日経ビジネスのTOEIC「裏ワザ」についてのトンデモ記事

日経ビジネスオンラインには、たまにとんでもなく低品質の記事、いわゆるトンデモ記事が掲載されるが、今日も一つ見つけた。
『TOEIC“裏ワザ”を見て考えたグローバル人材育成 必要性を感じさせるマネジメントこそ近道』 (2012/11/12 日経ビジネスオンライン)
記事を要約する。
前半は、この記事を書いた記者が今年TOEICを2回受験したが、隣席の受験者が、試験の最初、リスニング部分のアナウンス中に、リーディング部分の問題を先に解くという「裏技」を使っため、試験に集中できなかったという、ほぼどうでもいい内容。
後半は、企業がグローバル人材を育成するとき、従業員の動機づけに最も重要なのは、TOEICのスコアよりも、語学学習の必要性を体感させることだ、という内容。
まず前半だが、隣席の受験者を気にしているヒマがあったら、ご自身の試験に集中されてはどうか。
まして、隣席の受験者の受験票をのぞき見して、勤務先の社名をチェックし、その「裏技」のずるさを非難するようなことを、公の記事として書くべきではない。個人のブログならまだしも。
TOEICのリスニング部分のアナウンス中に、リーディング部分を先に解くという芸当は、この記者が自ら書いているように、高い聴解力がないとできない。
これは、その受験者がTOEICを一つの手段として、英語力を伸ばすという目標を達成すべく努力してきた成果だ。
それを「ずるい」だの「裏技」だの「テクニックを磨いてまでTOEICの高得点を目指すというような怪しい方向」だの、まるで悪いことをしているかのように書くのは、この記者の試験中の集中力のなさ、英語力の低さ、何より記者としての良識のなさをあらわしている。
一方、記事の後半だが、企業が「外国語習得の必要性を現場社員に実感させるマネジメント」として、「TOEICを入社や昇格の条件にするより先に、世界を身近に見せる工夫こそ、経営者や人事部門に求められている」とある。
日本人社員を海外駐在させる前に、語学力不足で意思疎通ができないことによるリスクを避けるため、事前に語学学習させるのは企業のマネジメントとして当然だろう。
しかし経営者や人事部が、社員一人ひとりに最適な語学学習法を指導するコストなどかけられない。
したがって、TOEICのスコアなどの形式的な規準を設定し、その形式的な規準を純粋な「手段」として、社員一人ひとりに語学学習をうながす動機づけにするのは、企業にとって経済合理性のあるマネジメント手法ではないのか。
記事に登場する大和ハウスのクアラルンプール事務所の例は、「一級建築士」という特別な資格をもつ日本人社員だからこそ、語学力が大きな問題にならなかった特殊事例だ。
もっとも、厳密な説明を求められないビジネスなら、そもそも中国や東南アジアでは語学力は問題にならないだろう。
赴任先が欧米で、まともに英語さえ話せない状態で駐在すれば、それだけでまず信頼されないだろうが。
この記事の最大の欠陥は、大和ハウスのような特殊事例を普遍化していることだ。
大和ハウスのような事例があるからといって、各企業がTOEICスコアなどの形式的な基準を一つの単なる「手段」として、社員に語学学習を促すマネジメント手法を、否定する理由にはまったくならない。
正直言って、単にこの記者が自分の英語の勉強方法に、疑念を持ち始めただけではないのか。
そういうきわめて個人的な問題意識を、いきなり日本企業における外国語習得のマネジメントという大問題に短絡しているだけではないか。
この記者は、「この1年間、マンツーマンの英会話学校に通った。高度な表現、難しい言い回し、きれいな発音を学ぶ上では良かった。たが、ASEAN諸国では誰もそんな英語は使っていなかった」と書いている。
しかし、もしこの記者が、ASEAN諸国でたまたま欧米人とともに仕事をすることになれば、「高度な表現、難しい言い回し、きれいな発音」は、欧米人から信頼を勝ちとるのに有用だ。
この記者は、自分の英語の勉強方法に、もっと自信を持ってはどうだろうか。あるいは、たった1年間マンツーマンの英会話学校に通ったくらいで、結果を求めるのは早すぎる。
不思議なのは、この記者が本当に「高度な表現、難しい言い回し、きれいな発音」を習得しているなら、なぜ隣席の受験者と同じことをする聴解力がないのか、ということだ。
もし聴解力が不十分で、隣席の受験者のような工夫ができないなら、この記者に対して言えることは、「もっと勉強しなはれ」ということだけである。
しかしこんなトンデモ記事を通した編集部も編集部だと思うが…。