ほとんどの日本企業で基幹システム再構築が問題を抱える理由

僕は個人的に、いままで数社の一部上場企業の情報システム部門に勤務経験がある。
どの日本企業でも基幹業務システム再構築は難航する
どの企業でも、基幹業務システムの再構築は必ずと言っていいほど難航し、予算超過し、期限どおりに完成しない。
一つの日本企業に長く勤務している人は、「基幹業務システムがこれほど問題を抱えているのは自分の会社だけだ」という勘違いをしがちだが、それは違う。
なぜ、どの日本企業でも、基幹業務システムの再構築は問題だらけなのか。
それは、日本企業は職務分掌があいまいで、異なる職種間の人事異動がほとんどなく、仕事が属人的になりがちだからだ。
その結果、ほとんどの社員に、自分の業務を客観的に言語化する能力がない。
基幹業務システムを利用する部署の社員に、自分の業務を部外者にも分かるように説明したり、文書化したりする能力がないということは、システムの設計書を書くべき人が書けないということになる。
最初の仕様書を書く責任は業務部門にある
これは当たり前のことだが、基幹業務システムの最初の段階の仕様書は、業務をやっている当人が書く必要がある。
自分でエクセルやワードを使って書く必要があるという意味ではなく、情報システム部門の人間に分かるように、自分の業務を整理して言葉にして伝える必要がある。
その責任はあくまで、業務部門の側にある。
ところが、日本企業の社員は、自分の業務を他人に分かるように、極端にいえば、小学生や中学生の子どもたちにも分かるように整理して説明する、論理的思考力や表現力が弱い。
さらに悪いことに、システムを作るための設計書が出来ないのは、自分たちの論理的思考力や表現力が弱いせいなのに、情報システム部門の理解力がないと言って、責任を転嫁する。
こうしたことが、日本中のあらゆる企業で、あきることなく何度も何度もくり返されている。そして日本企業の会社員たちは、それを根本的に解決する能力がない。
基幹業務システムの再構築に問題が起こったら、その本当の原因は、ほぼすべての日本企業が抱える構造的な問題なのに、自社の基幹業務システムに焦点をしぼって、問題を解決しようという、ムダな努力をする。
日本企業における業務の属人性と名ばかりの「成果主義」
では、この問題はどう解決すればいいのか。
解決などできない。それが答えだ。
日本企業は欧米企業と違って、文化と法制度によって、ホワイトカラーの雇用の流動性がきわめて小さくなっている。その結果、業務が属人的になる。
よく「声の大きい人が出世する」というのは、企業の人事評価が、「成果主義」とは名ばかりで、成果ではなく社員の情緒的属性、もっとも典型的なのが「協調性」と言われる属人的な属性で決まるということだ。
もちろん人事評価をする側は、表立って「協調性がないから出世させない」とは言わない。しかし結果を見ると、協調性のない人間は、能力があっても出世しない。
個人の属性が重視され、かつ、業務が属人化した日本企業で、基幹業務システムの再構築がそもそも順調に進むはずがない。これは一企業だけでは解決不可能な問題なのだ。
解決できない問題があると認めることが必要
一企業だけで解決不可能な問題を解決しようとして、例えば業務改革プロジェクトや、第三者による評価を受けるために費用をかけるのは適切ではない。
本当に日本企業の「基幹業務システム問題」を解決したいなら、「あ・うん」の呼吸を重視する日本のハイコンテクストな文化や、正規雇用と非正規雇用の格差が開きすぎている法制度を変える必要がある。
だがこれは、当然ながらかんたんに変えられるものではない。
その費用を、IT関連で基幹業務システム以外にもっとも費用をかけるべき部分、つまり、情報基盤の充実に当てた方が、よほど業務部門の効率化につながる。
例えば、拠点間のネットワークをより高速な回線にする、全社員のパソコンを新機種に一気に入れ替えるなど、そうした投資のほうが会社全体の業務効率はよほど改善される。
世の中には、解決できない問題があるのだと知る謙虚さを持たなければならない。
(参考:ソクラテスの「無知の知」
ただ、自分の能力の限界を自覚する謙虚さを忘れがちなのも、また、日本企業の管理職の特性なのだけれども…。