時効廃止の恐ろしさを知らない全国犯罪被害者の会の皆さん

時効を廃止しようという声が、とくに殺人事件などの凶悪事件について高まっているらしい。
(※この記事の続きは、「時効廃止は犯罪被害者の皆さんに損になる」に書かせて頂いた)
恐ろしい世の中になったものだ。
時効廃止を要求なさっているのは、全国犯罪被害者の会「NAVS あすの会」の方々である。
例によって産経新聞系の関西テレビでは、山本浩之アナウンサーが臆面もなく時効廃止に大賛成、過去の事件にもさかのぼって時効廃止を適用すべきと語っていた。
もちろん、犯罪被害者とその家族・親族の方々の、悲しみや辛さ、悔しさは、理解できる。
しかし、時効廃止をとなえている犯罪被害者の関係者のみなさんは、自分自身が無実の罪で、ある日突然、警察に連行される危険性を、考えたことがないのだろうか?
警察に逮捕され、取調室で、たとえば以下のように追及される危険性を、考えたことがないのだろうか?
【刑事】「お前は40年前の○月×日○時×分ごろ、○×という場所で、○×さんを殺しただろ!もし殺していないというなら、その時、その場所にいなかったことを証明してみろ」
【犯罪被害者の会のAさん】「何をおっしゃるんですか。私自身、妻を殺された犯罪被害者なんですよ!その私が人殺しなんてするはずがないでしょ!」
【刑事】「しらばっくれるな!お前のDNA型と全く同じDNA型の血痕が、現場から見つかっているんだ。しかも、35年前、お前を現場で見たという目撃者が確かにいるんだ」
【犯罪被害者の会のAさん】「そんなバカな。そんなことありえません」
【刑事】「じゃあ40年前のその日のその時間に、別の場所にいたということを証明しろ!」
警察官や刑事も人間だ。間違いを犯すこともある。警察官や刑事が常に100%正しい捜査をすると考えるのは、ちょっと楽観的すぎやしないか。
全国犯罪被害者の会のみなさんも、関西テレビの山本浩之アナウンサーも、国家権力の恐さを全くわかっていない。
もう一つ、例を出そう。強制わいせつ罪の時効は7年である。
あなたが駅のホームを歩いていると、いきなり警官に捕まえられて、こう言われるのだ。
【警官】「10年前、この駅から乗り込んで、当時17歳の女子高生を電車内で痴漢した強制わいせつの容疑で逮捕する!ほら、あそこにいる被害者の方から訴えがあり、たしかにお前に間違いないと言っているんだ!」
さて、あなたはどうやって自分の無実を証明できるだろうか。仮に無罪放免になっても、日本社会では一度でも逮捕された人間は犯罪者あつかいだ。
国家権力から見れば、時効廃止はとても好都合である。
国に対して反抗的な人物がいれば、例えば50年前の事件をほじくり返して、適当に証拠をそろえ、そいつを容疑者として逮捕・起訴すればいい。
いくら有能な弁護士の力を借りても、一般市民が50年前の事件に自分がまったく関わりないことを客観的に証明することは、ほぼ不可能である。
時効が廃止になれば、50年前の事件でも、100年前の事件でも、警察は犯人を捜査して、無理やりでも見つけ出すことができる。
時効が廃止になるということは、警察や検察が、無期限の捜査権を手に入れ、司法が無期限の審査権を得るということなのだ。
これは、警察や検察が100%間違いを犯さないという前提があって、初めて成り立つ強大な権限である。
しかし、くり返しになるが、警察や検察も人間。間違いを犯すことはある。
人間という本質的に不完全な存在に、無期限の権限を与えることは、論理的に矛盾しているのだ。
全国犯罪被害者の会のみなさんは、自分が無実の罪で逮捕される可能性を、いま一度、考えてみて頂きたい。
※追記:今晩の『報道ステーション』を見る限り、朝日新聞系も、凶悪犯罪の時効廃止には賛成らしい。犯罪被害者の感情だけに注目し、それ以外の要素、つまり、司法権力の無謬性をそう簡単に信じていいのかなどの要素が、完全に無視されている。非常に危険だ。非常に恐ろしい展開である。