エイベックスのBeeTV事業はYouTubeに勝てるか?

BeeTVのお話し。ツイッターの他の方のつぶやきから偶然拾った話題。
BeeTVというのは、エイベックス通信放送株式会社という、エイベックス・エンタテインメントが70%、NTTドコモが30%出資した会社が提供している動画配信サービス。
NTTドコモ携帯電話のうち「ビデオクリップ」対応機種のみで見られる。
視聴者への課金は月額315円だけで、BeeTVが配信する番組は見放題。ただし動画配信なので、当然「パケ・ホーダイ ダブル」定額制(=パケット通信料部分が最大4,410円/月)への加入が前提になる。
特徴的なのはコンテンツ制作者への印税配分システム。詳細は下記のCNET Japanの記事に書いてある。
ドコモとエイベックス、ケータイ放送局「BeeTV」開局へ–映像配信で印税分配も(2009/04/01 CNET Japan)
携帯電話への動画番組配信収入は、エイベックス通信放送社が「Good Share」と名付けたしくみで配分されるらしい。
視聴者の月会費税別300円のうち、NTTドコモの取り分は36円、残りの264円に会員数をかけた総売上の最大11%が月額分配原資。これを各番組の視聴占有率に応じて、キャストやスタッフに既定の料率で分配するという。
テレビ番組のようにスポンサーの広告収入には頼らず、会員からの月会費だけを番組制作原資にする点では、NHKの受信料に似ている。
ただ、総売上の89%、しかもこれがあくまで「下限」で、エイベックス通信放送社の取り分がもっと多くなる含みも持たせている。タレント事務所や番組制作会社の協力を継続的に得られるのかは、やや疑問。だから「Good Share」という耳ざわりの良い名前にしたのだろう。
ところでNTTドコモの2010年3月末時点の契約数(契約者の人数ではない点に注意)は5,600万契約。
「事業者別契約数」((社)電気通信事業者協会)
BeeTVのテレビCMに、僕が個人的に注目しているエイベックス所属、上海生まれのドイツクオーターの中国人・モデル、angelababyさんが出演していたことからもわかるように、BeeTVのメインターゲットはいわゆるF1層だ。
BeeTVの番組一覧はこちら。各番組には配信期間が設定されているので、それを過ぎると視聴できなくなるようだ。携帯電話で視聴するため、番組の長さは3~8分程度だという。
「BeeTVジャンル別番組一覧」(BeeTV公式サイトより)
この記事をお読みのみなさんは、BeeTVをご存知だっただろうか?そして毎月315円を払い続けて、番組を見たいと思うだろうか?
僕の個人的な推測だが、BeeTVの「視聴率」は、せいぜいテレビの深夜番組で良い方と言える5%程度ではないか。
5,600万契約の中には、法人契約が相当数あるはずだが、甘く見積もってそれも含めて5%で計算すると280万契約。ちなみにエイベックス通信放送社のサービス開始時の事業計画は、Wikipediaによれば2013年3月期で、会員350万人と、かなり強気。
280万契約を、280万人と好意的に読み替えて、かつ、BeeTVに315円の月会費を払い続け、解約しないと、楽観的に仮定してみる。
すると、上述の「Good Share」の計算式で計算すると、コンテンツ制作者側に毎月落ちるお金は、驚くべきことにたった8,100万円なのだ。
仮に毎月10番組しか配信しないとしても、1番組あたり810万円。1か月あたり1番組あたり810万円の予算で、キャストのギャラ、スタッフのお給料、その他諸経費をすべてまかなう必要がある。
一般的なテレビ番組の制作費と比べると、非常に安い。エイベックスが自社のタレントを安く使うなら別だが、BeeTVの番組を見ると他社の有名タレントさんが出演している。
NHKの受信料のように、契約すると支払う義務が発生するものではないので、番組が面白くなければBeeTVの視聴者はかんたんに契約を解除できる。
契約解除が増えると「Good Share」の配信印税が減り、番組制作者への配分が減る。制作者への配分が減ると、番組の質が落ちるか、BeeTVへの番組制作をやめて、ギャラや制作費の良いテレビ番組に戻る。
僕が最大のリスクだと考えるのは、ドコモの契約数自体が急拡大することのない限られたパイなので、BeeTVのビジネスモデルが、原理的に「正のスパイラル」に入れない点だ。
つまり、BeeTVの視聴者数の増加とともに、ドコモの契約数が増加し続けるということが、原理的に起こりえない点である。
BeeTVのような視聴者層を絞った、単なる一個のコンテンツが、ドコモの携帯電話事業全体にとって、KDDIやソフトバンクから契約者を奪い取るだけのキラーコンテンツにはなり得ないのだ。
タレント事務所や番組制作会社の立場からすると、当然、自分たちの取り分がよく安定的な収入が見込める番組を優先する。BeeTVの番組制作が、制作者側にとって「おいしい」仕事でなければ、BeeTVはかんたんに「負のスパイラル」に陥る。
ここからは僕の独断と偏見だが、たぶんエイベックス通信放送社は、今期BeeTVのためにつぎ込んだ広告宣伝費を回収するのに失敗すると思う。
その理由は、YouTubeという強敵の存在だ。ドコモ携帯でYouTubeを見るのに、当然、会費はかからない。違法にアップされたコンテンツを含めて、パケット定額料だけで、エイベックス自身が配信している動画も含め、無数の「番組」が見放題だ。
また、携帯電話の動画配信は、利用者にとっては所詮は単なる「ひまつぶし」であり、変にクオリティの高い番組を配信されたところで、継続して視聴しようなどと思わないはず。
YouTubeにアップロードされている程度の、ゆる~い動画で十分なのだ。この、日本国内の携帯電話で配信されるコンテンツには、「ゆるさ」が必要だ、という点は、すでにモバゲーやグリーなどの配信する「ゆるい」ゲームで、十分に実証されている。
また、ツイッターのような「ゆる~い」情報発信メディアが、パソコンだけでなく、携帯電話からも「モバツイ」や「yubitter」などで広く利用されていることからも、実証されている。
BeeTVは、明らかに、大上段に構えすぎた。最初から、高いクオリティやメジャー感を訴求しすぎた。この点で、すでに失敗していたと言っていい。
エイベックスはBeeTV事業を、広告収入に一切依存しない「受信料」モデルで、YouTubeに勝って黒字化できると本気で考えたのだろうか。
もちろんBeeTVが失敗したところで、エイベックス・グループ全体にとっては痛くもかゆくもないだろうけれど。
※同様にBeeTVに懐疑的な意見。
「月額315円の携帯動画サービスBeeTV:目標会員数達成は厳しいのでは?」(あすなろブログ)
「NHKオンデマンドとBeeTVに『頭痛の種』」(FACTAオンライン)