鬼束ちひろ『papyrus』2011年04月号記事レビュー(4)

『papyrus(パピルス)』2011年04月号の鬼束ちひろ特集について、まだまだレビューは続く。

次章のタイトルは「洋服好き」。いきなり個人的で俗っぽい話題になるが、最近の彼女のファッションこそ、本来のスタイルらしいことが分かる。
 洋服の好みは、ひとことで言ってしまえば雑食。なんてったって、私の人生そのものが雑食ですから。
 シャネルにも行くし、109にも行く、ブランドにこれといったこだわりはないけれど、唯一ずっと好きなのはシャネルかな。だけどシャネルの洋服は、チビの私には似合わないから、バッグやイヤリングみたいな小物専門。
 宮崎にいた頃、私と母は親子そろって、”歩くブランド”と呼ばれていた。母がおしゃれな人で、子どもの私はヒステリックミニとかの服をよく着せられていた。
 授業参観に来た母を見て、クラスの子たちは言った。
「ちーちゃんのお母さんは、若くておしゃれでいいなあ」
 もちろん私は鼻高々。
「なめられないように、ちゃんとした格好をしなさい」というのは、デビュー当時の母の口癖。だけど今では、母は私のお下がりの血が噴き出したスマイルのニットを着てスーパーへ行くから、小学生に怖がられているんだけど。
鬼束ちひろも人の子で、両親の影響をたっぷりと素直に受けているのかと、ややがっかりしないでもない。今の鬼束ちひろは意外と単純に、デビュー当時の母の口癖に忠実に、なめられないような格好をしているだけなのかもしれない。
 上京して間もなく、「一曲書いたら、服を一着買う」というルールを作った。
 高校生のときは母からバイトを禁止されていたから、好きな洋服を買える子たちがうらやましくてしかたなかった。これからは、服を買いたいから曲をどんどん作るし、曲が増えればデビューの日も一気に近づく。なんて素晴らしいアイディア! 高校時代の鬱憤を晴らすようにして、曲を書いては服を買いあさった。
 今だから言えるのだけど、デビュー間もない頃は、スタイリストさんが用意してくれる衣装が”超”が付くほど不満だった。シンプルで清楚で透明感のあるイメージ。
 たまには派手でセクシーなものも着てみたかったんだけど、当時のマネージャーがキャバクラ大好きだったからか、キャバ嬢が着るようなボディラインのはっきり出る服は着せてもらえなかった。「またAラインの服なの?」って、いつも文句を言っていた気がする。
 だけど当時は若かったから、かわいい感じの服も嫌いというわけじゃなかった。今となってはあんな服は絶対に着ないけど、それは好みが変わったというよりも、本当に好きなものがわかってきたっていう感覚に近い。
ここでもデビュー当時の鬼束ちひろのイメージが、衣装からして完全に作られたものだったことが明らかだ。「シンプルで清楚で透明感のあるイメージ」、このイメージで鬼束ちひろがブレイクし、いまだに彼女のイメージのベースになっているのは皮肉なことだ。
 好きなスタイルは、なんと言ってもエイティーズ! ラメとかグリッターとかメタルとか、そういう言葉にすごく弱い。
 私のファッション・アイコンは、マイケル・ジャクソン。マイケルのステージ衣装みたいなギラギラした服が、私にとっての日常着。戦隊っぽい服とか、王子様みたいな服が好きみたい。それで、「ちーちゃんは、基本的に派手!」って呆れられる。
脱線するが、僕は1980年代のビルボード・チャートにどっぷり浸かっていた世代として、マイケル・ジャクソンの偉大さは当然理解できる。ただ、彼のような超メジャーなアーティストのファッションを、鬼束ちひろのような、日本の音楽業界ではマイナー路線の個性派アーティストがお手本にするのは理解しづらい。僕がブラックミュージックに疎いだけだろうか。
 ひと昔前は雑誌を月に十冊以上読んでいたけれど、世の中の流行を知るために読むだけで、お手本にすることはなかった。あくまでもオリジナルであることが、私のポリシーみたい。
自分のファッションを語るときに、よくオリジナリティを口にする人はいるが、僕には、既製品を身につけている限りファッションに着るものにオリジナリティも何もないと考える。僕が個人的にオリジナリティの対局にある、部品としての洋服、ユニクロが好きだからだか。
 洋服選びのこだわりは、「何これ?」って言いたくなるような組み合わせをすること。もっと言ってしまえば、「おまえ、とうとう気が狂ったんじゃねぇか?」って思われるくらいのコーディネートが最高。
2ちゃんねらーの反応は、鬼束ちひろの狙いどおりということだ。なのでツイッターでわざわざ鬼束ちひろがスゴイことになっているなどと、いちいちリツイートする方が「痛い」。
 ミッキーマウスのTシャツに、シャネルのネックレスを合わせたりして、「何これ? あり得ねー!」って自分で見て笑ってる。そして「どんなもんだい!」って思いながら街へ繰り出すのだ。
 着こなすというよりは、根性で着てやる感じ。周りの目は気にしない。
本人が根性で着ているのだから、見る方も根性で見るしかない。今の鬼束ちひろのファッションはそういうものだと理解すべし。
 実を言うと私は、ミッキーマニアでもある。しかも、六〇年代から七〇年代にかけてのある時期に描かれたミッキーじゃないとダメ。ミッキーの服もたくさん持っているけど、今まではなかなか着る機会がなかった。だけどタトゥーを入れたことで秘蔵の服をようやく着られるようになった。だって、ミッキーのTシャツを着ている人が、まさかタトゥーを入れてるなんて思わないでしょ? タトゥーがあるからこそ、ミッキーのかわいさも際立つ。このミスマッチ感がたまらない。
これもやはり、本人がミスマッチ感を楽しんでいるのだから、他人が「なんじゃそのファッションは!」と突っ込むのは本人の意図どおり。突っ込めば突っ込むだけ、突っ込むほうが「痛い」ということだ。
 タトゥーを入れてから、洋服選びがますます楽しくなった。自分で自分をデザインする感じっていうのかな。やっぱり、タトゥーのイメージと相反する服を着るのがお気に入り。白いタンクトップなんて何の意外性もない。同じ白ならアンティークのブラウスを着て、「こんなにエレガントな雰囲気なのにタトゥーが入ってるの?」っていうのが好き。
 最近は、モン族という民族衣装のアイテムにも興味がある。それにジバンシーを合わせたりするんだけど、これが結構ハマる。
 またあるときは、バリバリのドラッグクイーンみたいな格好をして、「どう私?」って思いながら、肩で風を切って街を歩いてみたり。これなら絶対に、鬼束ちひろだってバレないし。
これだけ2ちゃんねらーに騒がれれば、これからは絶対に鬼束ちひろだってバレルと思うけれど(汗)
 レコーディングのときは、歌に合わせて洋服を選ぶこともある。「今日はこの曲だから、これ着てきたよ」っていつもみんなに言いふらしているから、「ちひろちゃんのファッションに合わせて、こういうアレンジにしたよ」って先に言われてしまうこともあるくらい。
 ファッションが普通ではなくなっていくにつれて、私の中から生まれる音楽のバリエーションも増えてきた。今では、仕事のときのスタイリングもヘアメイクも全部自分でやっているし、音楽も含めて自分の世界をトータルで作っていくのがすごく楽しい。
 デビューから十年経って、音楽もファッションもようやく自分らしさっていうのを出せるようになってきたんじゃないかな。
ただ、自分らしさを出せるようになったと本人は思っていても、他人からするとある種の型に見事にハマっていると見えることもある。鬼束ちひろ本人は、そのように見られることについても、おそらく自覚的なんだろうと思うけれど。
剣と楓 - 鬼束ちひろ剣と楓 – 鬼束ちひろ
(つづく)

鬼束ちひろ『papyrus』2011年04月号記事レビュー(4)」への1件のフィードバック

  1. ピンバック: 個性を貫く歌姫「鬼束ちひろさん」 | かばぐー@そっとみる☆彡

コメントは停止中です。