「原子力エネルギーとしてのトリウム燃料」(『アメリカン・サイエンティスト』誌 2003年9-10月号)試訳

『アメリカン・サイエンティスト』誌より「原子力エネルギーとしてのトリウム燃料」(2003年9~10月号)という記事を翻訳してみたい。素人の翻訳なので、用語や表現にたくさん間違いがあると思う。ぜひご指摘いただきたい。
‘Thorium Fuel for Nuclear Energy’ American Scientist September-October 2003
原子力エネルギーとしてのトリウム燃料
ムジッド・カジミ
筆者紹介:1973年マサチューセッツ工科大学原子力工学博士号取得。現在、東京電力プロフェッサー。MIT先進原子力研究センター(CANES)を指導、より経済的・安全・環境負荷の低い原子力発電所の新たな構想と核兵器拡散障壁を高める研究を行なっている。
テロリストがいざ原爆を作るのに、ウランやプルトニウムを奪うとしたら、どんな方法があるだろうか。この疑問は多くの人の心に重くのしかかってきた。もっとも簡単なのは、たぶん北朝鮮から買う方法だろう。諜報機関によれば、北朝鮮にはそれなりの備蓄があるようだ。平壌の核兵器製造への野望は今年もたびたびニュースになっているが、専門家は他の「関係諸国」がこの恐ろしい兵器を入手することを心配している。しかし北朝鮮の例はむしろ明確で、国際的な安全保障上、長きにわたって問題になってきた。私のような原子力技術者が心から解決したい問題である。
ほぼ10年前、前大統領ジミー・カーターなどの外交努力によって、当時の武力衝突の脅威がなくなったことで、世界中が安堵のため息をついた。当時、北朝鮮はIAEAの査察を妨害し、核不拡散条約の署名国としての義務を明らかに果たさなかった。とくに北朝鮮は原子炉から取り出した使用済燃料から、少量のプルトニウムを生成したことを認めていた。原爆を作るにははるかに少なかったが、この事実を確認するための査察官の調査を拒否したのだ。
まず、なぜ北朝鮮は核燃料を再処理したのか。民生用の原子力の平和利用では、米国やその他の国が示したように再処理はまったく必要ではない(米国の原発では、使用済燃料は単にドライカスクや冷却プールに格納され、2010年頃に開始予定のユッカマウンテン貯蔵所での処理に備えている)。北朝鮮の決定は、一見したところ、原子炉内せ生成されたプルトニウムを取り出して、核爆弾を作る意図を示しているように思えないだろうか。
だが、必ずしもそうではない。北朝鮮の原子炉は米国のものと設計がまったく違う。米国では水を冷却材としても、減速材、つまり核分裂で放出され、さらに核分裂反応を引き起こす中性子を抑える物質としても使っている。北朝鮮の「マグノックス」反応炉は(マグノックスという名前はウラン燃料を封入する酸化マグネシウム合金から来ている)、冷却材として気体を使い、減速材として黒鉛を使っている。英国で長く使われていた原子炉と同じ設計だ。マグノックス反応炉から取り出された使用済燃料は、安全に貯蔵できないことが分かっている。空気中や水中より酸化されにくい形態へ再処理しなければいけないためだ。したがって北朝鮮が使用済燃料を再処理していたという事実は、それ自体、明らかに悪意だとすることはできない。しかし、彼らが国際調査団を妨害したのは、まったく困ったことだった。
カーターの仲介のおかげで、多くの心配が軽減された。黒鉛反応炉を停止する見返りに、北朝鮮はワシントンから米国型の原子力発電所を手にれる支援を得た。それも惜しみない支援といっしょに。この解決は、少なくとも部分的には、技術的な解決であり、北朝鮮に核エネルギーの平和利用を研究する道を与えた。北朝鮮が原子力発電を使いつづけても、使用済燃料を再処理して爆弾のためのプルトニウムを抽出するのではないかという、国際的な懸念はなくなった。
もちろん、十分監視をしなければ、北朝鮮が新しい原子力発電所を利用し、秘密の施設で使用済燃料を再処理して、プルトニウムを生成するかもしれない。たしかに、昨年、パキスタンがミサイル技術と引き換えに、北朝鮮に高速遠心分離機を送ったとき、北朝鮮が爆弾の材料を密かに生産する意図が明らかになった。高速遠心分離機とは武器にできるレベルのウランを生産する設備である。そのような設備がかんたんに入手できるなら、通常のウランを爆弾に適した高濃度形態へ変えようとしていないか、監視することはますます難しくなる。したがって世界はおそらくつねに脅威にさらされることになるだろう。しかし核燃料が爆弾の製造に使われるとは、どういう問題なのだろうか。
使用済燃料の流用を困難にしている障害の一つは、反応炉から取り出した後も高い放射能が残っており、遠隔操作と、プルトニウムを抽出するのに十分な遮蔽施設が必要だという点だ。使用済燃料が軍事目的に使われる問題を、さらに制限できる技術的な方法はないのだろうか。この質問こそ、核燃料の設計者がくりかえし自問してきたことである。ここで私は、最近多くの関心を集めている一つの解答を示したい。それはトリウムである。
トリウムを使った発電所は1950年代の核エネルギーの誕生の時から考慮されていた。その理由の大部分は、トリウムがウランよりも地表により豊富に存在することだった。ざっと、トリウムはウランの3倍ある。核分裂反応炉の基本要件は、核分裂なわけだが、残念ながら、トリウム原子は自分で簡単に分裂してくれない。しかし一定量のトリウム232(トリウムの一般的な同位体)を核反応炉に入れると、中性子を吸収してウラン233に変化し、これが原子力発電所で一般的に使われているウラン235のように、核分裂の連鎖反応を助ける。
したがってトリウムは分裂するというより「増殖」すると言われる。この点では核燃料の95%以上を占めるウラン238に似ている。従来の反応炉は、プルトニウムからウラン238まで、さまざまな同位体を産み出し、そのプルトニウムの一部が、今度は反応炉の分裂の過程でウラン235の出力を増す。
トリウムを燃料として使うことのカギは、そこから熱を引き出す前に分裂が起こる必要がある点だ。そして分裂が起こるためには中性子が必要になる。粒子加速器を使って必要な中性子を作ろうと提案した技術者もいるが、これはコストがかかり過ぎる。したがって現時点で唯一現実的な方法は、トリウムを従来の核燃料(プルトニウムまたは濃縮ウランまたはその両方)と組み合わせることである。そうして提供される中性子で核分裂が始まる。
トリウムからウラン233を生成するのは、ウラン238からプルトニウムを生成するよりはるかに効率が良い。なぜなら、核分裂しない同位体の副産物が少ないからだ。設計者はこの効率の良さを利用して、出力エネルギーあたりの燃料を減らすことができ、処理すべき使用済燃料も減らすことができる。他にも利点がある。たとえば、原子力発電に使われる二酸化トリウムは、今日一般的に使われる二酸化ウランよりも、はるかに安定した物質である。したがってペレット状に加工するとき、周囲の金属皮膜と化学反応を起こす心配が少ない。また、金属皮膜が破れた場合、冷却水と反応する心配も少ない。さらに、二酸化トリウムの熱伝導率は二酸化ウランより10~15%高い。それによって反応炉で使われる細長い燃料ロッドの内部から、より速く熱が放出される。何よりも、二酸化トリウムの融点は二酸化ウランの融点より、摂氏で約500度高い。この差のおかげで、一時的な出力上昇や冷却材の喪失のときの安全性を確保する余裕がうまれる。
このような利点についての知識によって、より多くの技術者が実験をくりかえし行なうようになり、いくつかのグループではトリウムベースの燃料で商用原子炉を運転する実験に成功した。たとえば、冷却材に気体を、減速材に黒鉛をつかった、ピーチボトム一号機という反応炉が、1960年代半ばに南ペンシルベニアに建設され、トリウムと高濃縮ウランの組合せを使っていた。もう一台は、冷却材に気体を使った反応炉で、コロラド州のフォート・セントブレインに建設され、1976年から1989年まで同じようなトリウムベースの燃料で運転された。二酸化トリウムの高濃縮ウランという比較的単純な混合体による試験は、1960年代には水冷式の原子炉でも始まり、「ボラックス」(アイダホ州)とエルク川(ミネソタ州)の施設と、インディアン・ポイント(ニューヨーク州)の発電所でも使われ始めた。そして1977年から1982年まで、トリウムとウラン235またはウラン233というより複雑な混合体も、ペンシルベニア州シッピングポイントの水冷反応炉で使われていた。この実験プログラムは、核燃料が消費するよりも多く核分裂を生みだすような燃料の開発を目的としていた。おもしろいことに、1957年に実験を開始したシッピングポイントの施設は、商業発電目的としては米国で最初の発電所である。
トリウムベースの核燃料の研究は、決して米国だけではなかった。たとえばドイツの技術者たちも、トリウムの高濃縮ウランやトリウムとプルトニウムの組合せを、空冷や水冷の反応炉で使っていた。トリウムベースの燃料は英国、フランス、日本、ロシア、カナダ、ブラジルでも実験された。しかしこれらかなり早くからの努力にもかかわらず、ほとんどの国はトリウムを原子力発電所の燃料として使うことを、かなり以前にやめてしまった。唯一インドだけが関心を持ちつづけ、トリウムを含む燃料を1990年半ばに、いくつかの原子炉の燃料として使い始めている。トリウムを使った理由の一つは、単に反応炉の炉心の出力の分散を均一化するためだったが、インドの技術者はトリウムが燃料としてもどれくらい機能するか、機会をみて実験を行った。実験結果は良好で、トリウムベースの燃料を使う、より先進的な反応炉を、現在建設中である。
インドのトリウムベースの燃料への関心の一部は、インド国内でトリウムが産出できることにある(インドの推定埋蔵量は290,000トンで、オーストラリアについで世界第二位)。インドがトリウムの利用を推進すれば、海外のウラン依存から抜け出すことができ、貿易不均衡の問題と切り離すことができる。インドはいくつかの原子力発電所を使って兵器用のプルトニウムを作っている。このようにしてインドは、カナダなどの商用ウラン供給国に左右されることを拒否している。カナダは彼らが輸出したウランを使用している国に対して、ウラン燃料(あるいはそこから産み出されたプルトニウム)が核兵器に使われていないことを監督させるように求めている。
世界の他の国々でも、過去のトリウム研究は実際の採用にまでいたらなかった。その理由の大部分は、インディアン・ポイントの最初の原子炉のような水冷式原子炉の性能が、期待はずれだったことにある。こうした歴史を見る限り、トリウムベースの核燃料が、いま核兵器が拡散する可能性から派生して、一つの手段として再浮上したのは驚きである。プルトニウムを生成するのを防止するためにトリウムを使うなら、過去の何年にもわたる実験のほとんどと違った形で利用する必要がある。過去の試験では高濃縮ウラン(拡散の心配から現在は使用が控えられている)とトリウムが組み合わせて使われており、使用済燃料は再処理して核分裂物質を抽出する前提だった。これらは今ではどちらも想定されていない。現在設計されているトリウムベースの燃料の集合体は、別の面でも過去の実験に使われていたものと異なる。たとえば、炉心内部でより大きな熱と放射線に耐えうるので、分裂性トリウム232をより多くウラン233に分裂させることができる。つまり、今話題になっているトリウムは、父親の世代のトリウムベースの核燃料とは全く違うものなのだ。
上述のように、ウラン233不足のために、トリウムで動く反応炉には、ウラン235(あるいはプルトニウム239)のような、別の核分裂物質を使う必要が出てきている。今日濃度の高すぎる商用ウラン235燃料が禁止されていることを考えれれば、大量の(分裂性でない)ウラン238を一次燃料に含める必要がある。現在の基準では最低80%、ふつうはより多くのウラン238が必要になる。従来型の反応炉と同じように、ウランの同位体を濃縮する技術的に難しいステップを踏まなければ、爆弾用の新鮮な燃料を使うこともできない。
トリウムとウランの組合わせを使う主な利点は、従来型の反応炉に比べ、使用済燃料のうちプルトニウムの割合を大きく減らせることだ。どれくらい減らせるだろうか。その答えは、ウランとトリウムをどのように組み合わせるかによる。たとえばウランとトリウムを燃料棒の中で均質に混ぜる場合。この場合は生成されるプルトニウムはざっと半分に減る。しかし均質に混ぜる方法だけが、二つの元素の組み合わせ方ではない。
たしかに、現在の研究で行われている方式のほとんどが、濃縮ウランを含む「種」をトリウムを含む「カゴ」から離しておく、というものだ。この方式の主唱者は故アルヴィン・ラドコウスキー、原子力のパイオニアで、ハイマン・リックオーバー提督の命令の下、1950年代に米国海軍反応炉計画の主任科学者として、米国海軍の原子力化を助けた。ラドコウスキーは1960年代から70年代にかけて原子力産業に多大な貢献を果たした。それから、エドワード・テラー(彼の以前の教師の一人)に核兵器が悪人の手にわたる脅威を減らすように促され、ラドコウスキーはトリウムベースの燃料へ注目するようになった。放射性廃棄物を減らせるということで、ラドコウスキーはすでにトリウムのことを知っていた。1992年、彼はトリウム・パワー社という民間企業の設立を助け、この技術を商業化した。残念なことに、ラドコウスキーは彼のビジョンの実現を見ないまま86歳で亡くなった。
ラドコウスキーのアイデアは、典型的な水冷式の原子炉を少し改造するだけで使える、特別な燃料を組み立てるというものだった。これらの燃料ユニットは反応炉に使える濃度のウラン(つまりウラン235が20%以下)で満たされた燃料棒を含む中央シード(=「種」)域からなる。シードを取り囲むのはブランケット(=「カゴ」)域で、トリウムと少量のウランを含む燃料棒である。ブランケット内にウラン238を入れることで、時間とともに生成される分裂性ウラン233を。これらの燃料棒を引きぬいて、化学的手段だけを使って分離することができないようにしている。
米国エネルギー省の援助と、ブルックヘブン国立研究所の助けをうけて、トリウム・パワー社はいまモスクワのクルチャトフ研究所と共同で、この方式をより深く研究している。彼らのコンセプトは、合金をシード燃料に使い、ロシアの反応炉のシードユニットを3年間維持するが、その後10年かけてブランケットの燃料棒はそのままで、シード域の燃料棒を置き換えていくというものだ。しかし、彼らの実験結果は世界のほとんどの国の原子力発電所へ直接応用することはできない。なぜなら、燃料が酸化物(西側諸国でより好まれる)ではないし、これらの実験に使われたロシアの反応炉が、燃料棒に六角形の配列を用いているのに対して、西側諸国の施設では正方形の配列が使われているためだ。
ラドコウスキーと彼の同僚たちは、同じ出力の従来型の反応炉に比べ、生成されるプルトニウムを80%減らせると計算した。さらに、生成されたプルトニウム同位体の混合物が、そのほとんどがシード燃料内で生成されるのだが、軍事利用には望ましくないものであることも確認した。というのは、そこから爆弾を作っても、爆発に必要な出力が得られないからだ。核兵器設計者のスラングでは「シューッ」となってしまうだろう、ということになる。また、プルトニウムがこれほど多くのプルトニウム238同位体を含んでいると、その崩壊熱によって武器を製造するのに使われる他の物質まで溶かしたり損壊させてしまう。
もしもテロリスト集団がブランケットのプルトニウムを恐ろしい(恐ろしくないにしても強力な)爆弾をつくるのに使いたいと思っても、ラドコウスキーのトリウム燃料からプルトニウムを抽出するのは―実際には一つの反応炉内のどのトリウム燃料でもいいのだが―、今日使われている燃料から取り出すよりもはるかに難しい。使用済みのブランケット燃料はウラン232を含み、これは数か月かかって同位体に崩壊する過程で強力なガンマ線を放出する。そこからプルトニウムを引き出すには、再処理工場内に、おそろしく頑丈な放射線遮蔽施設と、非常に汎用的な遠隔操作機器が必要になる。それによって、ただでさえ困難な作業手順がさらに複雑になる。そしてウラン232が豊富にあり、使用済燃料には高い放射能が残っているので、ウラン233(分裂性があり爆弾にも使える)をウラン238から分離しようという努力はことごとく妨げられる。
核廃棄物の量を減らせ、かつ、爆弾を製造できる物質の拡散を防げるという潜在的な利点を考えると、トリウムベースの燃料への関心が最近ふたたび盛り上がっているのは自然なことだ。米国エネルギー省は特にこの分野の研究活動支援に熱心である。ラドコウスキーの企業設立やそのロシアの原子炉実験の協力者に資金提供するだけでなく、最近ではその他に3つの取組みにも資金を貸与している。そのうち一つには、2つの国立研究所(アイダホ国立エンジニアリング環境研究所とアーゴン国立研究所)からなるコンソーシアムと、核燃料製造事業者2社(フラマトーム・テクノロジーとウェスティングハウス)、3つの大学(フロリダ大学、パデュー大学、そして私自身の属するマサチューセッツ工科大学)がかかわっている。目的は(シードユニットとブランケットユニットの)さまざまな燃料配列を扱う複雑さを増すことなく、ラドコウスキーの設計が要求するようなトリウムを使った反応炉を作ることだ。
もう一つのプログラムでは、ブルックヘブン国立研究所がマサチューセッツ工科大学にある先進原子力研究センター(CANES)とともに研究しており、目的はシードユニットとブランケットユニットを分離する設計をシンプルにする実用的な方法である。これは燃料配列全体をシードまたはブランケットのいずれかに振り分けることで可能だと思われる。「シード」や「ブランケット」といった用語を使い続けてはいるが(われわれはこうした配列をシードブランケットコア全体配置と名づけている)、「種」と「カゴ」の比喩はこの場合あまり当てはまらなくなっている。というのは、この配置においては、炉心内に多少ともチェッカーボードのように配置することになるからだ。
3つめの研究は、ブルックヘブンとパデュー大学の各技術者が沸騰水型原子炉で、プルトニウム充填済みのトリウムを燃料として使っている。これらの原子炉の設計は、より一般的な加圧水型原子炉とは区別される。一般的な加圧水型原子炉では冷却水は高圧になるため、つねに液体にとどまる。しかしこのプログラムのアイデアは、余剰プルトニウムを使い切るための経済的な手段を提供することにある。さらにその他のプルトニウム廃棄物も生成しない。今は見直されているが、混合酸化物オプションと呼ばれたかつての計画では、その他の廃棄物が生成されたためだ。この点、ブルックヘブンとパデュー大学のプルトニウム充填済みトリウム燃料の研究は、トリウム・パワー社やそのロシアの協力者が実現を望んでいる成果により近いものとなっている。
私はCANESの同僚たちと過去数年間、核燃料棒内のウランとトリウムの組合せ方法を含む、さまざまな細部の設計の評価をつづけてきた。思ったとおり、私たちの技術的・経済的な可能性についての結論は、個々の設計ごとに変化した。ここではシート・ブランケット配列のいくつかの結果と、個人的には経済的な成功のための最大のチャンスと思われる方式について書いてみたい。
それぞれのタイプの燃料構成が均質な構造をもつ、完全シード・ブランケット構成の場合であっても、燃料の製造と原子炉内での管理は通常より複雑になる。典型的な原子炉では、燃料は定期的に入れ替えられ、平均的に同じ条件の熱と放射線にされされるようにする。シード・ブランケット方式の炉心では、シードは平均をはるかに超える出力を維持し、ブランケットははるかにストレスの少ない状態に置かれる。このようにシードとなる燃料棒内の燃料は、より高い温度に達し、燃料棒内の限られた空間内により多くの気体の核分裂物質を放出し、ブランケット域の燃料よりも多くの冷却材を必要とする。
これらの要求はさまざまな方法で対処できる。たとえば、シード域により多くの冷却材を流したり、熱の流に対して燃料の抵抗をより少なくするなどだ。ラドコウスキー=クルチャトフ方式では、シード棒は金属ウラン合金(ロシアの原子力潜水艦での実験用に設計されたものと同じ)から作られ、熱伝導率を改善している。MITのブルックヘブン方式では、シード棒内の酸化ウランの燃料ペレットは中空で、温度を下げるようになっている。この点、ブランケット燃料棒は問題が少ないが、金属皮膜がしっかり密着するように注意深く製造される必要がある。というのは、これらの燃料棒の寿命は設計によっては13~14年におよぶからだ。
これら様々な設計上の問題点に加えて、CANESの研究者はシード・ブランケット設計が、爆弾製造に使える物質の拡散を防ぐ観点に、どれだけ貢献できる利点があるかを定量化した。そしてその経済性の評価も試みた。その結果、シード・ブランケット配列はウランとトリウムをより精密に混合する他の方式よりも、より少ないプルトニウムしか産み出さないことが分かった。しかし私たちの結果はラドコウスキーの初期の研究ほど楽観的ではない。私たちの計算によれば、60%(炉心全体をシート・ブランケット構造にした場合)あるいは70%(個々の燃料棒区域にシード・ブランケット燃料棒を利用した場合)しかプルトニウムの生成を減らせない。ラドコウスキーの見積りでは、後者の場合80%プルトニウムを減らせるとしていた。
しかし、私たちが計算したプルトニウム生成量は、ラドコウスキーの主張をうらづけた。つまり、使用済燃料は、大量の熱を発する強力な放射能をもつ同位体であるプルトニウム238を、相当量含むという事実だ。じっさい、プルトニウム238は従来のウラン燃料より3倍から4倍になる。ラドコウスキーが指摘したように、この同位体が放出する熱は核兵器の製造・保管を、不可能ではないにしても、きわめて困難にする。
このようにプルトニウム238が大量に生成されるのは、従来のウラン燃料原子炉の場合より、燃料がより消費される(原子力技術者のスラングでは「燃え尽きる」)ためだ。同量のプルトニウム238は、ウラン100%の燃料を使っても作り出すことはできるが、最初により多くの放射性ウラン(ウラン235)を今日通常に使われているよりも投入する必要があり、はるかにコストがかかる。
このように、私たちの最近の研究によって、さまざまな工学上の懸念が解決され、トリウム燃料原子炉が、使用済燃料から核爆弾を秘密裏に製造しようという試みを現実に抑制できることが分かった。しかしトリウムの経済性についての研究結果は、あまりはっきりしない。トリウムベースの燃料のコストは、従来型の核燃料に比べて、10%のコスト減から10%のコスト増までのどこかになるという見積り結果になった。こうした大きなコストのふれ幅は、シードに使うウラン(従来型原子炉よりウラン235を4倍濃縮する必要がある)のコストや、燃料を組み立てるコスト、使用済燃料の量が減ることによってその処理にかかる将来的な費用の削減など、不確定要素が多いことから来る。
経済性だけがトリウム燃料の採用の動機になるわけではないが、技術的な観点でトリウム燃料の採用にストップをかけるほどではない。明らかに既存の商業インフラの変更が必要になるだろうが、根本的な新たな技術が必要なわけではない。しかも当該の物質(トリウムと濃縮ウラン)は原子炉実験で長い間使われてきた実績があるので、この方式がいつの日か広く応用され、政策決定者が原子力産業政策をこちらの方向に推し進めるだろうという考えに信頼性を与えてくれる。
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