接尾辞の ‘-ship’ は船の意味ではない

会社員向け研修で講師がアカデミックなことをしゃべり出したら、まず真偽を疑った方がいい。

skinship, internshipなどの接尾辞 ‘-ship’ の語源が船のshipなはずがないことは直感的に分かる。まして「船が港Aから港Bへ人を運ぶことから、人と人の間や関係性を意味する接尾辞」というのは完全に誤りだ。

念のため語源辞典で調べてみる。

https://www.etymonline.com/word/-ship

意味は「品質、条件、行為、力量、技能、事務所、地位、~との関係」など。中英語の ‘-schipe’、古英語の ‘-sciepe’ 、アングル語の ‘-scip’ が語源で、これらは「状態、存在の状態」を意味し、ゲルマン祖語では ‘-skepi-‘ とある。インド・ヨーロッパ祖語までさかのぼると ‘(s)kep’ で、「切る、皮をそぐ、たたき切る」などから ‘shape’ 、つまり「形づくる、創造する」の原義を持つらしい。

一方、船の意味の ‘ship’ の語源は古英語で ‘scip’ 、ゲルマン祖語で ‘skipa-‘、いずれも最初から船、ボートの意味で、もともと「切り出された木、中が空洞になった木」。「切る、裂く」の原義があり、接頭辞 ‘schizo-‘ と同じ語源までたどれるとする説もあるようだ。

接尾辞の ‘-ship’ が「形づくる (shape)、創造する (create)」という意味で木を切る、皮をそぐ、たたき切るのに対し、船の ‘ship’ は同じ木の加工でも「切り裂く (split)」方の意味。かつて精神分裂症と訳されていた ‘schizophrenia’ (統合失調症)の接頭辞 ‘schizo-‘ につながるのはうなずける。

https://www.etymonline.com/word/ship

つまり接尾辞の ‘-ship’ と船の ‘ship’ は無関係どころか、ほぼ反対の原義をもつことになる。

接尾辞の ‘-ship’ は何かを創り出す条件や性質のこと、たとえば leadership なら leader を leader たらしめる条件や性質、sportsmanship なら sportsman を sportsman たらしめる条件や性質を意味していると考えると、なるほどと思える。

高校時代にハイデガーを読んで、やたらと言葉の語源にこだわる。そんな会社員が日本にそう多くないことは分かっているし、いちいちそんな会社員がいることを前提に講師が話す必要もないと思う。

ただ、会社員向けの研修を受けていると、講師が無理をしてアカデミックなことを話して墓穴を掘る場面に出くわし、聴いているこちらが気まずくなることがままあり、悲しい。