鬼束ちひろ自伝エッセー『月の破片』を読んだ

明日2011/04/20発売の、鬼束ちひろ自身による自伝エッセー『月の破片』(幻冬舎)を読み終えた。

明日発売なのにもう読み終えているのは、都内の書店では、昨日すでに発売されていたからだ。
感想をひとことで言えば、なんか心温まっちゃった、となる。
最近の彼女のファッションは、北斗の拳の悪役だの、格闘ゲームのボスキャラだの、妖怪人間ベラなど、言われ放題だ。
そんなコメントをうのみにし、めちゃくちゃファンキーな内容を期待して『月の破片』を読むと、完全に裏切られる。
三人兄弟の長女だけれど、末っ子みたいに暴れん坊でワガママ。とても家族思いの30歳女性アーティストの心情が、かなり素朴に書かれている。とくに両親に対する愛情は、読んでいるこちらが恥ずかしくなるほど。
芸能界でもプライベートでも、つるんで遊ぶような親しい友だちがいない彼女は、今でも宮崎の母親と頻繁に電話するらしい。
個人的にいちばん気に入ったエピソードは、布団カバーについてのもの。
母親から掛け布団カバーが送られてきたが、四隅をヒモでむすんで布団を固定するようになっていた。不器用な鬼束ちひろは、うまくヒモで布団にカバーを固定できず、イライラして母親に電話をし、ののしり合いの口ゲンカが始まる。
電話を切った後も、お互いに留守番電話に録音して口ゲンカがつづくが、翌朝、鬼束ちひろの方が、ごめんなさいとあやまる。それが母親とのケンカのいつものパターンらしい。
こんなに母親と仲の良い鬼束ちひろが、今朝(2011/04/19)のテレビ朝日系列『やじうまテレビ!』のように、インタビューをうけるとなると、なぜあんな奇抜なファッションで、ため口で、ケンカを売っているような雰囲気になるのか。
それについても『月の破片』に、本人が自戒をこめて書いている。
鬼束ちひろにとって、家族以外の対人関係は、ライブのような大勢の観客を前にする場合もふくめ、とても緊張を強いるものらしい。過剰な緊張のせいで、戦闘モードでないと普通のインタビューにも応じられない。
なぜ家族以外の対人関係に異常なほど緊張し、人間不信をベースにしてしまうのか。それは「月光」でブレイクした後の、当時の所属事務所の人間関係が原因の一つらしい。
このあたり、詳しくは直接本書『月の破片』をお読みいただきたい。
また、彼女の精神状態についても、ネットでは「ついに気が狂ったか」など書かれ放題だが、『月の破片』の中で鬼束ちひろ自身が自己分析している。
僕は以前この「愛と苦悩の日記」で、活動休止中の鬼束ちひろはうつ病に違いないと書いた。
「月光」でブレイクして以降、彼女にとって極度の緊張を強いられるライブやテレビ出演、取材などが休みなく続き、そのストレスがうつ病につながり、最終的に睡眠導入剤の過剰服用による自殺未遂になったのでは、というのが僕の今までの考えだった。
今回の『月の破片』を読むと、そうじゃないかもしれないと思えてきた。
まず、自殺未遂当時も、うつ状態ではなく、躁うつ状態らしかったこと。それから、コンサートの開演前のエピソード(詳細は本書をお読みいただきたい)から、過剰な緊張を自分でやわらげようと、強迫神経症のような行動をしていること。
また、小学生のころから、すでに集団生活の人間関係にわずらわしさを感じていたこと。今でも、ラジカセ、パソコンなど、機械類の操作がまったく出来ないこと。
にもかかわらず、英語や音楽などの特定の分野では飛びぬけて優れていること。ふだんの体の動きが、ササッと俊敏な動きであること。(これらについても詳しくは『月の破片』をお読みいただきたい)
これらを総合すると、僕のような素人目には、鬼束ちひろは健常者とアスペルガー症候群の境界線、または、注意欠陥・多動性障害のような行動障害に近いのではないかと思える。
その方が、本書の中でもたくさん紹介されている「暴れん坊」のエピソードにも納得がいく。
そして、「あのしゃべりかたはクスリをやってる」というネットの書き込みもあるが、鬼束ちひろが完全な「しらふ」なのはよく知られた話だ。そのあたりの背景が、家系も含めて本書にはちゃんと書かれている。
とにかく、この『月の破片』は、両親、弟、妹など、家族との関係についての記述の多さに驚くとともに、やはり鬼束ちひろの根っこのところでのマジメさと純粋さに、ファンとしてはひどく安心した。
音楽については過剰ともいえる自信をもちながら、自分のことをダメ人間とくくってみる。そういう自分自身に対する矛盾する感情は、鬼束ちひろより若い世代にも共感できるものに違いない。
生きづらさを感じている人たちが、鬼束ちひろの『月の破片』を読むと、「自分のことが書いてある!」と感じる部分を、いくつも見つけられるだろう。
一方で、鬼束ちひろって何て笑えるキャラなんだと、ニヤニヤしてしまう部分も、たくさん見つかるだろう。
とりあえず、だまされたと思って読むべし。いま読まなければ、一生「あのとき読んでおけば良かった」と後悔すること間違いなしの迷著だ。

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