音楽が売れなくなったのは違法コピーのせい、という大ウソ(2)

「違法コピーが増えたから、音楽が売れなくなった」という大ウソについて、前半では主にマクロ的な要因を論じてみた。あらためてまとめてみる。
―そもそも1984~1998年の音楽生産総額の急増は単なる「J-POPバブル」だった。
―その「J-POPバブル」の主な原因は以下の3つである。
(1)日本経済全体がバブルでGDPが右肩上がりに伸び、マスメディアとのタイアップで音楽生産も拡大できた。
(2)日本の総人口の中で2つの大きなかたまりである、団塊の世代と団塊ジュニアが、たまたま音楽をもっとも消費する年齢層である15~49歳に入った。
(3)音楽の製作現場のデジタル化で楽曲の大量生産が可能になった。
―1999年以降(1)と(2)の要因がなくなったため「J-POPバブル」は崩壊した。
―そうして音楽生産金額は、音楽消費の中心となる年齢層の減少ペースにそった、本来の減少ペースに落ちついた。
―2004年以降、音楽のデジタル配信という新たな技術により音楽生産総額は再び増加した。
以上が、1971年以降の音楽生産総額の推移のまとめだ。
夢見るクリエイターである音楽業界の方々は、こんな身もフタもない説明に反感をもたれるだろうが、小室哲哉のような才能も、経済環境があってこそ開花する。それが商業音楽というものだろう。
「才能がなければ売れない」というのは正しいが、「才能があれば売れる」という考え方は間違っている。典型的な必要条件と十分条件と取りちがえだ。
では後半は、音楽生産金額・数量を媒体別、シングル/アルバム別、単価などで分析してみる。
音楽生産の資料はすべて日本レコード協会のもので、1970年から2009年まで確認できる。
まず、シングル/アルバム別に、生産数量と生産金額の推移を見てみる。
なお、シングル/アルバムの区別については、レコードについてはEP盤を全てシングル、LP盤を全てアルバムと見なしている。CDについては8cmを全てシングルと見なしている。12cmのCDは日本レコード協会の統計上、シングルとアルバムに分けられているので、そのまま採用している。
Chart 3をご覧いただきたい。
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シングル/アルバム別の生産数量を見ると、ひと目でわかるのは、レコードからCDへ切り換わるまでは、アルバムよりシングルの方が生産枚数が多かったことだ。
それに対して、CDに切り換わってからは、アルバムの生産枚数が圧倒的に増えており、現在に近づけば近づくほどその差は開く。
1970~80年代のアイドル系に比べ、1990年代以降は音楽性の高さで訴求し、歌手を「アーティスト」と呼ぶようになり、それにつれてレコード会社の販売戦略もアルバム中止に転換したようだ。
全体の販売数量に占めるシングルの割合は、減少の一途であることが分かる。
それに対してChart 4で金額ベースの推移を見ると、当然ではあるが1970年以来一貫してアルバムの方が高くなっている。
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このことは、シングル/アルバム別の生産単価の推移を見るとわかる。Chart 5をご覧いただきたい。
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当然のことながら、アルバムよりシングルの1枚あたりの単価は低い。
ただ、単価の推移で注目すべきは、アルバムの単価がレコードからCDへの切り替わって以降、下落し続けていることだ。逆にシングルの単価は少しではあるが上がり続けている。
シングルの単価がわずかに上がり続けているのは、レコード会社がシングルの収録曲数を増やし、ミニアルバム的な形態にして、単価の下落を防いでいると思われる。
アルバムの単価が下落し続けているのは、コンピレーションなど、単価の安い企画物のアルバムの比率が上がっているからではないかと思われる。つまりプロダクトミックスの変化が原因であって、アルバム全般の単価がおしなべて落ちているわけではない。
ここで興味があるのは、制作コストに対して、アルバムとシングルのどちらが利益率が高いのか、ということだ。
これは僕の推測だが、おそらくアルバムの方が利益率が高いため、レコード会社はシングルよりアルバム販売に軸足を移したのではないか。
消費者としても、収録曲数の多いアルバムの方がお得感が強いため、レコード会社の販売戦略と利害が一致していると思われる。
ただ、皮肉なことに、Chart 4にもどって、生産金額の推移を見ると、金額では1999年以降、シングルよりアルバムの生産金額の落ち込みの方が激しい。
「J-POPバブル」の崩壊は、より単価の高いアルバム生産の方に影響が大きく、それだけ生産金額の総額を急激に押し下げることになってしまった。
これも意地の悪い言い方をすれば、レコード会社の自業自得とも言える。
CDへの切り換え以降、アルバム中心の販売戦略をとり、「J-POPバブル」期にイケイケドンドンで生産金額を伸ばすことができたため、バブル崩壊後もその戦略を見直せなかった。
その結果、生産金額の落ち込みを必要以上に大きくしてしまった。
その落ち込みを補う手段として、音楽配信をテコ入れするわけだが、音楽配信の単価が著しく低いことは、録音媒体別の生産単価のグラフをご覧いただければ分かる。
Chart 8に、媒体別の生産単価の推移を示してある。
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その前に、レコード(EP/LP)の生産単価に比べて、CDの生産単価が高いのは、レコードに占めるアルバムの比率より、CDに占めるアルバムの比率が格段に高いからだ。
これは、Chart 3の数量ベースのシングル/アルバムの推移を見ればわかる。
さて、Chart 8にもどろう。音楽配信の単価は、着メロ・着うた、パソコンでの配信にしても、1曲単位の購入ができるようになったため、単価が極端に低く、100~200円となっている。
しかし、Chart 6で生産数量を見ると、音楽配信の曲数はすでにCDの生産枚数を超えていることが分かる。音楽配信は数量を稼がなければ利益の出ない、超薄利多売と言える。
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超薄利多売であっても音楽配信に乗り出さなければ、CDだけでは金額ベースの生産は落ちていく一方なので、背に腹はかえられなかったのだろう。このことは、金額ベースの推移を見ると分かる。Chart 7をご覧いただきたい。
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CDの生産数量のほとんどを占めるアルバムの、1枚あたり単価そのものが下落傾向にあるので、一定の生産金額を確保するには、音楽配信に乗り出さないわけにはいかなかったと言える。
以上の統計的な推移の背景について、少しうがった見方をしてみたい。
1970~1980年代のアイドルブームのころ、シングル中心だったレコード生産は、CDへの切り換わりと同時に、アイドル性の否定、アイドルよりも「高級」な「アーティスト」としての訴求とともにアルバム中心に変わる。
そのまま「J-POPバブル」に浮かれた音楽業界は、アルバムがほとんどを占めるプロダクトミックスに、歌手たちが本物の「アーティスト」になったという、大いなる勘違いをしてしまった。
その結果、「J-POPバブル」が崩壊したとき、アルバム偏重というまさにその戦略のしっぺ返しを喰らい、生産金額の急落に苦しむことになる。
くり返しになるが、1999年以降の音楽生産金額の急落は、音楽配信が始まる5年以上前のことであり、決して音楽配信によってCDの販売が減ったのではない。
音楽業界の大部分は、単なる流行歌手を「アーティスト」と勘違いしたまま、商業的にも成功しようと音楽配信に乗り出した。
しかし、芸術家という意味での「アーティスト」と商業的な成功は、ほとんどの歌手にとって夢のまた夢である。芸術家を自称するのであれば、むしろCDは大量に売れなくて当然なのだ。
その証拠に、「アーティスト」ではなくアイドル性を訴求して成功した歌手は、1970~1980年代と同様、シングルも売れており、アルバムの生産金額への偏りは穏やかだ。
アイドルから「誰でもアーティスト」へ、シングルからアルバムへという、いわば分不相応な芸術性の追求が、流行音楽産業の生産規模を激減させてしまった。
そして、いまだに「誰でもアーティスト」の大いなる勘違いから抜け出せないレコード会社が、挙句の果ては「CDが売れなくなったのは違法コピーのせいだ」と、まったく事実と異なる主張をし始める。
だがそもそも、高い芸術性と商業性の両立が成功する確率はきわめて低い。
自ら成功確率の低い販売戦略にふみ出しておきながら、その失敗の原因を消費者の違法行為にこじつけるのは、J-POPの音楽業界がまだ「誰でもアーティスト」という大いなる勘違いをし続けている証拠だ。
その勘違いにもとづく過剰な著作権管理が、音楽のデジタル配信の時代に、かえって新人歌手の育成をさまたげているというお話は、また次回。