SMAP北京公演は中国の若者文化の多様性を見落としている

先日(2011/09/16)行われたSMAP北京公演だが、工人体育館の収容人数の約半分に座席を制限して、その状態でほぼ満席の約4万人を動員し、1階席の多くは日本人、2階席は中国人で満杯だったらしい。
どうやら中国国内でも、このSMAP公演については評価が分かれるようだが、J-POPや日本のアニメが好きな層には好意的に受け入れられたようだ。
個人的に中国ツイッター(新浪微博)の中国人ネット友だち(多くは20代)に質問してみたのだが、ほとんどが木村拓哉の名前は知っているが、彼がSMAPのメンバーだということを最近まで知らなかったと答えたことに驚いた。
木村拓哉が出演する日本のテレビドラマは、彼らが小学生の頃、中国大陸のテレビでよく放送されており、木村拓哉の知名度は中国の若者の間では非常に高いようだ。
しかし、それ以外のSMAPメンバーとなると、かなりあやしくなる。草彅剛は、彼が出演していたテレビCMのセリフから「一本満足くん」というあだ名で知られているのも、今回初めて知った。香取慎吾も中国が原作の『西遊記』に出演していたので、一定の知名度はあるようだ。
しかし、リーダーの中居正広や稲垣吾郎の知名度は非常に低いと思われる。SMAPのリーダーが中居正広だということを知っている中国人は、SMAP全員をグループとして応援しているファンだけだと思われる。
中国の20代の若者の間で、日本の歌手で最も知名度が高いのは、たぶん浜崎あゆみではないか、というのが僕の個人的アンケート結果から得た結論だ。
木村拓哉は歌手というよりも、俳優であり歌手であるマルチタレント的な位置づけと思われる。純粋に歌手としての人気や知名度で言えば、浜崎あゆみが圧倒的のようである。
在中国日本大使の丹羽氏は、何ならSMAPに中国の全省をまわってコンサートをして欲しいと漏らすほど、政府間レベルで悪化した日中関係を、民間レベルで改善するために、SMAP公演に期待していたようだ。
しかし、ここにも世代間のギャップがあったのではないか。日本人なら丹羽氏のような高齢者(1939年生まれ)でもSMAPの名前くらいは知っているだろう。なので日本を代表する歌手としてSMAPを中国へ派遣するのは適切だと考えているのだろう。
ただ、日本の若者文化は、高度経済成長期のように、全員が同じ国民的歌手を応援する「一枚岩」的な文化から、趣味嗜好が細分化した無数のサブカルチャーに分裂している。
中国の80年代以降生まれの若者の文化は、建前のレベルではおおっぴらに政府に文句を言えないため、「一枚岩」であるかのように見えるが、中国ツイッターや各種掲示板をのぞいてみると、日本と同じようにすでに無数のサブカルシャーに細分化していることがわかる。
先日、『TIGER&BUNNY』という人気アニメの最終回が放送された。たぶん日本人であっても、このアニメの内容までご存知の方は非常に少ないと思う。
ところが、驚くべきことに中国ツイッターの「新浪微博」では、テレビと同時にUSTREAMで放送された最終回を、中国のネット規制をくぐりぬけてネットで視聴しながら、リアルタイムで感想をつぶやいているユーザーがいたのだ。
(ちなみにこのユーザー→「鏑木-T-八尼」。なお「BUNNY」を中国語で書くと「八尼」となる)
しかもそのユーザーは、このアニメの主人公である2人の男性について、いわゆる「ボーイズラブ」といわれる同性愛の設定を勝手に仕立てたパロディ漫画まで、ネット経由で日本から入手して「新浪微博」に画像を貼りつけていた。
中国の、たぶん比較的裕福な中間層と思われる若者の趣味嗜好は、すでにここまで細分化している。
そういった中国の若者に対して、日本を代表する歌手をSMAP一つに絞り込み、何なら中国全土を巡回公演してほしいというふうに期待をかけるのが、いかに時代錯誤か、ということがお分かり頂けると思う。
中国大陸におけるインターネットの普及によって、日本の平均的な(?)若者と、中国の平均的な(?)若者の間の、国による文化の違いよりも、日本と中国の中高年と、日本と中国の若者の間の、世代による文化の違いの方が、より大きくなっていると言えないだろうか。
本来、今回のSMAP公演は、政府レベルで悪化した日中関係を、民間レベルで改善するためだったはずだが、両国要人の思惑がからむことで、かえって「政治ショー」になってしまった気がする。