鬼束ちひろ『剣と楓』レビュー(1)曲順の緻密な構成

鬼束ちひろ『剣と楓』について、わかったような気分になれるレビューを、数回に分けて書いてみたい。
まずアルバムの収録曲の構成を見てみる。
1. 青い鳥
2. 夢かも知れない
3. EVER AFTER
4. IRIS
5. 僕を忘れないで
6. An Fhideag Airgid
7. SUNNY ROSE
8. NEW AGE STRANGER
9. CANDY GIRL
10. 罪の向こう 銀の幕
11. WANNA BE A HAPPY WARRIOR
12. 琥珀の雪
鬼束ちひろ本人が「鬼束節」と名づけ、アルバムの最初と最後にしたかったというバラード2曲が、「青い鳥」と「琥珀の雪」だ。

「青い鳥」は、アルバム『LAS VEGAS』収録のシングル「everyhome」以降、「帰り路をなくして」や「VENUS」など頻繁に鬼束作品に現れる8分の6拍子のバラード。ただしアレンジはロック色が強い。
「琥珀の雪」は「月光」「眩暈」など、初期作品からおなじみの4分の4拍子バラード。「罪の向こう 銀の幕」も全く同系統のバラードだ。つまり、1、10、12は「鬼束節」としてグルーピングできる。
次に、フォークロックついては、「青い鳥」も含めれば「IRIS」「WANNA BE A HAPPY WARRIOR」で、1、4、11の3曲。
次は、鬼束ちひろのアルバム曲としては、最も異色を放つJ-POP系。「夢かも知れない」「EVER AFTER」「CANDY GIRL」で、2、3、9の3曲。うち後者2曲は、彼女の自伝エッセイ『月の破片』の中で、某アイドルグループを想定して作ったと書いている。
次は、個人的にトラディショナルとくくってみる。「僕を忘れないで」「An Fhideag Airgid」「SUNNY ROSE」で、5、6、7の3曲。後者2曲は明らかに民謡または民謡風。
「僕を忘れないで」は鬼束ちひろ本人が「みんなのうた」とJ-POPの中間だと語っているように、3拍子で日本の童謡を思い起こさせるので、トラディショナルと分類してみた。
以上のように、常に3曲セットで同系統の曲が、アルバム全体に適度にちりばめられていることになる。
―鬼束節:1, 10, 12
―フォークロック:1, 4, 11
―J-POP:2, 3, 9
―トラディショナル:5, 6, 7
そしてこれら3曲セットから唯一はずれる曲が、8曲目、4つ打ちエレクトロポップの「NEW AGE STRANGER」である。鬼束ちひろがアルバムの中で核になるのはこの曲だと語っているのは、こういう理由だ。
アルバム全体は6曲目、7曲目のケルティックを折り返し地点とすると、8曲目の「NEW AGE STRANGER」が1970年代エレクトロポップの、いわば「懐かしい未来」という矛盾した表象になっている。
これと向かい合う位置におかれている5曲目「僕を忘れないで」は、端的にNHK「みんなのうた」のような「懐かしい過去」を表象している。
このように、相変わらず何も考えていない、他人に任せきりと言いつつ、鬼束ちひろのアルバムの曲順は緻密に計算されているのだ。
剣と楓 - 鬼束ちひろ剣と楓 – 鬼束ちひろ
(つづく)