中国のモバイク、ofoの日本進出が最近ホットな(?)ニュースになっている。たとえば下記の記事。
『2018年は、日本にとって「シェアサイクル元年」になるか』(2018/04/25 Forbes Japan)
答えは「なるわけねぇだろ」だ。
筆者は中国のアイドルグループSNH48を5年間ずっとウォッチしており、学生のメンバーがスマホ生放送でシェアサイクルを使う場面をたびたび見てきた。
いま日本でシェアサイクル事業をやろうとしている人間は、日本社会の特殊性がまったく分かっておらず、どうかしている。
コストの問題
大前提として、ユーザが負担する費用の問題。
どこの事業者もだいたい30分120~150円が相場だが、12,000円あれば自転車は買える。安いほうの120円でも、単純計算でたった50時間乗るだけで、12,000円の自転車はもとがとれる。
つまり、50時間のればもとがとれるのに、それでもわざわざシェアサイクルを使うメリットは何なの?ということ。
乗り捨てぜったい実現不能問題
かつ、日本のシェアサイクルは中国と違って、今のところ乗り捨てできない。
必ず指定の駐輪場、「ポート」とかカッコいい名前を付けているが駐輪場、指定の駐輪場にかならず返却しなければいけない。
じゃあ日本でいつか乗り捨て式になるかといえば、絶対ムリ。
まず乗り捨てられたご近所から、事業者に猛烈なクレームがくる。それでアウト。
また、中国で乗り捨てができるのは、乗り捨てた自転車を回収する肉体労働者がいるから。
日本で、あちこちトラックで走りまわって、ひたすら自転車を回収するようなアルバイトに応募する人間がいるか?
いたとして事業者はそのバイトの時給をいくらにする?たぶん元気な高齢者の半分ボランティア的な感じになるだろう。
それにしてもご近所が許さないので、乗り捨てはぜったいムリ。つまり専用駐輪場間の移動に限定される。
この2点が大前提。所有自転車のほうが50時間でもとがとれる点、今後とも絶対に乗り捨てができない点。
年齢層別:小中学生・高校生
では、都市部の想定ユーザを年齢層別に考えてみよう。
小中学生と高校生。自転車が必要なら親が買いあたえるし、自転車による行動範囲は限定的。通学か、最寄り駅までの往復。
自前の自転車を購入して、駅前に違法駐輪または有料駐輪場に停める。どちらにしてもシェアサイクルより圧倒的に安い。
かつ、誰が乗ったかわからず、整備状況もよく分からない自転車と、毎日乗ってブレーキの利きぐあいなど、自分で調子がわかる自転車、安全性の観点でも自前の自転車を選ぶだろう。とくに親の観点では。
したがって、小中学生、高校生ユーザはいない。
年齢層別:大学生
次は大学生。通学想定なら小中学生、高校生と同じなので、文句なしに自前の自転車。趣味でロードレーサーやマウンテンバイクに乗りたいなら、当たり前だが自前の自転車。
ただし、小中学生、高校生より行動範囲は広がる。最近の大学生は自動車を買わないが、お金のない大学生が従量課金の自転車に乗るだろうか。
シェアサイクルが必要になるのは、出かけた先で歩くのが面倒な距離を移動する必要がある場合と、自転車で出かけて自宅にもどらない場合だけ。
都市部に住んでいて、出かけた先で歩くのが面倒な距離を移動する必要がある場合ってある?
だいたい日本の街づくりは、最寄り駅からの徒歩圏か、幹線道路沿い、この2パターンのどちらかだ。つまり徒歩で行ける範囲と、車が必要な範囲。
その他の範囲には、駅から遠すぎるので値段を下げられる住宅地か、工場か、何もない土地があるだけ。こういう場所にシェアサイクルの需要はない。
行動範囲が小中学生、高校生より広い大学生でも、コスト高のシェアサイクルを使うニーズはない。
なので、大学生ユーザもいない。
年齢層別:独身の社会人
次は仕事をしている独身の人。
最近は社会人でも車を買わない人が増えているが、車を買う人はシェアサイクルがいらないのは言うまでもない。車を買わない人は、大学生と同じ理屈になる。
よって、社会人ユーザもいない。
年齢層別:既婚の社会人
次は結婚している人。いちばんありえるパターンは、パートナーといっしょに移動するために車を買う。子供ができたら事実上、自動車の購入は必須。
子供のいない夫婦で、パートナーといっしょに移動するのに自転車を使う場面ってある?あるとすれば上記の大学生と同じパターンになるので、需要はない。
ましてパートナーといっしょに移動するためにシェアサイクルを使うには、専用駐輪場にかならず2台以上のシェアサイクルがなければいけない。1台しかなかったらその時点でシェアサイクルはアウト。
よって、結婚している人にもユーザはいない。
年齢層別:高齢者
あとは年齢の問題だけになる。
一気に、高齢者までジャンプしてみる。
高齢者は性別問わず、基本、危なくて自転車に乗れない。筋力や反射神経の問題。昔から車を運転している人なら、当然、筋力のいらない自動車に乗る。
自動車を維持するだけのお金がない高齢者は、行動範囲が非常に小さくなるだけ。その範囲内なら自転車に乗ることはあるだろうが、お金がないので従量制のシェアサイクルなど使わない。
つまり、高齢者にもニーズはない。
ほら。いったいどこにシェアサイクルのユーザがいるんだよ。
こんなこと冷静に分析すれば、誰にだってわかるでしょう。
中国でシェアサイクルができた条件のおさらい
じゃあ中国ではどうしてシェアサイクル事業が成立したのか?
(1)一つの都市の広さが、日本の比じゃなく、だだっ広いから。
(2)まだ自動車を買うお金のない若年層人口が、日本の10倍いるから。
(3)乗り捨てできるから。
(4)都市部の移動範囲に、坂がほとんどないから。
日本の地形の問題
では話を「地形」の問題に移そう。
日本の都市部を考えてみる。
たいてい公共交通機関が十分に張りめぐらされている。
公共交通機関のない地域には、たいてい「何もない」。わざわざシェアサイクルで行く必要があるような目的地がない。
あと、たとえば名古屋の街づくりは異常で、自動車以外の交通手段を完全無視している。自転車でさえ歩道橋を使わなきゃいけないあの街づくりは変態的だ。
関西では、神戸は高低差がはげしすぎるが、大阪の都心部や、京都なら、高低差という点では問題なさそう。京都はバスでしか行けない場所に、本当は多くの人が行きたい場所があるので、そのあたりならシェアサイクルの需要はあるかも。
その他、東京や大阪市内ほど集積度の高くない都市は、基本、郊外への移動もふくめた日常生活を考慮すると、自動車が必須になる。
「地形」を考えても、日本にシェアサイクルの需要はほぼゼロ。少なくとも事業としてペイするだけの需要は、とうてい見込めない。
天候の問題
それから、天候の問題。
雨や雪が降ってきたらどうすんだよ。
シェアサイクル楽しいなぁ~って乗ってて、夕立に降られても、中国みたいに乗り捨てできないから、自分で専用駐輪場まで持っていかないとダメなんだよ。
自前の自転車なら、自分の所有物だから、イヤでも自宅まで押して帰るでしょ。
でも自分のモノでもないシェアサイクルを、どうしてわざわざ専用駐輪場まで押していくような手間をかけなきゃいけないの。
しかも雨降りの中、ずぶ濡れになりながら自転車に乗るにしても、押していくにしても、専用駐輪場までは確実にいつもより時間がかかる。
時間がかかれば課金が増える。
天候のせいで課金が増える自転車って、いったい何なんだよ。そんなもの使えるか。
日本人の潔癖症の問題
それからすでに上でも少し触れたが、日本人の「潔癖症」問題。
中国人との比較で、日本人が異常なまでの潔癖症であることは断言できる。
直前まで誰が乗ったかわからない自転車に乗れますか?ハンドルと、サドル。
公共交通機関なら、事業者に対する歴史的、社会的信頼があるので、ちゃんと清掃されている(はず)という安心感がある。
電車のつり革には、最近ではごていねいに抗菌処理がされていますとか、そんなことまで書いてある。
でもシェアサイクルは、専用駐輪場が吹きっさらしの場合もある。ちゃんと清掃員が一台ずつ定期的に掃除してくれる保証は?
たとえ清掃員が定期的に掃除してくれても、通りすがりのヘンな人が、自転車に気持ちの悪い細工(ここはいろいろ想像をふくらませて下さい)をしない保証は?
電車やバスなら「密閉空間」だから、乗客の誰かが座席やつり革にヘンなことをしたら、すぐ分かるよね。
でも自転車はオープンなわけ。
たとえ停めてあるのが専用駐輪場であっても、その駐輪場全体をガードして、鍵でロックしない限り、誰でも「いたずら」ができるわけです。
そんなシェアサイクルに潔癖症の日本人が乗ろうと思いますか?
ここまでちゃんと考えましたか?
日本でシェアサイクルやろうとしてる事業者のみなさんは、ここまできっちり考えましたか。
上に書いた要素のうち、一つでも考慮もれがあったとしたら、単なるアホですわ。
一般的に、日本企業でバリバリ仕事ができる人間ほど、日本の組織、社会の特殊性を客観視できない。
逆に言えば、客観視できないから、日本的組織や日本社会の中で、出世して一定の地位を得られるわけです。
そんな人間は、とうぜん中国の社会的条件と、日本のそれの違いなど、意識できるはずがない。
日本でシェアサイクルをやろうとしている人は、きっとそういう「日本社会に完全適応した人間」なんだろうと思う。