日銀こそデフレの犯人:高橋洋一『日本経済のウソ』(ちくま新書)

高橋洋一『日本経済のウソ』(ちくま新書)を読んだ。

本書の中心となる主張は、「今の日本のデフレは日銀が確信犯的に引き起こしたものだが、日銀は国民を煙に巻いている」というものだ。
その直接の原因は、1997年の日本銀行法改正にあると、高橋洋一氏は論じている。
中央銀行の「独立性」についての世界の常識は、中央銀行は「手段の独立性」しか持たず、「目標の独立性」まで持たないというものだ。
しかし、橋本内閣時代の1997年の日本銀行法改正により、日本銀行は「目標の独立性」と「手段の独立性」の両方を持ち、著者いわく、民主主義国ではありえないほどの独立性を持ってしまった。
そのため、本来ならインフレ目標などの「目標」については政府、または政府と中央銀行が協議して設定するものなのに、日本の場合だけは、日本銀行が自分たちで「目標」を決め、その実現のための「手段」も自分たちで決めるという、強大な権力を持ってしまった。
ここでもまた橋本内閣の「負の遺産」に、今の日本が苦しめられているわけだが、なぜこんなとんでもない日本銀行法改正が行われてしまったのかは、本書をお読み頂ければわかる。
また、日銀法改正の結果、、日銀がこの10年のデフレに対して無策だっただけでなく、デフレの責任を政府になすりつけるばかりか、逆にデフレを悪化させる金融政策を一貫してとってきた経緯についても、本書に直接あたって頂きたい。
日本経済新聞をはじめ、日本のマスコミはすべて、日本銀行の「大本営発表」を鵜呑みにして国民に伝えているだけとのことだ。
日経ビジネスオンラインの下記のコラムにあった、小田嶋隆氏の、日銀・白川総裁に対する直感的な嫌悪感が、高橋洋一氏のハードなマクロ経済理論で、見事に裏付けられている。
「円高と下がり気味の眉の悲劇」(日経ビジネスオンライン連載コラム『小田嶋隆のア・ピース・オブ・警句』2010/08/27掲載分)
たまたま本書を読み終えたところで、今晩のNHK『クローズアップ現代』の「日本一人負け?円高の衝撃」にゲスト登場した、元日銀理事、トヨタファイナンシャルサービス副社長の平野英治氏の議論を聞いていた。
すると、平野英治氏も、まさに今の日本を意図的にデフレに追い込んできた日銀の立場を代弁しているだけだ、ということがハッキリと分かった。
平野英治氏の議論をまとめると、以下のようになる。
「今、円がドル、ユーロ、ウォンなどの通貨すべてに対して高くなっているのは、欧米や韓国の景気が悪く、日本はそのとばっちりを受けているためだ。全く、いい迷惑である。
1995年に80円を超える超円高になったにもかかわらず、いまの円高より日本経済への悪影響が小さかったのは、当時の日本の産業にまだ競争力があったためだ。
今は諸外国の技術水準や製品の品質が、日本に追いついてしまったので、この円高を脱する根本的な解決策は、政治主導による日本の産業振興しかない」
完全に矛盾した議論である。一方では、円高の原因は諸外国の景気が悪いからだと言い、一方では、円高の日本経済に対する悪影響が拡大したのは、諸外国の産業発展の結果だと言っている。
もしこの議論を鵜呑みにするなら、平野英治氏のアドバイスどおり、日本が政治主導で産業振興策を行えば、円高は解消されるが、現在の諸外国のような不況に見舞われることになる。
平野英治氏の議論が、全く辻褄があっていない理由は、いまの円高の原因が、リーマンショック後のデフレから脱するために、諸外国の中央銀行が積極的なインフレ目標政策をとったからである、という事実を、意図的に隠しているからである。
2000年以降、先進諸国の中央銀行の中で、唯一、日銀だけが「インフレ・ターゲット」ではなく、「デフレ・ターゲット」をとってきたことは、高橋洋一氏の上掲書をお読み頂ければすぐわかる。
平野英治氏は、元日銀理事らしく、日銀が確信犯的に日本をデフレに追い込み、結果として円高を招いていること、つまり、いまの円高の責任が、この10年の日銀の「デフレ・ターゲット」策にあることを、わざと隠しているのだ。
いま民主党がなすべきは、橋本内閣でウヤムヤのうちに改正されてしまった日本銀行法を一刻も早く改正し、いまの日銀から「目標の独立性」を奪い、政府がインフレ・ターゲットを設定することだ。
ということが、本書を読むとすっきり理解できる。
ところで本書の最後の方は、取ってつけたような郵政民営化反対論への反論になっている。
高橋洋一氏にとっては、郵政民営化が、小泉内閣時代の竹中平蔵氏と自分が残した成果であることはよく分かるのだが、日銀の問題点を一貫して論じている本書の中で、郵政民営化の議論を付け加えるのは、いささか我田引水の印象をあたえる。
仮に高橋洋一氏の議論が正しいとしても、「完全民営化」の当初の目標が郵政を破綻させないためだったとするなら、逆に、なぜそこまでして郵政を破綻させない必要があったのか?と問いたくなる。
逆説的ではあるが、郵政の民営化を後退させることで、確信犯的に郵政を破綻させてしまったほうが、むしろ政府が郵政事業によって民業圧迫するデメリットを完全に払拭でき、よりミクロレベルで自由競争を促進できるのではないのか。
いずれにせよ、せっかくの日銀批判が、最後の最後に取ってつけたような「郵政民営化」擁護論で台無しになっている。その意味で、本書『日本経済のウソ』は、197ページの半分まで読んで、残りは読まずにおくのがいちばん良い。
いずれにせよ、上記の平野英治氏のような日銀関係者の情報操作にダマされないために、本書は必読である。