日経ITProの「Androidに乗り換えたい理由」にならない5つの理由

ネットで散見するiPhone利用者のAndroid評価に的外れなものが多いのは、Android利用者の皆さんならご承知のとおり。日経ITProにもトンチンカンな記事があったので、ツッコミを入れてみたい。
『Androidに乗り換えたい5つの理由』 (2012/07/27 日経ITPro)
この記者は、今になってiPhoneからAndroidへの乗り換えを検討し始めたらしい。
第1の理由は「ユーザーインタフェース(UI)周りの操作性の向上」で、2012/06末に発表されたAndroid 4.1端末に触れる機会があり、次のような感想をもったことらしい。

思った以上に“ヌルヌル”動くことに驚いた。以前のXperiaで感じたひっかかるようなスクロールもない。iPhoneに勝るとも劣らない操作性を実現している

驚くべきことに、ここに登場する「以前のXperia」とは2009/11/03発売のXperia SO-01Bのことである。
2年半前のAndroid端末以降、デュアルコアCPUのAndroid 2.3端末がすでに十分「ヌルヌル」と動く事実を、この記者は知らないらしい。いきなりAndroid 4.1まですっ飛ばして、その「ヌルヌル」感に今さら感動するとは、この記者の「Android情報弱者」ぶりには逆に敬意を評したい。
ことほどさように、iPhone利用者のAndroidに対する見方は、Androidについて何か考える前の段階ですでに偏っているのだ。
次に、この記者がAndroidに乗り換えたい第2の理由は、「NTTドコモの料金プランが値下げされたこと」らしい。これも唖然とする。
Android端末は、2年前の時点ですでに、NTTドコモ、au、ソフトバンクの3社から発売されている。NTTドコモが「Xiパケ・ホーダイライト」を発表したから、ようやくAndroid端末が検討の土台に乗ったというのは、やはり「Android情報弱者」もいいところだ。
まずこの記者がソフトバンクのiPhoneを使っていた時点で、今般のプラチナバンド導入以前のソフトバンクの電波状況の悪さは許容範囲だということになる。
ならば、auの電波状況には何ら文句はないはずで、かつ、auのパケット定額制は2年前すでにNTTドコモよりも有利だった。今でも1か月のデータ量にまったく規制がない点で、NTTドコモの「Xiパケ・ホーダイライト」より有利である。
そしてauのAndroidスマートフォンのラインナップは、NTTドコモと同等だ。「Xi」の登場以前に、WiMAXの高速通信に対応している端末が選べていた点で、むしろより充実しているとも言える
第3の理由は「『Notification』の進化」らしい。

「Android 4.1では、通知バーから電話をかけ直すというアクションを起こしたり、メールを読んだり、画像を表示したりといったカスタマイズが可能だ」

いやいや。別にJelly Bean(Android 4.1)まで待たなくても、AndroidはAPI Level 1、つまりAndroid 1.xの段階からすでに通知機能(Notification API)があった。この通知機能が、iOSよりAndroidが先行していた数少ない機能の一つ、というのは有名な事実だ。
Android利用者としては、今ごろ通知機能のことを言われても…という感じで、やはりこの記者の「Android情報弱者」ぶりは尊敬に値する。
第4の理由は「『Android Beam』の強化」らしいが、NFC(近距離無線通信)やBluetoothを使ってAndroid端末どうしデータのやり取りができることと、iPhoneからAndroidに乗り換えようという気になることの間に、どういう関係があるか。
そもそも、Android端末どうしを直接近距離無線で通信させる必要性がある場面などあるのか。
GB単位の大量データをAndroid端末どうしでやり取りするには、無線通信では時間がかかりすぎるので、ふつうは外部microSDカードにいったん書き出してから、もう一台のAndroid端末にそのmicroSDカードを挿せばよい。
Android利用者にとって、microSDカードを外部ストレージとして使うのは当然のことだが、iPhoneにはmicroUSBスロットがないので、まさか端末間でデータをやり取りする方法として、無線通信しか思いつかなかった、ということだろうか。
この記者が本当にmicroSDカードのことを思いつかなかったとすれば、重症のiPhone中毒だ。
また、MB単位のデータをAndroid端末どうしでやり取りするなら、WiFi接続した状態でDropboxなどのクラウドのストレージサービスを使えばいい。
あるいは、GB単位であれMB単位であれ、PCに2台のAndroid端末をUSB接続し、それぞれUSBストレージとして認識させ、右から左へファイルコピーすればいいだけのことだ。
Android端末を使っていて、NFCやBluetoothによる端末どうしの近距離無線通信が必要になる場面が、僕にはまったく思い浮かばない。誰か教えてほしい。
そして最後の理由は、「個人的な好奇心からだが『Google Now』が加わったこと」らしい。
これについては、あなたの個人的な好奇心など知ったことじゃない、としかツッコミようがない。なお「Google Now」について、批判的スタンスをとった優れた記事は以下のリンクから読める。
『Google Now: クールと薄気味悪さの間には微妙な境界線がある』 (2012/07/23 TechCrunch Japan)
この記事を読めば、「Google Now」の登場でAndroidに乗り換えようという気になってしまう日経BPの記者の、批判性のなさが露呈してしまって、かなり恥ずかしい。
以上のように、5つの理由のどれも、Android 4.1が発表された2012年の今になって、やっとiPhoneからAndroidへの乗り換えを考え始める理由に全くなっていないのだ。ヒドい記事である。
僕は別に、AndroidがiOSより優れていると言いたいわけではない。この記者がAndroidへ乗り換える理由として提示している5つの内容に、明らかに事実誤認があると言いたいだけだ。
(1)「ヌルヌル」動くUIは、デュアルコアCPU搭載端末がAndroid 2.3になった時点ですでに実現されており、Android 4.1によって初めて実現されたかのような記述は、事実として誤りである。
(2)スマートフォンの料金プランは、電波状況がNTTドコモに劣らないauの方が、2年前も今も有利であり、これも記事の内容は事実として誤りである。
(3)通知機能はAndroidがiOSに先行した数少ない機能の一つで、今その優位性を取り上げるのは事実として誤りである。
(4)端末どうしの近距離無線通信は、Androidの場合はmicroSDカードを外部ストレージに利用できるため、端末間の大容量データの交換方法として不適切だ。大容量データ交換に無線通信しか方法がないような記述は、事実として誤りである。
(5)「Google Now」に対する記者の個人的な好奇心は、そもそも「事実」ではない。
以上、iPhone利用者がAndroidについて論じると、あまりにiPhoneに対する思い入れが強すぎて、基本的な事実誤認を犯しがちだ、という格好の事例が、この日経ITProの記事である。