日本の中堅中小企業が「動かないコンピュータ」を作ってしまう主因

5社以上の日本企業の社内システム部門で勤務経験があると、基幹業務システム導入プロジェクトの「動かないコンピュータ」状態に必ずと言っていいほど出くわす。

下記リンクの日経ITProの記事がよくまとまっている。

『夏が去っても消えない「動かないコンピュータ」オバケ』 (日経ITPro 2014/09/01)

この記事のポイントは、中堅中小企業10社の情報システム部門の責任者に、直接取材した結果であることだ。大企業ではなく、中堅中小企業という点が重要。

その上で「動かないコンピュータ」オバケを以下の様なパターンに分類している。

1.「暴走上司」オバケ

大手企業向け製品を使うのが当然という考え方ありきで、徹底的にトップダウンでERPパッケージを導入したが、利用が進まず、システムを全面的に見なおすハメになったパターン。

これは「俺ってITのことをそこそこ分かっている」という自負のある「意識高い系」の中堅中小企業の経営陣が、自社組織のガバナンス水準を客観的に見ることができず、誤って大手企業をお手本にしてしまうパターンといえる。

2.「見栄張り」オバケ

こちらは中堅中小企業の経営層が、他社に対して見栄を張りたいがために、同業大手企業が導入したのと同じERPパッケージを入れれば、大手と比肩できるという勘違いをしているパターン。

以上の2パターンの場合、大手企業向けERPパッケージが前提になるが、複数ベンダーにコンペをさせたとき、自ら逃げ出すベンダーが出てくるという現象が必ず起こる。そしてそのベンダーは大手ベンダーであることが多い。

なぜなら、大手ベンダーほど「動かないコンピュータ」の失敗例を見てきた経験があるからだ。

大手ベンダーは日本でERPパッケージがブームになった当初から、中堅中小企業にもERPを展開した経験が豊富で、そのため中堅中小企業の大手向けERP導入の失敗事例をたくさん経験している。

その結果、どういった社風の企業が失敗しやすいかを学習している。

なので、中堅中小企業のコンペに参加し、現場担当者や経営陣にプレゼンテーションをするうちに、その企業の社風を見て、ERPパッケージ導入が失敗するかどうかのリスクをかなり正確に測定できる。

筆者も一時期、大手向けERPパッケージの営業の仕事をやっていたことがあるが、特に経営者向けの最終プレゼンに近い段階になればなるほど、それぞれの企業の社風は手に取るように分かってくるものだ。

例えば、現場担当者向けのプレゼンで、細かい機能についての質問ばかりが出てくるが、経営層向けのプレゼンではほとんど本質的な質問が出てこない。こういった企業は、実はオペレーションの決定権を現場が握っていて、トップダウンがムリである場合が多い。

他にも、中堅中小規模の企業なのに、最終プレゼンで10人以上の参加者がいるような企業は、「言い出しっぺ」以外の経営層が実は傍観者であることが多い。その場合は、実際に導入が始まると、IT部門しか動かないというパターンになる。

以上のように、大手ベンダーは多数の企業に大手企業向けERPパッケージを導入した経験があるので、コンペの途中で「この企業にはムリだ」ということが分かる。分かると、穏便にコンペから降りる。

逆にユーザ企業の立場から言えば、ERPパッケージを導入しようとコンペして、大手ベンダーがイヤに消極的で、中堅ベンダーしか食い付いてこない場合は、大手ベンダーに見限られたと判断でき、そのプロジェクトは失敗するリスクが高い。

残念なことに、ベンダー側は複数の顧客企業と付き合うことで、失敗のパターンを学習できるが、ユーザ企業側はERPパッケージ導入プロジェクトなど10年に一回あるかないかなので、失敗のパターンを学習できない。

上記の日経ITProの記事は、「『動かない』オバケはすぐそこにいる」と記事を締めくくっている。

しかし、複数の企業で働いたことのない生え抜き社員の経営層は、本業での成功経験で自信を持ってしまっているので、自社の社風を客観的に見ることが難しい。

その結果、専門外のIT関連のプロジェクトについては、失敗から学ぶことしかできない。

叩き上げの社員がそのまま経営層になるような中堅中小の日本企業は、おおむねそういったものだ。