鬼束ちひろは発達障害?自伝『月の破片』を読む(1)

今回は、鬼束ちひろは「うつ病」ではなくて「発達障害」ではないか、というお話。
「発達障害」の定義については専門家の本をお読みいただきたい。
なお、アマゾンで検索すると星野仁彦医師(自身が発達障害)の著書がいくつか上位に出てくるが、専門家の間での評判は低いようだ。おすすめは以下のとおり。
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先日、鬼束ちひろからファンレターの返事が来たことを書いたが、Twitter(ツイッター)でたくさん紹介して頂いたようだ。
こんなネタを通してでも、彼女にふたたび関心をもってもらったことに感謝したいところだが、ツイートの多くは、彼女の最近のファッションの激変とあわせて、鬼束ちひろを「気狂い」あつかいする内容で、不愉快だった。
他人をかんたんに「気狂い」あつかいする方が良識を欠いている。なので、ここであえて「鬼束ちひろ発達障害説」をとなえてみたい。
僕は『BARFOUT!』2007年11月号にある自殺未遂を告白した彼女のインタビューを読んだとき、3rdアルバム『SUGAR HIGH』から4thアルバム『LAS VEGAS』までの間、活動休止していた理由は「うつ病」だろうと思った。それで以前、下記のような記事も書いた。
「鬼束ちひろミクシィオフ会参加と彼女の病気(うつ病)について」(2010/03/28)
ただ、今回出版された自伝エッセイ『月の破片』を読んで、うつ病や不眠症は単なる二次障害で、鬼束ちひろは子供の頃から「発達障害」だという仮説を立てたくなった。
もちろん素人の無責任な見立てなので、以下、話半分でお読みいただきたい。専門家の方が偶然このページをきっかけに『月の破片』をお読みになり、彼女に適切なアドバイスいただければ幸いと思い、無責任を承知で書かせていただく。
僕自身、東芝EMI時代の「鬼束ちひろ」の作られたイメージ、つまり、透明感や繊細さ、幸薄い美少女的なものに引きずられ、「うつ病」で活動休止という物語を作っていた。
しかし『月の破片』を読むと、これも彼女と出版社が共同で作った物語には違いないが、正反対に鬼束ちひろが生まれつきの「暴れん坊」だとわかる。
まずこの「暴れん坊」気質が、発達障害の多動のことではないかというのが、一つの大きな仮説だ。

発達障害を思わせる記述を、『月の破片』から順番に拾ってみる。
「鬼束家には暴れん坊の血が流れているから、言ってみれば私は血統書付き」(p.007)
発達障害が部分的に遺伝的な器質因から起こることの傍証か。中盤の家族を紹介する章で、鬼束一家の特徴として、すぐモノを投げるのが鬼束家の家訓だと、冗談まじりで書かれている。
「私に嫌な思いをさせた相手のパソコンを思いっきり蹴ったら、バラバラに壊れていた」(p.009)
この種の衝動的な行動のエピソードは『月の破片』にたくさん出てくる。
今のマネージャーさんの車のジュースホルダーを引きちぎって窓から投げ捨てたり、その車のフロントガラスを素足で蹴破ったり、部屋でひとりでダンスを踊っていたら植木をへし折ってしまったり(いずれもp.010)、「小さい頃、生きた金魚の目玉をパクッと食べた」(p.024)などなど。
彼女は子供の頃、ヒステリックな母親や(p.007)、急須を投げつけるような父親の突発的な怒り(p.188)を恐れ、自分を抑えつけて優等生として振る舞っていた(p.120)。そのため「暴れん坊」の部分が目立たなかっただけのようだ。
「暴れるときは、大抵泣きがくっついてくるのも特徴だ。こないだは『どうして私は幸せじゃないの?』って、泣きながら熊谷さん(注:現在のマネージャー)に当たり散らした」(p.011)
『月の破片』を通して読むと、鬼束ちひろは、音楽の面では自信にあふれ、私生活の面では自己評価がきわめて低いことがわかる。
この自己評価の低さは子供の頃からというより、オーディションに合格して上京してから、つまり、一般人でいう「社会に出てから」のようだ。
デビュー当時のマネージャーに、芸能界で生きていくため、毎日のように一挙手一投足を激しく叱責された結果、ひどいホームシックで泣き暮らしており、自己評価が低くなったと思われる。
発達障害の人が社会に出てから、仕事上の失敗でくり返し叱責をうけ、結果として自己評価が低くなり、うつ病になることがある。
これを発達障害の二次障害というが、鬼束ちひろの私生活の面での自己評価の低さは、社会に出てからの職場環境が原因と思われる。
逆に言えば、上京して社会に出るまでは、それだけ家族に守られていたということだ。
『月の破片』の随所に、家族に対する愛情のこもった言葉が書かれているが、今でも鬼束ちひろは真の自分の理解者は家族だけ、という思いが強いに違いない。
「音楽活動が半休止状態になっていた時期、私は相当荒れ狂っていた」(p.011)
この部分を読むと、活動休止期間中、鬼束ちひろの主な症状が「うつ病」ではなかったことがわかる。
「うつ病」なら逆に活動レベルが低い状態、たとえば一日中ベッドで横になっているなどの陰性症状になるはずだが、逆に本人のいう「暴れん坊」状態が激しく、陽性症状が顕著だ。
ここから双極性障害の疑いも出てくるので、僕は彼女あてのファンレターに、単なる不眠症やパニック障害ではなく、双極性障害の可能性もあるので、別の医者にセカンドオピニオンを求めてはどうかと書いた。
それに対する彼女の答えが、「なきにしも荒川」であればうれしいのだけれど。
「暴れているときの私は、くるくる回り続けて止まらないコマみたいなもの。周りの人がなだめることができないように、自分でもどうにもコントロールできなくなってしまう」(p.012)
自分でも制御できなくなる、このような解離的な衝動性も発達障害の特徴らしい。
「どうして刺青なんかってよく聞かれるけど、一番の理由は、私のこのありあまるパワーをコントロールしたいっていうこと」(p.013)
ここから、鬼束ちひろがタトゥーを入れたのは、自分の衝動性に対するセルフメディケーション(自己治療)らしいことが分かる。
もちろん刺青を入れても、せいぜい偽薬効果、つまり、自身の思い込みで多少症状が軽くなる効果しかない。個人的には、大人の発達障害を診てもらえる医者にかかってはどうかと思う。
「小さい頃から機械モノは、どうしても苦手だった。機械じゃないけど、金魚すくいもできなかった。でも不器用っていうのとは、ちょっと違う。絵を描いたり、工作をしたり、手を動かすことは好きだし得意なのだけど、間に道具が入った途端にうまくいかなくなってしまう」(p.020)
この部分は「小さい頃から」という記述が重要だ。
機械や金魚すくいのように、一定の手順に従わなければうまく使いこなせないモノが、子供の頃から苦手だったというのは、発達障害の特徴の一つと思われる。
機会や金魚すくい以外にも、鬼束ちひろはいくつか苦手なものをあげている。
(つづく)