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alan、10年以上ぶりに家族と北京で暮らしはじめる

中国四川省出身の女性歌手alanだが、活動を中国に移すということで、ご承知のように先月2011/08初旬に帰国した。
どうやらこれまでの歌手活動のたくわえをもとに、四川省に住んでいたご両親を北京に呼びよせ、今後は北京で一緒に暮らすようだ。alanの中国マイクロブログ「新浪微博」の一連のツイートでわかった。
alanは下記のようにツイートしている。

爸爸明天就来北京了,终于盼到团聚的日子了,相隔14年没在一起常住,为了这一天的到来我努力了好久好久,从初一到大学毕业,再到东瀛四年多,我离家真的太久太久了、、、当然我也要感谢所有支持我的朋友,你们也像我的家人一样、、同时还要感谢伤害我的人,你们让我变的更坚强更勇敢了!2011/09/28 00:03
「お父さんは明日北京に来ます。ついに待ちに待った家族団らんの日々です。14年も一緒に暮らさず、この日のために私はずっとずっと努力してきました。中学一年生から大学卒業まで、さらに日本で四年あまり、私は実家を本当にとてもとても長い間離れていました、、、当然私は応援してくれる友だちの皆さんに感謝しています、家族のように思っていますよ。同時に私を傷つけた人にも感謝しています。あなたたちは私をより強く勇敢にしてくれましたからね!」

以前にも書いたように、alanはたびたび中国の掲示板サイトや新浪微博で中傷されているので、このツイートの最後の部分で、そういう人たちにひとこと言わずにはいられなかったのだろう。
しかし、この最後のひとことのせいでプチ炎上が起こる。コメントは約360あるが、そのうち一部のやりとりだけを試訳する。

ますます嫌いになった。おまえみたいな彗星はジョリン・ツァイのバカといっしょにどこかに行ってしまえ。地球の2012年を前倒ししないでほしいね。

何を言っているのかというと、alanのツイートの計算が合わないことを突っ込んでいる。中学一年生から大学卒業まで、そして日本で四年余りということは、普通に計算するとalanは今27歳になっているはず。
alanは24歳なので3年早すぎることになり、中国でおなじみの「2012年に彗星が地球に衝突して世界最後の日が来る」というネタを持ちだして、勝手に2012年を早めるな、と言っている。
ジョリン・ツァイ(蔡依林)も中国のネットでよく中傷される女性歌手で、悪意をもって「淋淋」というあだ名で呼ばれる。中国語の原文には「淋淋13」とあるが「13」はスラングで「バカ」の意味だ。
以下、また別のユーザーがあいの手を入れたりする一連のツイートを意訳してみる。

私もこの人ってすごいと思うわ~(訳注:これは皮肉である)
だよね。日本に4年いて17万枚しかCDが売れなくて、ツイッターや新浪微博で何もないのに自分のファンを罵ってるんだから、ほんと、すごいよ~
alan:あなたは人間どうし最低限尊重し合う気持ちをもうなくしてるのね。私を罵るのはいいけど、私の家族(訳注:alanのファンのこと)を罵る資格はないわ!あなた何歳?このバカ、ずっと遠くに行ってしまえ!(訳注:これはalan本人のレス)

alan本人がたまらずレスをしている。ところがまた揚げ足をとられてしまう。

懶懶が新浪微博で僕にレスをくれたぞ~うれしいよ!!すげえうれしい!!!

最初の「懶懶」は本来alanの漢字表記「阿蘭」の「蘭」をとって「蘭蘭」と書くが、ネットでalanを中傷する人たちは、同じ発音で「懶懶」と書く。「なまけ者」の意味だ。

alanのつぶやきに注目ポイント発見。ふつう中学一年生は13歳、その後14年家族といっしょに暮らしていないってことは、今27歳ってことですよね。。ウシシ。私また真相を知ってしまったわ
それが真相だね
おお真相だ
真相
alan:答え:私は今年24歳です。私は4年間でCDを26万枚(中国大陸と香港含む)を売ったことを本当に本当に決して恥ずかしいことだとは思ってません。この4年間は無駄ではなかったと確証してます。とても貴重な経験をすることができたし、それに、私は私のファンを罵ったことなどありません。なぜなら彼らは私を傷つけたことがないからです。言葉の一部だけを取って、事実を曲げないで下さい。私が罵るのはゴミだけです2011/09/28 19:22(訳注:これもalan本人のレス)

この最後のレスでも、alanは最後にひとこと余計なことを書いてしまったようだ。alanを中傷して面白がっているネットユーザたちを「ゴミ」と呼んだ上に、最後にゲロを吐く顔文字まで付けてしまった。
これでまたプチ炎上してしまうわけだが、せっかく北京で10年以上ぶりに家族いっしょに暮らせるようになった初日が、ネットユーザの中傷で台なしになってしまうとは、芸能人の宿命とはいえ、alanも哀れである。

日中韓3国コンサート:目に余るエイベックス提灯記事

今朝のスポーツ新聞のエイベックス提灯記事が目に余る。
昨日、北京のオリンピック・メインスタジアム(別名「鳥の巣」)で、中国・日本・韓国を「代表する」歌手が集まってコンサート「三国演芸 中日韓風雲音楽祭」が行われた。
同コンサートに出演したEXILEについて、日刊スポーツとスポーツ報知のネット上の記事は以下のとおり。
(*ちなみにどちらの記事も「三国演芸」を「三国演義」と表記する同じミスをしている。中国語では「芸」も「義」も発音が同じ「yi」で、中国の芸能記事でも間違っているものがあるが、「三国演芸」とは中国古典『三国(志)演義』の「義」をわざと「芸」にしたダジャレである)
『EXILE初海外 北京で4万人を魅了』(2011/09/26 日刊スポーツ)
『EXILEに北京4万人熱狂!中国名「放浪兄弟」で大歓声』(2011/09/26 スポーツ報知)
日本の芸能界に興味のある中国人に聞いてみるといいが、今回のコンサートに出演した日本人歌手、倉木麻衣、EXILE、Happinessのうち、中国で最も人気があるのは倉木麻衣だ。
その理由は、彼女がアニメ『名探偵コナン』のエンディング『Secret Of My Heart』を歌っている他、中国の若者の間でも人気のある『コナン』とのタイアップが多いからだ。
中国の10代、20代の若者にとって日本文化は、極言すれば、アニメかAKB48かのどちらかである。EXILEのような、そもそも日本のサブカルチャーと無縁な「マッチョ・リア充」グループが、中国の若者の間で大人気になるはずがない。
ちなみに中国の代表的なマイクロブログの一つ「新浪微博」に、EXILEは公式アカウントを開設しているが、フォロワーはたったの4万9千人(2011/09/26時点)。
若者人口が日本の10倍いる中国大陸で、芸能人としてこの数字しかないということは、EXILEは中国大陸では、ほぼ無視されているということを意味する。
なお同じ「新浪微博」でフォロワー最多をほこる芸能人は女優のヤオ・チェンで、1,250万人である。EXILEが中国大陸で無視できる存在というのが誇張でないことは、お分かりいただけるだろう。
まして今回のコンサート「三国演芸」の中国側の出演者を見れば、この手の文化外交においても日本が大変な失策をしていることが分かる。
中国側の出演者は、まず、ボーイッシュな若手女性歌手で、大陸では文句なしのトップスターである李宇春。そして、香港の大スターで、真田広之、チャン・ドンゴンとの共演もある男性俳優ニコラス・ツェー。大陸と香港とであえてバランスをとったと考えられる。
そして、日本人にもわかりやすいように、日本メディアに気をつかって、女子十二楽坊を出演させている。
ホスト国として、その他にも数組の歌手を出演させているのは、中国国内向けにメンツを保つ意味でも当然だろう。
こういう性格をもつ場に、Happinessのような、日本でもほとんど知られておらず、単にEXILEの事務所が売り出し中というだけの女性グループをバーターで出演させるなど、日本の文化外交の完全な失策である。
Happinessではなく、AKB48を出演させれば当然ベストなのだが、AKB48は別日程で上海で開催された「上海ジャパンウィーク」ですでにライブを行い、上海のオタクや腐女子の大歓迎をうけている。
上海ジャパンウィークのAKB48ライブのチケットについては、上海外語大学の学生がネット上でダフ屋行為をしたり、偽造チケットが出まわったりといった騒動が起こり、中国国内で報道されるほど、中国でもAKB48人気はすごい。
AKB48のメンバーの数名も、上記の中国マイクロブログ「新浪微博」に公式アカウントを開設しているが、2011/09/26時点のフォロワー数をEXILEと比べてみよう。
EXILE  48,923人
宮澤佐江  122,864人
秋元才加  110,387人
小林香菜  108,769人
梅田彩佳  95,698人
増田有華  84,820人
小嶋陽菜  39,387人
高橋みなみ  37,261人
板野友美  35,926人
渡辺麻友  35,582人
篠田麻里子  33,760人
大島優子  29,636人
前田敦子  27,045人
柏木由紀  24,442人
ちなみにトップメンバーでもフォロワー数が少ないのは、単に更新頻度が低いためである。
もちろん北京のオタクや腐女子の皆さんもAKB48を待ち望んでいたに違いないので、ベストメンバーでなくても、日本政府はHappinessの代わりにAKB48を出演させるべきだった。何ならAKB48の姉妹グループSDN48には、中国大陸出身のチェン・チューもいる。
しかし、この「三国演芸」にはエイベックス首脳部ががっつり噛んでいたので、EXILEとHappinessのバーターには誰も逆らえなかった、というのがおそらく実情だろう。同じエイベックス所属なら、中国四川省出身の女性歌手alanを出演させて、中国側に配慮する方法もあったにもかかわらずだ。
EXILEのバーターでHappinessを押し込むという、中国の観衆の意向を無視したキャスティングをした上に、スポーツ紙に上掲のような提灯記事まで書かせるとは、エイベックス・グループは今回の「三国演芸」を私物化したと言われても反論できないだろう。
エイベックスが先日のSMAP公演で裏方として多大な貢献をしていることを割り引いても、「なぜHappiness」なのかは説明不可能だ。
ちなみに中国メディア側の「三国演芸」コンサートについての記事へのリンクを張っておく。代表的なネットメディアとして、新浪と騰訊の2つの情報サイトのエンタメニュース欄の記事だ。
『中日韓三国歌会謝霆鋒唱経典 SJ愛宮保雞丁(図)』(2011/09/25 23:56 新浪娯楽)
『中日韓演唱会謝霆鋒唱響鳥巣 SJ high翻全場』(2011/09/26 01:03 騰訊娯楽)
いずれも記事のタイトルには、香港の人気男性スター、ニコラス・ツェー(謝霆鋒)の名前と、韓国のSuper Junior(略してSJ)の名前しか登場しない。記事の中でもEXILEは倉木麻衣やHappinessと同じレベルで扱われているだけだ。
Super Juniorの扱いが大きいのは、以前メンバーに中国人であるハン・ギョン(韓庚)がいたからだと思われる。ハン・ギョン(韓庚)はSuper Juniorを脱退した後、中華圏で活躍している。中国マイクロブログ「新浪微博」のフォロワー数は662万人に達する。
上掲の新浪の記事は、文面上は中国、日本、韓国を平等に扱っているが、写真では明らかに差がついている。例えば、EXILEの写真のキャプションに「放浪兄弟」の文字はない。これは意図的なものではなく、単に記者がEXILEの名前を知らず、確認もする気にならなかっただけと思われる。
騰訊の記事にいたっては、記事の文面上も、日本人より韓国人歌手の扱いの方が大きい。
今回の「三国演芸」が、対中国の文化外交としては、日本にとって失敗に終わっていることがよくわかる。そしてその原因の一部は、エイベックス・グループが「井の中の蛙」状態であることにあると思われる。

おすすめ40型LEDフルハイビジョン液晶テレビ BRAVIA 40EX720

薄型テレビを買い換えよう思っている方へ、少しでもアドバイスになれば。
ご承知のように薄型テレビは、完全地デジ化直前のかけ込み需要で値上がりした後、今は値崩れを起こしている。ウワサによれば冬モデルが発売された後も、旧モデルがさらに値下がりするらしい。
ただ、冬モデルの発売を待っていると、年末の「お正月くらい新しいテレビで迎えよう」という需要による、旧モデルの在庫切れで、旧モデルを安く買うチャンスを逃すおそれがある。
なので、旧モデルを安く買うなら10月末くらいまでがチャンスではないかと、勝手に想像している。
旧モデルと言っても、40型、フルハイビジョン、LED液晶、外付けHDDによる録画、倍速液晶、これくらいの条件は満たす製品を選びたい。でもできるだけ安くすませたい。
そういうわけで僕が狙いをつけたのは、各社の標準モデルのうち、東芝レグザ 40AS2だった。
価格.com:東芝 REGZA 40AS2
最大の理由は安さ。40型のLEDフルハイビジョン液晶なのに、家電量販店でも5万円台。

しかも、たまたま所有のHDDレコーダーが東芝製品(REGZAの一世代前のVARDIA)で、REGZAリンクで連動させることができる。
チューナーは地上デジタル、BS、CS各1個ずつしか搭載していないが、液晶は倍速で、HDMI入力端子も2つある。2つあればHDDレコーダーからの入力以外にも、もう1つ、パソコンからの入力や、ウチの場合はケーブルテレビのチューナーからの入力などにも使える。
外付けHDD録画はできないが、まあREGZAリンクでHDDレコーダーとある程度連動させられるので、ここは5万円のために多少の妥協はしよう。「価格.com」のユーザーレビューにも、他社の標準モデルに比べて決定的に悪い評価は見当たらない。
そういうわけで、ヨドバシカメラ秋葉原店に出かけたところ、同じようなことを考えている消費者はたくさんいるということで、先週まで在庫があったはずの東芝REGZA 40AS2は、次の入荷が2011/10/02(日)となっているではないか。
そこで思ったのは、これは8万円台のモデルを考え直すチャンスかもしれないということ。
店内を見てまわると、シャープ AQUOSやパナソニックVIERAに8万円台の標準モデルが見つかったが、意外だったのはノーマークだったソニーBRAVIAに7万円台の40型モデルが複数あったこと。
BRAVIA KDL-40EX720、BRAVIA KDL-40EX72S、BRAVIA KDL-40EX52Hの3機種だ。
LEDフルハイビジョン液晶を必須条件にすると、40型ではこの3機種に絞り込める。いずれも店頭で7万7,000円~7万9,000円の範囲内だった。
KDL-40EX52Hのみ録画用500GB HDD内蔵。内蔵チューナーもダブル。外付けHDD録画にも対応。HDMI入力も3つある。
KDL-40EX72Sは録画機能は内蔵せず、内蔵チューナーも1個だけだが、インターネット対応で、YouTubeなどのインターネット動画サイトの動画を見ることができる。外付けHDD録画には対応。HDMI入力は4つで、HDDレコーダー、ケーブルテレビチューナーからの入力を接続しても、まだ2つ余る。
ただ、TVサウンドバーというのが、価格.comのレビューを読むと音質の評価が低いわりに、この機種の外寸の「高さ」を高くする要因になっている。要は外観があまりよろしくない。
KDL-40EX720は録画機能は内蔵せず、内蔵チューナーも1個だけだが、インターネット対応。外付けHDD録画には対応。HDMI入力は4つ。TVサウンドバーのようなギミックはない。

最終的には、HDD内蔵をとるか、インターネット対応をとるかの選択になった。
どちらも外付けHDD録画はできるのだから、どうせならYouTubeをリビングの大画面テレビで見られる方が面白いだろうし、店頭価格はKDL-40EX720の方が少しだけ安かったので、最終的にはHDD内蔵を捨てて、インターネット対応のKDL-40EX720を購入した。
ヨドバシカメラ秋葉原店の店頭価格で77,100円。古い26インチ液晶テレビのリサイクル価格は2,835円。ギリギリ8万円以内に収まった。
即日配送でリビングに設置してみると、今まで使っていた2004年製のVictor26インチ液晶テレビと比べると別世界になった。
まずハイビジョンとフルハイビジョンの違い。それからバックライトがLEDになったため、全体にスリムで端正なシルエット。最も薄い部分が3.0cmというのは、ブラウン管テレビを液晶に買い換えた時ぐらいのインパクトがある。
それから、自宅のPCに接続していた、2007年冬モデルのアイ・オー・データ機器製、外付けHDD「HDCN-U1.0」をUSB接続してみた。もちろんKDL-40EX720の正式なサポート対象機器リストには存在しないが、手順どおりテレビ側から初期化すると、問題なく予約録画できた。
これでテレビ単体で予約録画が完結でき、DVDへ書き出し、パソコンでリッピングしたい場合だけ、東芝のHDDレコーダーを使えばよくなった。
また、インターネット機能は、仕様どおりYouTube動画をキーワード検索して、テレビの大画面で見ることができた。もちろん動画の画質はそれなりだし、キーワード検索の使い精度は悪い。
それでも、YouTube以外にもU-SENなど、他のプロバイダーの動画サービスも見ることができる(当然有償だが)。
また、今までの液晶テレビにはHDMI入力端子がなかったので、映像はD端子、音声はコンポジットケーブルでテレビに入力していたが、それらをHDMI入力にすることで、HDDレコーダーとケーブルテレビから出力されるフルハイビジョンの映像を初めて確認できた。
番組表のレスポンスも、今までの液晶テレビに比べると雲泥の差。チャンネルを替える時、いちいち画面が真っ黒になるのがやや気になるが、よっぽど頻繁にザッピングしない限り致命的ではない。
さらに、BRAVIAのこのモデルは、薄型テレビとしては標準的な10Wスピーカー×2個だけだが、擬似的なサラウンド効果があるので、テレビを見ていて音楽などの部分は、自動的にサラウンドっぽく聞かせてくれる。まあこれはオマケ程度でしかないが。
音声については光出力端子があるので、ホームシアターシステムに接続すれば、本格的なサラウンド音声も楽しめる。おかげでウチにあるYAMAHA TSS-15も、まだまだ現役で使える。
これだけの展開がある40型LED液晶テレビが8万円しないのだから、SONY KDL-40EX720 今が買いだろう。

台風の帰宅困難者と福島第一原発事故の共通点

昨日(2011/09/21)、台風が二十数年ぶりに首都圏を直撃した。
僕の勤めている会社は、昼休みが終わって早々に退社指示を出してくれたので、電車が動いているうちに無事帰宅できたが、夕方のニュースを見ると、新宿駅や渋谷駅が「帰宅困難者」であふれていた。
2011/03/11の大震災のときに見たのと全く同じ光景だ。
地震は予測できないし、あれだけ大きな地震なら「帰宅困難者」が主要駅に大量にあふれるのも仕方ない。
しかし、今回の台風は、気象庁が朝のうちから「最大級の警戒」を呼びかけ、夕方には東京がもっとも激しい暴風雨圏内に入ることは予想されていた。
にもかかわらず、大震災の教訓をいかさず、社員を定時まで働かせていた企業は、リスク管理能力がないどころか、「単なるバカ」と言われても仕方ない。
また、電車が止まる時間帯まで働いた結果、深夜まで帰宅できなかったことを、翌朝のオフィスで笑いながら語る会社員も、お気楽バカとしか言いようがない。
このように、本来さまざまなビジネス上のリスク、たとえば取引先の倒産や、特許関連の係争、輸出製品の管理、PR・IR上の風評被害などなどに敏感なはずの会社員でさえ、ほとんどの人が、今回の台風のような災害リスクについて、自分自身についてのリスク管理能力はゼロなのだ。
というより、地震や台風のような大きな災害に対して、事前にあれこれリスクを考慮するよりも、対策をあきらめて流れにまかせるというのが、日本的な発想なのかもしれない。もちろん、こんなものは「リスク管理」と呼べない。
そういう人々に、たとえば福島第一原発事故の20年後の影響を考えて、現時点の原発政策を考えろと言っても、無理な話だ。
また、少子高齢化の進行と社会保障や教育コストの長期的な増加を考えて、現時点で住宅は買うのがいいか借りるのがいいかを考えろと言うのも無理だろう。
これらリスク管理能力の欠如の背景にあるのは、現時点の日本社会の中枢にいる人々が、リスクを考えず、ひたすら前進するだけでよかった、経済成長期の成功体験をいまだに判断基準にしていることだろう。
そしてふつうの国民は、そういう人々に災害もふくめたリスク管理を「おまかせ」して、思考停止におちいっている。「まあ何とかなるだろう」といった感じだ。
そういった日ごろの思考停止は、昨日のような自然災害のとき、主要駅にあふれかえる「帰宅困難者」というかたちで明らかになる。
日本中で原発の運転にかかわっている電力会社の社員のリスク管理能力も、台風が直撃しているのに定時まで仕事をして、駅についてから「電車が止まっている」とあわてふためく会社員と、それほど違わないだろう。
つまり、原発のような、事前に予測不能・計算不能なリスクをかかえている設備を、永続的に運用するには、日本のふつうの会社員のリスク管理能力は、まったくあてにならないと考えたほうがいい。
ある社会の構成員のリスク管理能力が低いことは、その社会にとって最大のリスクである。これは個々の企業にもあてはまる。
ここまで来ると、日本の社会で、日本人どうしが、お互いのリスク管理能力をどのくらいと見積もっていて、どれくらい信頼し合っているかという、「リスク管理能力についてのリスク管理能力」の問題になる。
日本人のリスク管理能力の低さについて、大して危機感をもたない人たち、つまり、ニュースで新宿駅にあふれかえる「帰宅困難者」を見ても危機感をもたない人たちは、「リスク管理能力についてのリスク管理能力」が欠如していることになる。
自分の生活している社会が、実はリスク管理能力が低いことについて、事前に危機感をもってリスク管理ができない人たちは、自分の身近なことについて適切なリスク管理をできるはずがない。
たとえば、「原発を運転している人たちは、きちんとリスク管理をしているだろうから、日本の原発は大きな事故を起こさない」という根拠のない盲信は、社会のリスク管理能力の欠如についてのリスク管理能力の欠如の一例だ。
なぜこうなってしまうのかと言えば、そもそも自分自身が、台風が首都圏を直撃した程度のことで「帰宅困難者」になってしまうくらい、自分のリスク管理能力が低いからである。
昨日の台風で主要駅にあふれかえる「帰宅困難者」と、「人災」としての福島第一原発事故は、一見無関係のように思えるが、実はどちらも、自分の住んでいる社会のリスク管理能力の欠如について、僕らのリスク管理能力が欠如していることの証拠なのだ。
(なお、僕がいま勤めている会社は、当たり前のリスク管理能力があるということになる)

日経ビジネスのトンデモ記事『「うつ病の血液診断」の光と陰』

少し前、血液検査でうつ病を診断できる技術が実用化されるかもしれない、というニュースがあった。これについて日経ビジネスの記者が、とんでもない「片手落ち」の記事を書いているので、批判してみたい。
『「うつ病の血液診断」の光と陰~会社の健康診断に「うつ病」の項目が入ったら』 (2011/09/16 日経ビジネスオンライン)
もともとの研究結果は下記の場所にある(英文)。
DNA Methylation Profiles of the Brain-Derived Neurotrophic Factor (BDNF) Gene as a Potent Diagnostic Biomarker in Major Depression
タイトルだけ見ても分かるように、研究対象になったのは「大うつ(major depression)」患者だけである。
では「大うつ(major depression)」とは何かというと、どのような診断基準を使うのかで違ってくる。また治療現場においては、同じ「major depression」でも治療方法が違ってくる。
その治療方法の違いは、「major depression」が客観的に定義できたとしても、医者の治療方針によっても違ってくるし、医者の付き合っている医薬品メーカーの営業担当によっても違ってくるし、誰の下で精神医学を学んだかでも違ってくるだろう。
上記の日経ビジネスオンラインの記事の日野なおみという記者は、くだんの血液診断が「major depression」についてのみ実証された点を理解していない。
例えば日野なおみ記者は次のように書いている。

「うつ症状があったとしても、それが本当にうつ病なのか、それとも『双極性障害(いわゆる、躁うつ病)』のうつ状態なのか。高齢者の場合にはうつ病と認知症の初期症状の見極めも難しいという。
取材をした医師も『丁寧なカウンセリングや長時間の経過観察なくしては、正しい診断が下せないケースも多い』と説明する。こうした場合に、客観的なデータがあれば、医師の診断精度を高めたり、適切な治療を受けたりする助けになるだろう。」

この部分の後半の記述は、ほぼデタラメである。
先日の報道にあった広島大学の研究は、すでに「大うつ」の診断を受けた未治療の患者20名と、健康な18名を対象としている。「大うつ」患者と健康な人を区別するのに、DNAのメチル化が指標として使える可能性がある、ということだけを言っている。
つまり「大うつ」以外の精神疾患と健康な人を区別するためには、依然として従来の診断に頼らざるをえない。
くだんの血液検査は、「大うつ」の可能性が高い人だけを選り分ける程度にしか役に立たず、その他の精神疾患の患者の客観的指標にはならない、ということを意味する。
したがって、この血液検査が臨床で使えるようになっても、「客観的なデータ」になるのは「大うつ」の場合だけなのだ。
「大うつ」以外の精神疾患の場合、依然として従来どおりの診断が必要なので、「医師の診断精度を高めたり、適切な治療を受けたりする助けに」ならない。
企業における精神疾患のコストを考えれば、「大うつ」だろうが、その他の精神疾患だろうが、業務の妨げになり、何らかの対応コストが必要な点では変わらない。
さまざまな精神疾患の中で、「大うつ」だけを「客観的」に選別できるようになっても、企業における精神衛生コスト削減のメリットはない。
ところで、この記事の致命的な問題は、実はこの点にはない。
致命的な問題は、この血液検査の結果「正常」となったために、本人が不調をうったえているのに、医者にかかるのを企業側が妨げる「デメリット」を無視している点である。
日野なおみ記者は、本人が医者に行きたがらない場合については、たしかにこの記事でふれている。そしてそれを、この血液検査の「メリット」と呼んでいる。
またその「メリット」が、企業に内定が決まった学生の場合には、内定取消などの不利益をこうむる「デメリット」になるかもしれないという点にもふれている。
ここまではいい。
ところが、たとえば精神的な不調をうったえて会社に相談したとき、この血液検査で「正常」という結果が出たために、休職もできず、労災申請しても認定が受けられないという「デメリット」がある点を、完全に見落としているのだ。
むしろ企業側としては、このような血液検査が存在すれば、従業員が精神疾患をうったえて来たとき、「仮病だ!」と反論する証拠に使う方が、コスト面でメリットがあるのではないか。
ただでさえ、「新型うつ」など、企業側からすると本人の単なる「わがまま」としか思えない気分障害や適応障害などの精神疾患が増えている。
そういった精神疾患に対して、この血液検査を行って「正常」という結果を出せば、企業側は堂々と休職や治療を拒否することができるようになる。
日野なおみ記者の言うような、周りが見て明らかにうつ病っぽいのに、病院に行きたがらない人間を説得できる「メリット」よりも、精神疾患かもしれない従業員を「仮病」扱いして働かせつづける結果の「デメリット」(慢性化や自殺)の方が、明らかに大きい。
なぜなら、「大うつ」の患者数より、その他の精神疾患にかかる患者数の方が、圧倒的に多いからだ。
日野なおみ記者は、この血液検査が「魔女狩り」の道具になることばかり心配しているが、むしろ「魔女否定」の道具になる危険こそ、問題視すべきなのである。