音楽が売れなくなったのは違法コピーのせい、という大ウソ(1)

音楽業界の人たちはよく、違法コピーが増えたから音楽の売上が減ったと言う。
違法コピーではなく正規版を購入すべきなのは当然だが、違法コピーが増えたから音楽の売上が減ったというのは、大ウソである。
もっと厳しいことを言えば、自分たちの失敗を、リスナーの違法コピーのせいにしているフシがある。
この音楽業界人の大ウソを、誰でも入手できる統計をもとに検証してみる。
まず、Chart 1ご覧いただきたい。
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赤色の折れ線は、名目GDPの時系列統計を1971年を100として指数化したものだ。
オレンジ色の折れ線は、日本レコード協会による音楽生産金額の総額を、同じく1971年を100として指数化したもの。
右端のほうにちょろっと舌を出している、肌色の折れ線は、その音楽生産金額の総額から、音楽配信(ダウンロード販売、携帯電話の着メロ・着うた等)を覗いたもの。
音楽配信がなければ、音楽生産金額は1999年以降、急落しつづけていることがわかる。
水色の折れ線は、総人口に占める15~49歳の割合(右側の軸)。
青色の折れ線は、総人口に占める50歳以上の割合(右側の軸)。
15~49歳は、音楽ソフトを購入する中心と思われる年齢層、50歳以降はそれほど音楽ソフトの購入にお金をかけなくなると思われる年齢層と仮定している。
もちろん個人差はあるので、あくまで仮定である。
ただ、49歳という区切りを多少ズラしたとしても、少子高齢化社会なので、総人口に対して、若者の割合が減り、熟年以上の割合が増えつづけている。
結果として、音楽消費者の中核となる年齢層が減りつづけていることは確かだ。
まず、名目GDPの折れ線を見てみる。
なお、名目を選んだのは、音楽生産金額の統計が名目であることと、音楽ソフトが再販制度の対象になっていることからだ。
名目GDPは、1971年から1997年まで右肩上がりに伸び、1998年からほぼ横ばいとなっている。これは周知の事実なので、詳しくは書かない。ところで、自殺者数が3万人を突破したのも1998年以降である。
次に、音楽生産金額の総額を見てみる。こちらも、1971年から1998年まで右肩上がりだ。
1981年~1985年だけ減っているのは、レコードからCDへの切りかえ期だからだ。この間、LPレコードの生産金額の落ち込みと入れ替わりに、12cmCDの生産が急増している。
この例外を除いて1998年まで、音楽生産金額の総額は、ずっと右肩上がりである。
そして、1999年以降は、逆に急降下が始まる。パソコンや携帯電話への音楽配信が始まる6年前なので、音楽配信ファイルの違法コピーと、CDの売上低迷は、まったく関係ない。
この点こそ、音楽業界人の言っていることが大ウソである証拠だ。しかも、音楽生産総額がもちなおすのは、音楽配信サービスが始まって以降である。
つまり、音楽のデジタル配信は、音楽業界にとってプラスでこそあれ、決してマイナス材料ではなかったのだ。
そして、この音楽生産総額の、GDPに対する比率を見ると、さらに興味深いことがわかる。
Chart 2をご覧いただきたい。
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こちらは、1971年時点の、GDPに対する音楽生産金額の比率を100としたとき、その後の推移を指数化したものだ。
この折れ線の下がり具合と、Chart 1の15~49歳が総人口に占める割合の下がり具合を見比べると、よく似ている。
ここから、GDP全体の伸びよりも、音楽生産総額の伸びがにぶかったのは、音楽消費者の中核となる年齢層の人口が減り続けていることが一因と思われる。
しかし、それでも1984年~1998年の期間は、GDPに対する音楽生産総額の割合が急回復している。
この急回復の始まりは、レコードが姿を消し、CDの販売が始まった時期と重なっている。ここでも音楽業界は、技術の進歩の恩恵を受けているのである。
シーケンサーやMIDIの発達により、楽曲の「大量生産」が可能になったことも、生産総額の急回復の原因であり、やはり技術の進歩の恩恵がある。
これらの延長線上にある技術が、音楽のデジタル配信の基礎になっていることは言うまでもない。
この時期、1990年代は、小室哲哉氏のプロデュース作品が大成功を収め、J-POPの黄金期と言える。
ところが、1998年を頂点に、GDPに対する比率においても、音楽生産総額は急落し始める。
繰り返しになるが、1999年は音楽のデジタル配信が始まる6年前であり、インターネットを通じた違法コピーは、この急落とは全く関係ない。
ところで、J-POPの黄金期が仮に存在しなかったとして、1984年時点の折れ線と、デジタル配信が始まる前、音楽生産総額が落ちきった2004年時点の折れ線を結んでみよう。
すると、なだらかな下降線となる。この下降線は、音楽消費者の中核である15~49歳の割合の下降線と、ほぼ一致する。
そして、1984年~1998年の間だけ、音楽生産額が回復したのは、言うまでもなくバブル経済という背景がある。
さらに、この時期に、団塊の世代の子供たちである「団塊ジュニア」という、大きな人口のかたまりが、当時のJ-POPの中心的な消費者である、15~24歳の年齢層に入ったのだ。
この2つの事実と、音楽制作現場のデジタル化による楽曲の大量生産によって、日本の音楽業界は、空前絶後の好況を経験したということになる。
これを「J-POPバブル」と呼ばずしてなんと呼ぼうか。
この時期に、突然、日本の流行歌のクオリティが急速に良くなったとは考えづらいだろう。
テレビドラマやテレビCMなど、マスメディアとのタイアップで、商品としての音楽を売りまくる、そういう音楽業界の変質によって、この空前の「J-POPバブル」はもたらされた。
だとすれば、バブルが崩壊するのは当たり前だ。
まず、バブル経済の崩壊というマクロ経済要因により、マスメディアとのタイアップで自動的に販売金額が伸びる環境がなくなった。
次に、音楽消費の根っこを支えていた団塊の世代が、1999年以降から50歳を越える。まず団塊の世代によるニューミュージック系の音楽の消費が減る。
そして団塊ジュニアは30代に入り、バブル経済の崩壊、そして個人の生活面では、結婚して家庭を持つとともに、収入を音楽ソフトにまわさなくなる。
団塊の世代と団塊ジュニアという、大きな2つの人口のかたまりが、音楽消費から遠ざかることで、音楽生産総額は急速に落ち込んだ。
ただしこれは、人口動態で説明できる音楽消費の下降線に「もどった」と見なすべきだろう。
逆に言えば、「J-POPバブル」時代が異常だったのであり、音楽のデジタル配信が始まるころまでに「もとにもどった」のだ。
そのまま放置すれば、音楽生産総額は、人口動態とともに2004年以降も落ち込んでいく一方だったはず。
それを回復させたのが、携帯電話への着うた・着メロ配信という、新しい音楽の楽しみ方だ。
しかし、J-POPの楽曲そのもの魅力による回復ではなく、デジタル配信という新しいメディアによる回復なので、長続きしない。
今後もデジタル配信の生産金額は、「J-POPバブル」の時期のような劇的な伸びは見せないだろう。これは断言してもいい。
以上のように、音楽業界が「J-POPバブル」を起こせたのは、音楽そのものの品質の向上というよりは、環境要因であることを見てきた。
つまり、(1)マクロ経済の環境がバブル経済に入ったこと、(2)団塊の世代と団塊ジュニアという2つの大きな人口のかたまりが、ちょうど音楽消費の中心的な年齢層に入ったこと、(3)音楽制作現場のデジタル化が楽曲の大量生産を容易にしたこと、これら3点だ。
後半は、音楽生産金額を、媒体別、シングル/アルバム別、生産単価の推移から分析してみよう。そこから見えるのは、アルバム中心主義への以降と、単価の下落傾向である。
(つづく)