厚労省は事業所別自殺者数を企業の実名入りで公開しよう!

『日経ビジネス』もたまにはいい連載をしている。河合薫の「新リーダー術・上司と部下の力学」だ
この連載の2009/10/15の回「自殺者が多い職場-経営者が置き去りにした“もの”」が、けっこう面白かった。(面白いという言葉は不謹慎かもしれないが)
「自殺者が多い職場-経営者が置き去りにした“もの”~「ソーシャル・キャピタル」の考え方が経営を変える」
フランステレコム(社員約10万人のフランス最大手の電信会社)で、2007年以来、大規模なリストラなどを理由に24人も自殺者が出ていた、ということを、この連載の記事で初めて知って驚きだった。
それよりもっと興味深かったのは、メンタルヘルスに対する経営陣の認識のなさを、河合薫氏が痛烈に批判している点だ。
曰く、「経営陣には、自分たちが社員に向けて”弾”を撃っているという認識すらないのだろう」。
そして同じことが日本でも起こっているらしい。河合氏の知る某大手企業では、一月に1、2回は「自殺告知」が職場にあり、自殺をする従業員が急増しているという。
しかもその事実に対して、その企業が最優先でとっている対策が、自殺者の遺族から訴訟を起こされないように、いかに会社側が努力してきたかを主張するQ&A集をつくること、らしい。
こんな会社は、ウラが取れていれば、実名報道してしまえばいい。そうすれば、日本の年間自殺者数は確実に減る。そう思うのは、僕だけではないだろう。
ついでに、今朝のニュースで、有給休暇の取得率が依然として5割を切っているとあった。
これも、統計数字を握っている厚労省が、有給休暇取得率ワースト100の企業名を、実名でマスコミに情報開示してしまえばいいのだ。どうしてこんな簡単な手が打てないのだろう?
話がそれた。河合薫氏の連載にもどると、メンタルヘルスの1次予防、つまり、まだ元気にバリバリ働いている社員に対するメンタルヘルス対策に無関心な、日本企業のリーダーを批判している。
その部分を引用してみる。
「そのトップは、一代で小さな小売業者を大企業に躍進させた名経営者として経済界でも名の知れた方だ。その人が
『なんで最近のヤツラは仕事が多くなって、ウツだのなんだのってなるのかね。普通は仕事がたくさんあるとうれしいんじゃないのかね』と平気で言うのだそうだ(もちろん公の場で言うわけではない。社内のごく限られた人たちの前ではあるのだが…)」
この部分を読んで、うちの会社のトップも、そんなことを言ってそうだなぁ、と思う方は多いのではないだろうか。
河合氏がこの連載のこの回で書いているように、会社は”絆創膏”を準備するだけではダメなのだ。
つまり、じっさいに、うつ病の社員が出た後の対策だけを考えるのでは、ぜんぜんダメなのだ。
この点について河合氏は企業内の「ソーシャルキャピタル」、つまり”社員同士のつながり”を豊かにすることが対策になる、と書いている。
例えば、以下のように書いている。
「私がこれまで取材した経営者のうち、世界に通じる技をもち生産性を上げている企業のトップは、誰一人として社長室にとどまってはいなかった。あるトップは毎朝社内を1時間かけて歩きまわり、あるトップは社食で従業員たちと食事をし、あるトップは社長室にバーを作り、社員と夜通し飲んでいた。それぞれのやり方で、それぞれの考えで、方法は異なるけれど、いずれも社員と人と人としてのつながる場を意識的につくっていた」
この河合氏の提案については、僕は「諸刃の剣」だと考える。
「毎朝社内を1時間かけて歩きわまる」ことが、社員のメンタル面にとってプラスになる経営者と、マイナスになる経営者がいるに違いないからだ。
河合氏が誤解しているのは、「ソーシャルキャピタル」つまり「人と人とのつながり」を深めることが、どの企業にも社員のメンタルヘルスの改善に効果がある、普遍的な対策だと考えている点だ。
経営陣が「ソーシャルキャピタル」を活用して、社員のメンタル面にプラスの効果をおよぼすかどうかは、はっきり言って、経営陣のキャラクターによる。
普段から業績向上一本ヤリの経営陣が、毎朝1時間かけて社内を歩き回りでもしたら、逆に、社員のメンタルヘルスは悪化するだろう。
また、例えば個人的に家庭の問題をかかえている経営者、つまり、個人的に「ソーシャルキャピタル」の維持をする能力のない経営者が、会社で「ソーシャルキャピタル」の維持などできるわけがない。
そういう経営者に限って、メンタル面で問題をおこした社員に対して、「会社は全面的に協力するから、何でも言ってくれ」とくり返すだけ。
つまり、労災の訴訟でも起こされたときに「会社は最大限の努力をしていた」というアリバイづくりに熱心で、実際には何もしない。口だけで何もしないのは、明らかに「不作為」である。
また、日本企業で「人と人とのつながり」を強調すると、「みんな仲良く一致団結!」といった、いわゆる「みんな同じ」という同調圧力が強くなり、かえって社員のメンタルヘルスを悪化させる副作用のおそれが大きい。
以上のような点で、河合氏はやや楽観的すぎる。
僕は企業の経営者は、河合氏が考えるほど「お人好し」ではないと信じている。「お人好し」では、厳しい競争社会で勝ち上がれない。
企業の経営者が決して「お人好し」でないという前提で、企業におけるメンタルヘルス対策の改善を、ほんとうに実現するには、残念ながら日本の場合、「お上(かみ)の外圧」に頼るしかないのだ。
たとえば、こういうことである。
厚労省が、毎年、事業所別の自殺者数、従業員数当たり自殺者数、有給休暇取得率などのワーストランキングを、企業の実名入りで公表するのだ。
日本人は、何だかんだいって「お上(かみ)」の圧力に弱い。それこそが日本企業の経営者にとっての「ソーシャルキャピタル」なのだから、これを活用しない手はない。
もちろん、厚労省が本当にそんな情報公開をしたら、各企業はうつ病になった社員をじゃんじゃん解雇して、厚労省の統計に反映されないようにするだろう。
でも、企業側も本当にうつ病の社員をじゃんじゃん解雇したら、遅かれ早かれ残された社員の業務負荷が限界に達し、会社が回らなくなり、業績が悪化する。
河合氏の議論は正しいが、対策案は、はっきり言って、甘い。
自分で社員に銃弾を撃っていることに気づかない経営者には、厚労省が実名入りの「メンタル・ブラック会社リスト」を公表するくらいの劇薬が必要だ。
そうしないと、毎年3万人、じっさいにはその数倍が自殺で死んでいっている日本という国が、ほんとうに経済競争力のない小国になってしまう。

厚労省は事業所別自殺者数を企業の実名入りで公開しよう!」への1件のフィードバック

  1. うつ病ブログ(メンタルヘルスの広場)

    この年末も、期限を区切られて時間に縛られている気がします。そんな縛りから自分を解放したつもりだったのに、徹底してませんでした。

    この年末も、期限を区切られて時間に縛られている気がします。そんな縛りから自分を解

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