反映していることを確認しておいた。

QRコード決済に消極的、無関心なスマホ所有者は8割

ではそのMMDの調査について、「スマートフォン所有者のQRコード決済サービス利用状況」から見てみよう。

先のVALUES、モバイル社会研究所の調査結果をあわせて、スマートフォン利用者のうちPayPay利用者が約8.6パーセントと計算されたので、このアンケート調査結果でPayPayを「現在利用している」割合の数値8.1パーセントは妥当と考えていい。

このチャートの重要な点は、QRコード決済に対して無関心、消極的な日本人の比率が圧倒的であることだ。

無関心、消極的な日本人の比率は、チャートの緑色と黄色を除いた部分、つまり、「利用したことはあるが、現在は利用していない」+「どんなものかわかるが、利用したことはない」+「聞いたことはあるが、内容はよく知らない」+「全く知らない」の合計だ。

これだけネットで簡単に調べものができる中で、「聞いたことはあるが、内容はよく知らない」のは積極的に調べる気がないとしていいだろう。

消極的な比率がもっとも少ないPayPayの回答者でも82.4パーセント。すべてのQRコード決済アプリで約8割のスマートフォン所有者がQRコード決済の利用に消極的、無関心である。

つぎに「QRコード決済サービスを利用する理由」を見てみる。

回答数887人のうち、QRコード決済を利用していると回答した188人に絞られてしまっている。

ポイントに関係する回答が1位、3位。ポイントは運営会社の囲い込み戦略のため、QRコード決済を社会インフラとして普及させることより、自社顧客の囲い込み優先の運営会社の狙いが反映されていると見ていいだろう。

利便性は2位、5位、6位、8位、10位など。ただしいずれもQRコード決済だけの利便性ではなく、Felica式決済にも共通する内容であり、おそらく回答者の多くはFelica式キャッシュレス決済を併用していると思われる。

「QRガー」のみなさんが、よくメリットとして強調する個人間送金は、13位の8.5パーセント。回答数全体の188×8.5%÷887=1.8パーセント。

日本の全スマートフォン所有者のうち2パーセント弱しか個人間送金を理由として挙げていない計算になる。「QRガー」の一部の方々が個人間送金のメリットを訴求している努力は空回りしているようだ。

「クレジットカードで十分」が4割

つぎは「QRコード決済サービスを利用しない理由」。こちらは母数が699人。

複数回答可で、「クレジットカードで十分だから」が43.1パーセント、2位の「現金で十分だから」が23.6パーセント。日本人が決済手段の変更について異常に保守的だと言える。

3位は決済の取引情報はユーザ別、一件別に記録されるキャッシュレス決済特有の懸念と言っていい。

クレジットカードもQRコード決済も大企業が運営しており、信用の点で大きな差はないはずだが、「クレジットカードで十分」とする人が43.1パーセントである一方、QRコード決済については、情報漏えいの不安が21.6パーセントと第3位になってしまう現実がある。

これこそ、信用にもコストがかかり、誰かがそれを負担しなければならないと筆者が言い続けている点だ。

QRコード決済を利用しない人たちは、そのコストを自分は負担したくないので、QRコード決済は使わない、何かあったときに補償があるクレジットカードで十分だと言っていることになる。「QRガー」のみなさんは常に信用にかかるコストを小さく見積もりすぎている。

意外なのは、「街中で使えるお店が少ないから」という比率が非常に小さいことだ。

「QRガー」のみなさんは使える店舗が増えれば、ネットワーク外部性で利用者も増えると考えているが、QRコード決済を利用しない人にとっては、使える店舗が増えたとしても、クレジットカードや現金の十分さをくつがえす要因になりづらいことが分かる。

以上、MMD研究所の調査結果を見てきたが、フツーの日本人の直感にもほぼ合致していると思われる。

「QRガー」のみなさんが本来やるべきこと

「QRガー」のみなさんが本来やるべきことは、日本人のクレジットカード信仰、現金信仰を「脱洗脳」することだ。

しかし「QRガー」のみなさんがいくら自身の議論の客観性や合理性を主張しても、日本社会の現状の中に置かれた途端に、QRコード決済「信者」になってしまい、両社は宗教戦争の様相を呈してしまう。

筆者がこの記事で「QRガー」のみなさんを「QRガー」とあえて蔑称しているのも、ご自身の主観性やイデオロギー性に無自覚な点を指摘したいからだ。

日本人の決済手段の変更にかんする異常な保守性は、合理性ではなく直感的なものであるため、説得方法も非合理的でなければならない。その一例がPayPayの2018/12の第一弾キャンペーンといえる。

しかしQRコード決済事業者がいっせいに同様のキャンペーンを行えば、日本では行政の指導や規制がなされ、事業者がかんたんに折れることは容易に想像できる。最近ではふるさと納税の規制の例があった。

したがって、「QRガー」のみなさんが日本でQRコード決済を共通の社会基盤として普及させるためにできることは少ない。

ご自身がQRコード決済「信者」だという自覚がなく、QRコード決済の長所を訴える方法しかとれないのでは、決済手段の変更にかんする日本人の異常な保守性を変えることはできない。

筆者がQRコード決済について少しでも否定的なことをツイートするやいなや、たちまち「FF外」からの反論が返ってくるくらいなので。

「QRガー」のみなさんには、現実に対する「絶望」が足りない。

もしもあなたがこの記事に反感を抱いたとしたら、あなたにはこの異常な保守性を変え、QRコード決済を日本の社会インフラにする能力が無いことの、何よりの証拠だ。

中国式QRコード決済について(3):ネオリベラリズムと思想的独裁は相性がいい

最近気づいたのは、中国のイノベーションを肯定的に評価する論者が、ネオリベラリズムを肯定的に評価する傾向があることだ。

中国に限らずどの国の政府も、現実の政策実行では政府の介入が大きい部分と小さな部分を相互補完的に機能させる。

経済の基盤となっている経済の外部、つまり共同体、個人の思想信条・宗教、社会の慣習など、貨幣に換算しづらい会資源を把握してしまうと、安定した正常な経済自体が成り立たなくなるためだ。

こうした経済の外部にある必ずしも合理的でない社会資源の存在意義を軽視して、ネオリベラリズムに沿って議論を展開すると、意図せずして現実のどこにも存在しないユートピアを記述するはめになる。

ごく普通の組織で長年働いていれば分かることだが、経済活動の現場を動かしている「思い」や「空気」は合理性とはほど遠く、迷ったときには変化しないことを選ぶ。

自由か不自由かを選ぶ自由を与えれば、不自由を選ぶ人間が少なくない。

合理的に洗練されたネオリベラリズムは共産主義と同じ程度に、経済活動の現場では理想論に過ぎない。

このことを下記リンク先のコラムをサンプルとして、個々の問題点を取り上げることで論じてみたい。

なお筆者は経済学や社会学などの学問分野をいったんカッコに入れた、フッサールの言う現象学的還元の方法論を採用しており、いかなる概念も自明とは見なさない。

『アリババがつくる巨大プラットフォーム経済—「情報の非対称性がない」ビッグデータ社会のゆくえ」』(『外交』Vol.47 p.57)

まず「イノベーション」という言葉に当然の共通理解があるかのように「中国のイノベーション」が語られている。

まだ見たことのない製品やサービスがすべてイノベーションなら、観察主体の「たまたま見たことがない」という個人的な経験で「イノベーション」が定義されてしまうことになる。

このコラムの中に「イノベーション」の定義がないため、差し当たり「特定の集団にとって目新しい製品やサービス」としておき、以下、やや乱暴だが意味があいまいなまま括弧をつけずに使う。

「二〇世紀は、財閥など企業グループの時代だったが」とあるが、日本では今も財閥など企業グループの時代だ。これが「二〇世紀は、財閥や企業グループがイノベーションを生み出す時代だったが」という意味であっても間違いだ。

逆に二〇世紀の日本のイノベーションの多くは当時のベンチャー企業から生まれている。ホンダやソニーの例を挙げるまでもない。

ここで重要なのは、イノベーションによって生まれた製品やサービスに対する需要は、財閥など企業グループの安定雇用に支えられた中間層の増加によって支えられたという事実だ。

イノベーションが生み出す新たな製品やサービスと、非イノベイティブな(=保守的な)中間層の存在は、供給者と需要者という相互補完の関係にある。

つぎに文中に現れる「プラットフォーム」という言葉も、「ショッピングモールや市場」「電子商取引」「クレジットカード」など、雑多な例示で意味が広すぎる。

ここでは「取引が生まれ、経済価値が生まれる。むすびつけられた双方もしくは一方に課金する」という、より限定的な部分を採用し、モノや情報の交換だけではなく、必ず貨幣の交換をともなう場という定義とする。

続いておなじみの「ネットワークの外部性」が登場し、「外部性のちから」をテコとする「プラットフォーム」企業として、GAFとAirBnB、テンセント、アリババが例示されている。

「現在、このマッチングの中核にあるのが、モバイルペイメントだ」。これも唐突な文章だが、「現在の中国では」という言葉が省略されている。意図的に省略している疑いもある。

「日本にも楽天、ヤフー・ジャパンなどのインターネットプラットフォーム企業はあるが、はるかに小さい。規模のハンデを十分におぎなわない限り、この中国の二社と同じ土俵に登ることは難しいだろう」。

この部分は論理的に破綻している。

中国のアリババ、テンセントと日本の楽天、ヤフー・ジャパンを対比しているが、「規模のハンデ」の主たる原因は圧倒的な人口の差である。それを各企業が自助努力でおぎなうべきであるというのは、端的にナンセンスである。

かつ、なぜ楽天、ヤフー・ジャパンはテンセント、アリババと同じ土俵に登らなければいけないと無条件に決めつけているのか理解不能だ。アマゾンやグーグルではダメなのだろうか。

アリババ、テンセントといえどもネットワーク外部性を強力に働かせているのは中国国内と中国人の滞在・居住する地域に限られており、北米や欧州でプレゼンスがあるわけではない。

中国と日本のプラットフォーム企業を乱暴に対比している点から、このコラムの筆者が各国の経済の背景にある社会構造や文化など、経済の外部を無視していることは明らかだ。

ここから始まってp.62の下段までは、とくに議論すべき箇所はない。非常に参考になる記述だからだ。

アリババのアリペイや、テンセントのWeChat Payが中国特有の経済システムを背景に、いかに独占的地位を得るに至ったかが書かれている。このコラムを読む価値はほぼこの部分に限られる。

そして決定的な論点が現れるのは、p.63上段の中ほどで、このコラムの筆者が馬雲の発言の主旨を誤解している部分だ。

引用されている馬雲の発言をかみ砕いて言うと次のようになる。

以前の計画経済は、市場の末端までをカバーする大量のデータが得られず、不十分な情報をもとに実行せざるをえなかった。しかしビッグデータの利用によって売り手、買い手双方にあらゆるデータが可視化され、市場メカニズムが”見える手”になったことで、政府が経済の実態に沿った高精度な計画経済を実行することが可能になった。

情報の非対称性の大幅な縮小と、新たな計画経済の可能性はずれていない。

この馬雲の発言の背景には情報の非対称性についてのアイロニーが隠れており、馬雲はそれを分かった上で発言しているが、このコラムの筆者は分かっていないように見える。

情報の非対称性のアイロニーとは、非対称性が解消されたかどうかを買い手が知るすべはないということだ。買い手は原理上、自分の知らない情報が何なのかを知ることはできない。買い手は自分が何を知らないかを知ることができない。

売り手が買い手に対して「これがあなたの知らなかった情報のすべてです」と言ったところで、買い手は「本当にすべてですか?」と永遠に問いつづけることができる。売り手が何も隠していないという確証は永遠に得られない。

情報の非対称性が解消したかどうかの決定権は売り手側、情報をより多く持っている側にあり、非対称性が解消されたという認識は、原理上、つねに買い手の「錯覚」にすぎない。

その「錯覚」を買い手が「錯覚」でないと認識するとき、両者の間に「信用」が生まれる。「信用」は買い手が売り手に質問しつづけることを諦めるというコストを支払う代償として成立する。

「信用」の最も根源的なコストは、完全情報をあきらめるという犠牲を払うことだ。「信用」が最初に発生させるコストは、真実をあきらめるという犠牲である。

プラットフォーム企業がネットワーク外部性によって独占的な地位を強めれば、情報の需要者の「情報の非対称性が解消された」という「錯覚」をより強化できる。

その「錯覚」を強化する手段がオープン化である。APIやSDKなど具体的な方式は何でも良い。欲しい情報を容易に入手できると思わせることが、「情報の非対称性が解消された」「理想的な状態になった」という「錯覚」を確実なものにする。

よく言われるビッグブラザー的な支配は、支配される側が「われわれはビッグブラザーなどに支配されておらず自由だ」と確信することで初めて完成する。

情報の需要者がオープンなインターフェースのおかげで情報の非対称性が解消されたと確信した時点で、皮肉なことに、情報の非対称性は完成する。そしてそれによって新たな計画経済の実行が可能になる。馬雲は情報の非対称性の不都合な真実について、うっかり口を滑らせている。

このコラムの筆者は、やや楽観的すぎる自由主義的思考のため馬雲の発言を誤読しているため、それ以降のこのコラムはすべて読み替える必要が出てくる。

あるプラットフォームの「オープン化はそれ自体、多くの人びとの参入機会を手助けする機能がある」と言えるためには、そのプラットフォームはネットワーク外部性によって、多数のユーザをすでにロックインしている必要がある。

少数のユーザしか使っていないプラットフォームをオープン化しても、「多くの人びと」の参入機会を手助けすることはできない。

しかしFacebookのケンブリッジ・アナリティカ事件を見てもわかるように、オープン化はプラットフォーム企業が寡占化とユーザのロックインを強化する手段であり、情報をオープンにする範囲の決定権を独占しつづけるための有力な方法だ。(具体的にはAPIやSDKの仕様変更、外部からの接続のトランザクション数制限、インターフェース利用の有償化など)

プラットフォームの運営主体が政府であっても同じことだ。

プラットフォームとデータの寡占化は、オープン化によるネットワーク外部性の強化によって推進される。

日本政府がマイナンバーカードを行政機関や民間企業にオープンにすることに成功すれば、情報の利用者に対する日本政府の権限は確実に強化される。

プラットフォーム運営の合理化、効率化が何の代償もなく無条件にユーザ(消費者や国民)に利益をもたらすと考えるのが、典型的なナイーブなネオリベラリストでなくて何だろうか。

運営主体の企業や政府の構成員は悪意のない、完全に信用できる人間だろうか。不正や腐敗を排除するガバナンスが完全に機能している組織だろうか。

こうした疑問を追求することをあきらめる代償を払って運営主体を「信用」することが、まさに「信用」の最初のコストである。最初に「信用」のコストを負担するのは常に情報を受け取る側だ。

情報を開放してくれたのは良いが、本当にすべてを開放してくれているのか。開放すると言いつつ隠蔽したり、ウソの情報を開放したりしているのではないか。

逆に、こうした疑問をあくまで追求することの代償を払って、細分化されたクローズドなプラットフォームや、非合理的で非効率な社会をあえて選ぶことを、間違いだと切り捨てるのは思想的独裁だ。

合理性や高効率を無条件に優れているとする傾向のあるネオリベラリズムと、政治体制としての思想的独裁の相性がいいのは、どちらも非合理で非理想的な選択肢をあえてとる自由を否定するからだ。

実際にはここまで書いたような議論を展開しなくても、中国のイノベーションを称揚するネオリベラリズム的議論は経済の現場では見向きもされない。

「難しすぎて何を言ってるのか分からない」

「どうして中国のマネをしなきゃいけないのか」

「金の節約になるなら良いが」等々・・・

そういった大多数の日本人のおかげで、日本社会の非合理性、非効率性は守られ、合理性・効率性を選ぶ自由と、あえて非合理・非効率を選ぶ自由の両方が守られる。

中国式QRコード決済について(2):QRコードの快適さと出来たての料理のどちらを取るか

中国のQRコード決済に関する書物についてのツッコミ第2弾はこちら。

『体験の出口を争う日本のキャッシュレス、体験の入口から作る中国のキャッシュレス』(2019/04/04)

この記事に書かれているのは中国の二維火という会社の飲食店向け業務システム(ERP)のことで、QRコードが主な機能の業務パッケージではない。

同社は2017年、すでに日本に進出し、記事にあるのと全く同じ業務パッケージを飲食店向けに販売している。

QRFood (2Dファイヤー・ジャパン株式会社)

公式サイトは情報が少なすぎるので社長のインタビュー記事を参照しようと思ったら、リンク切れでGoogleキャッシュしか残っていない。

「2Dファイヤー・ジャパン株式会社代表取締役 董 楓」(SUPER CEO)

↓同誌『SUPER CEO』のYouTubeチャンネルの動画は残っていた。

2Dファイヤー・ジャパンとしてのプレスリリースとしてはこちら。

「中国のグルメアプリを運営する「杭州迪火科技有限公司」が日本進出  春に日本でグルメアプリ『二維火』を使ったサービス開始」(2018/02/05 2Dファイヤー・ジャパン)

グルメアプリ「二維火」の機能としては、「飲食店の広報・予約~注文・決済から、在庫管理までスマホで行うことができます。また注文データはクラウドで管理し、飲食店から個人会員向けの販促にご活用いただけます」とある。

そして「日本進出の背景とサービス提供内容」では「訪日外国人の受け入れに飲食店が抱えている課題への解決策として、また訪日外国人の利便性を高めて、以下のサービスを提供します」と書かれている。

QRコードで順番がとれる、待ち時間が分かる、事前の注文が取れるなど、冒頭にあげた記事に書かれている機能は飲食店にとっては理想的であることは間違いない。

ただ、インバウンド客にフォーカスしてこのクラウド型業務パッケージを導入する利用料で採算がとれるかが最大の問題だ。

そこで店舗がこの業務パッケージの端末として利用するアプリのダウンロード実績を見てみる。

QRFood店舗 (Apple Store)

QRFood (Google Play)

どちらもユーザの評価が一つもない。Google Playにいたってはインストール数が「1+」、つまり1桁となっている。

どうやら日本ではあまり普及していないようだ。

その理由は比較的かんたんである。この業務パッケージを使ってパッケージの利用料分の利益を出す部分が見当たらないからだ。

このアプリで待ち時間を正確に計算するには、店の座席数と、いま埋まっている座席数、いま食事中の顧客の平均食事時間を予測する必要がある。

座席数は事前にマスターデータとして入力できるとして、後者の2つは誰がどうやって計算し、システムに入力するのだろうか。

店のすべての座席にセンサーを付けて埋まっている席数を自動把握し、平均食事時間は機械学習させるのだろうか。

筆者にはこの待ち時間計算の仕組みの想像がつかなかった。

たとえば日本のQBハウスという定額理髪店は、ネットで全店舗の待ち時間を公開しているが、待ち時間の予測が可能なのは、カット時間が10分間前後と決められているからだ。

しかも各店舗の座席数は多くても1ケタにおさまるため、予想待ち時間は自動計算でき、リアルタイムでネット公開できる。

二維火に話をもどそう。

待ち時間に顧客に事前注文をしてもらうためには、店舗はメニューのデータをすべて入力し、キャンペーンなどで価格を変更する場合も、そのつど更新入力する必要がある。

また、事前注文を受けても食材がなくなってメニューを出せないのでは困る。

そのため在庫管理ができると書いてあるが、こちらも食材の入荷のつど食材名と数量を入力しなければ、まともな在庫管理はできない。

製造業の在庫のように各品目の在庫数量が大きければ、発注点管理などシステム化する費用対効果はある。

しかし飲食店の食材は種類が多いわりに数量が少なく、単価も安いため、システムで在庫管理しても費用対効果を見込めない。

在庫管理に費用対効果がなければ、在庫管理をシステム化する意味がなく、在庫管理をしなければ、事前注文をうけても食材不足で料理を出せない可能性が高くなる。

その結果として、席についてQRコードでチェックインすると、すぐ食事が出てくるという機能も意味がなくなる。

よく考えてみて欲しいのだが、事前注文を受けた料理が席に「チェックイン」するとすぐ出てくるということは、事前に調理してあるということだ。出来たてではないということだ。

私たちがなぜ、飲食店で席に座ってから注文する、あるいは注文した後に料理が出るまで待つという不便さを受け入れているんだろうか。ファーストフードでさえ注文した後に出来上がるまで待つ。

それは単純な話で、出来たてを食べたいからだろう。

コンビニ弁当を電子レンジで加熱して食べるのではなく、わざわざ飲食店で料理を食べるのは出来たてを食べたいからではないのか。

この業務システムは、飲食店で顧客が求める食事体験の本質と食い違ってしまっている。

したがって、会計のときの支払いがQRコードで出来るのは良いが、注文データをそのまま支払いデータに連携してレジ打ちを不要にするためだけに、ここまでに書いた待ち時間管理、在庫管理、事前注文管理の機能を導入する費用対効果はあるだろうか。

ないと言っていいだろう。

したがって、たとえ導入資金がたっぷりあって二維火を導入した飲食店であっても、最初は顧客が物珍しさで通ってみるものの、店舗の実際のオペレーションが回らず、肝心の食事体験の質が下がる。

そうなるとQRコードでキャッシュレス決済が出来るかどうかは、もはや問題にもならない。

現場の(オフラインの)オペレーションをオンライン化するということは、必ず誰かが現実の状況をシステムにデータとして入力するか、現実の状況をセンサーなどをつかって自動でシステムに連携する必要がある。

この二維火を導入しようとしたとき、この点が最大の問題になる。

QRコードで待ち時間管理も、注文管理も、決済も自動化できれば便利なのは誰にでも分かる。

しかし、そのコスト(手間)は誰かが負担しなければいけない。

例えば日本では、飲食店を徹底して低コストで運営するために、食券販売機で顧客自身に、注文と決済を同時に行ってもらう方法が普及している。この決済でQRコードを使うのはアリだ。

しかし「入口」にあたる待ち時間管理は、上述のような理由でそもそも実現不可能である。

なぜ実現不可能な機能を二維火は実現できるとうたっているのか。

それはおそらく、二維火を導入している店舗に通い続ければ分かるのだろう。導入してしばらくすれば、待ち時間管理や事前注文は、まともに機能しなくなっているはずだ。