友人の陥ったカフカ的状況(1)

(注記:誤解が多いので最初に注記しておくが、下記の内容はソリトンシステムズ社の「DME」という製品とは全く無関係である。くれぐれも誤解のないようお願いしたい)

転職回数が多く、複数の企業に勤務経験があると、いろんな同僚に出会う。

また、比較的高学歴な中学、高校時代の友人の話をメーリングリストで読んでいても、いろんなサラリーマンがいるもんだなぁと、そら恐ろしくなることもある。

(ちなみに「サラリーマン」と男性を指す言葉を使っているのはわざとである。日本企業の総合職のほとんどが男性なのは悲しい現実だから)

これだけ法令遵守やコンプライアンスと言われながら、いまだに日本企業のサラリーマンの多くが、出世のためには手段を選ばない。中学高校時代の友人の会社の管理職にも、そういう人がいたらしい。

その管理職をT氏とする。


友人が当時勤務していた企業は、連結ベースでも従業員数が1万人を超えない中堅企業で、友人はIT部門で働いていた。IT部門の人数も正社員は30名前後の小さな規模。

管理職T氏はそんな企業規模に見合わない形式主義者で、大企業でなければ実質的に実行できないような細かいルールを作ったり、職務分担を細かく分けたり、協力業者とのやりとりも正規のルートでなければ耳を貸さないといった、ひとことでいうと融通の効かない過度な形式主義者だったらしい。

新しい基幹業務システムを新たに運用開始するときも、膨大な運用ルールの文書を協力業者に依頼して作成したが、そのほとんどが死蔵されているといった始末。

友人はそんな管理職T氏の形式主義を批判したことがあり、それ以来、T氏にこころよく思われていなかったらしい。

あるとき、全社のIT投資から見れば無視できる規模の、小さなパッケージソフトの導入検討が始まった。

ただし、その種のパッケージソフトは、欧米では事実上の標準になっている製品があったものの、日本ではあまり普及していなかったので、製品選定にはいくつか選択肢があった。

(1)一つは、友人の企業でそれまで利用していたパッケージソフトを、その目的にも流用してしばらく時間を稼ぎ、日本国内の動向を見るという案。

(2)一つは、同じ目的を、パッケージソフトではなく、欧米のみならず世界中で事実上の標準になっているネットワーク機器を利用して実現するという案。

(3)一つは、欧米で事実上の標準になっている製品(以下製品Gとする)を、日本国内には導入実績がほぼゼロだけれども、思い切って導入するという案。

(4)一つは、欧米でも導入実績がほとんどなく、日本国内にも導入実績がほとんどないが、日本国内の中堅ベンダーが懸命に売出をかけている海外製パッケージ(以下製品Dとする)を思い切って導入するという案。

以上の選択肢の順番には意味がある。(1)から(4)になるにつれてリスクが高くなっている。

(1)と(2)の案では、友人の企業のIT部門が持っている運用ノウハウをそのまま活かすことができる。

(3)の案では、製品Gは欧米で事実上の標準になっているので、その導入実績が一定のリスク回避になる。

(4)の案が、かなりリスクが高いのは言うまでもない。

しかも重要な点は、このパッケージソフトの導入は、友人の勤務していた企業の中核事業とは無関係な、業務効率化ツールだったという点だ。

通常の経営的な判断ができる管理職であれば、中核事業と無関係な部分で、下手なリスクをとることはせず、最低限の労力でそつなくプロジェクトを終わらせるだろう。

ところが、友人の勤務していたIT部門の管理職T氏は、なぜかここで最もリスクの高い(4)の製品D案を採用したというのだ。

筆者同様、比較的高学歴で、良くも悪くも必要以上に高いリスクをとりたがらない友人は、T氏の(4)案に反対した。

合理的な反論がいくらでもできたからだ。

ところが、管理職のT氏のみならず、その周囲にいた管理職も、友人の合理的なリスク評価に耳を貸さず、T氏が(4)案の製品Dを実行することを認めたという。

友人はやや粘着質の性格なので、何度もくり返しT氏や他の管理職、他部署の管理職に(4)案がもっともリスクが高いことを説明したのだが、無駄に終わった。あまりにしつこいので嫌がられた面があることは否めない。

当時、そのパッケージソフトと同分野のソフトウェア製品の情報は、日本国内にそれほど広まっていなかったこともあり、友人は個人のブログで、T氏の選んだ製品Dと、欧米で事実上の標準になっている製品Gの比較の連載を始めた。

友人のブログは匿名で、勤務先の社名を出すこともなかった。

また、製品の比較をするときは、必ずそれぞれの製品の開発元や、海外のIT情報サイトの評価記事など、第三者の資料への引用をつけて客観的に論じるようにしていた。

友人は自分の会社で(4)案が進むことについては、管理職が誰も聞く耳を持たない以上、あきらめるしかないと思ったらしい。

そのかわり、他の日本企業が同分野のソフトウェア導入に際して、まちがった選択をしないように、日本国内で紹介されていない英語情報を日本語に翻訳して、個人のブログで紹介することにしたという。

そのようにしているうちに、友人の勤務する企業では(4)案が着実に進められ、じっさいに運用も開始された。

筆者の友人は社内の状況を横目で見ながら、個人の匿名ブログで、(4)案の製品Dよりも(3)案の欧米で事実上の標準になっている製品Gが、さまざまな点で優れており、また導入リスクも低く、今後の成長性もあることを検証していた。

そんなとき、筆者の友人の身の上に、奇妙な事件が起こる。

友人が勤務先の広報を担当する部署の担当者に、突然呼び出されたのだ。それも非常に奇妙な理由で。

(つづく)