日中合作アニメ『チベット犬物語』は日本で成功しない

今日(2011/07/15)から、中国全土で日中合作アニメ長編映画『チベット犬物語』(原題『藏獒多吉』)が劇場公開される。日本でも年内に公開されるらしい。
エイベックス所属の中国人女性歌手、alanが主題歌を担当、登場人物の一人、メイドラム役の声優も担当している。
新作映画を紹介する中国のテレビ番組を見て、『チベット犬物語』がどういった映画なのか、だいたい分かってしまったので、日本公開を待たずにレビューするという思い切ったことをしてみたい。
物語については、以前から中国の各種サイトで紹介されている内容のとおり。今は初老になった男性が、子供の頃、父親の仕事の関係で生活したチベット自治区で出会った、チベット犬との思い出を回想するというもの。
チベット自治区の美しい大自然が、精緻な背景画で再現され、人間とチベット犬の強い絆、悪を具現した巨大な怪獣との戦い、自然と共存しつつ暮らすチベット族の生活などが、感動的に描かれる。
主人公は子供時代の語り手である、ティエンジン。そして、あまりデフォルメなく、リアルに描かれたチベット犬、ドルジ。
ドルジが巨大怪獣と戦うシーンや、ドルジがティエンジンを雪崩から救い出すシーンなど、スピード感のあるアクションシーンも豊富なようだ。
『チベット犬物語』の物語や演出、作画を見ると、日本でこの作品を観るとすれば、ジブリアニメのファン層と重なるだろう。問題はジブリアニメのファン層が、日中合作のアニメを観ようという気になるかどうかだ。
ジブリアニメのファン層は、コアなアニメファンというより、ファミリー層が多いと思われる。
宮崎駿自身は完全な左翼だとしても、『チベット犬物語』は、ある程度、中国とチベット自治区についての予備知識がないと「的確に」鑑賞できないと思われる。
中国人の観客にとって、チベットはエキゾチックな魅力があるかもしれないが、日本人にとって、経済成長いちじるしい中国と、ダライ・ラマと仏教のイメージが強いチベットは全く別物だ。
ふつうの日本人は、国家としてのチベットと、中国のチベット自治区の区別など関心がない。逆に関心がある人は、中国政府はチベットを弾圧する悪者という「FREE TIBET」の立場をとる人がほとんどだ。坂本龍一もふくめて。
日本の一般的なファミリー層が、チベットに強い関心があるとは思えないので、残念ながらジブリアニメのファン層が『チベット犬物語』を観ようという気にはならないだろう。
しかも『チベット犬物語』には、コアなアニメファンを惹きつける要素が一つもない。
「萌え」な少女もツンデレ少女も登場しないし、クールでかっこいいお兄さんも登場しない。もちろん腐女子の喜ぶボーイズ・ラブ要素もないし、逆に百合の要素もない。
過去に背負ったトラウマを引きずる少年や少女もいないし、超能力に突然めざめる少年や少女もいない。ロボットも当然、登場しない。
一人の少年や少女が地球規模で秩序を変えてしまうような「セカイ系」要素もないし、平々凡々たる日常が延々と続くこともない(適度にハラハラする事件がおこる)。
相手の読みのウラのさらにウラをかくような騙し合いもないし、グロい戦闘描写もない。板野マジックが冴えるような空中戦もないし、パースが極端に歪んだ前衛的な表現があるわけでもない。
いかなる点でも、コアなアニメファンを満足させるだけのものが『チベット犬物語』には全くない。このあたり、オタクを軽蔑している「リア充」の方々には分からないだろうなぁ。
同じ中国製のアニメなら、2011/07/08から中国で公開されている『魁抜』の方が、よほど日本のコアなアニメファンにも理解できる要素がたくさん詰め込まれている。
中国国産アニメ『魁抜』(YouTube)
あるいは、こちらは自主制作だが中国製アニメ『カンフー料理娘』も秀逸だ。
中国製 自主制作アニメ『カンフー料理娘』(YouTube)
結論:『チベット犬物語』は日本で公開されても大失敗する。(天津ほどの大都市でも上映館がなく、中国本土でもalanファンなど、特定の層しか観に行かなさそうだし)