鬼束ちひろインタビュー『BARFOUT!』2007/11号批評(1)

鬼束ちひろがどうやって復活できたのかが、いちばんよくわかる、幻冬舎の雑誌『BARFOUT!』2007年11月号(Volume 147)。第1特集『復活の日~RISE, FALL and RETURN!!!』鬼束ちひろ×岡村靖幸。

いよいよ、鬼束ちひろの単独インタビューの部分をレビューしてみたい。p.019~p.022。
インタビューは4thアルバム『LAS VEGAS』が完成した感想から始まる。

barf:アルバムができて、感想は?
鬼束:まだ、実感ないですね。
barf:どれくらいの期間で作ってたの?
鬼束:去年から結構飛び飛びでやってましたね。
barf:曲自体はいつ頃に作ったの?
鬼束:一昨年かな?集中して作って。あと昔に作った曲とか。
barf:小林武史さんとは、どんな流れで一緒にやることになったの?
鬼束:YEN TOWN BANDのイメージが強くて、ずっとやってみたいって思ってた人で。それをディレクターに言ったら、会わせてくれて、「一緒にやろう」ということになって。

この「ディレクター」とは、ユニバーサルの〈A&M〉レーベル統括ディレクター、近藤雅信氏のこと。この辺りの経緯は『BARFOUT!』同号のp.030~p.031にある、同氏のインタビューに詳しく書かれている。これも後日とりあげる。

barf:小林さんが作るサウンドは?
鬼束:まだ、びっくりすることがあるけど、ほとんど好みっていうか、的を得ているっていうか。厳しくはないけど、私は1人で怖がってる。的確ですごい作業が速い。びっくりするぐらい。
barf:休んでる間、曲って書いてた?
鬼束:書いてない。一昨年に、ディレクターから「書け」って言われて書いたって感じで。ずっと、グダグダしてた。
barf:前からそうだったっけ?
鬼束:ううん、前はどんどんできてた。
barf:じゃあ、大変だった?
鬼束:うん。曲を書くのにハードルが高くなったから。前だったら「これでOK」と思ってた曲が、「これじゃダメだ」って思うようになって。そしたら、書けなくなってなっちゃって。

活動休止前までの鬼束ちひろが、湧き出るように曲を書き続けていたのは有名な話だが、それは本当にここで本人が語っているように、自己評価が厳しくなったからだけなのだろうか?なお、最後の「書けなくなってなっちゃって」は本文のまま引用している。日本語の文法として完全に誤りだが、鬼束ちひろ本人が語ったものか、誤植か?

barf:岡村(靖幸)さんも言ってた。自分内ハードルが上がってるから、詞を書くのが難しいって。
鬼束:私もそうかな? 曲はできてるかな? でも、曲だけとっといてるってことはないから。詞ができて、曲も一緒にできるって感じが、一番しっくりくるから大変。詞と曲って同時進行だから。1小節ぐらい書いて、クシャクシャポイって感じで(笑)。
barf:書けない時期が結構あって、それが「書け」って言われて、いきなりスイッチが入ったっていうのは、すごいね。
鬼束:うん。「このアルバムのために」って感じだったから。
barf:やっぱ、締め切りがあった方がいいってこと?
鬼束:(苦笑)そうですね。
barf:書いてみて「イケるじゃん」って思った?
鬼束:うん、「イケる」って今回は思った。でも、アルバムを作って以来、今は書いてないんだけど(笑)。今はプロモーションに集中してて。お父さんが今日まで来てたんだけど、「オマエは器用貧乏の真逆なんだから、同時にやるな」って言われて(笑)。

いきなり鬼束ちひろのお父さん登場。やはり『DOROTHY』のクレジットにも登場する、ナポレオンレコードの代表は鬼束ちひろのお父さんなのだろう。鬼束ちひろが決して器用ではないことは、ファンの皆さんもよくご存じのとおり。でも、宮崎県からわざわざ、活動再開した娘を心配して上京してくるお父さんって、鬼束ちひろは、やはりふつうに家族に愛されている娘でもあるのだ。

barf:でもさ、いきなり書けたっていうのが、すごいね。
鬼束:そうですよね。「everyhome」とかは、その前からあったから、アルバム用に足りない曲を書いてみて。「everyhome」はもう古いって感じがしてて。10年前みたいな感じで。大きい曲が書きたくて。『フォレスト・ガンプ』を観ながら書いてた。
barf:結構、映画観た?
鬼束:観てた。昔から好きだったし。
barf:昨日、アンジェリーナ・ジョリーの最新作の『マイティ・ハート』観てきた。
鬼束:あの人も狂ってるじゃない?「Angelina」って曲は、アンジェリーナ・ジョリーからつけたの。他にも『ガール・ネクスト・ドア』って映画も面白かった。『バベル』も良かった。

「あの人も」の「も」という助詞がいい。私も狂ってる、という意味だ。僕は基本、今のハリウッド映画は観ないので知らなかったのだが、家が貧しいアンジェリーナ・ジョリーはアクターズ・スタジオにいた思春期に、いじめに遭い、自傷行為や、男性とナイフで傷付け合いながらの性行為、遺体の死化粧をするアルバイト、同性愛など。
でも、鬼束ちひろはタトゥーはしていない(と思う)。中島美嘉でさえタトゥーをしているのに。鬼束ちひろって、自分で狂ってると言いながら、酒もタバコも飲まず、生真面目でストイックで純粋だ。多くのファンは、そういう鬼束ちひろに惹かれているのだと思う。もともと日南高校の優等生で、頭の良い人だし。
さて、いよいよ鬼束ちひろの自殺未遂の件が、さらりと出てくる。

barf:旅行とか行ってた?
鬼束:どこにも行ってない。自殺未遂とかしてた(笑)。
barf:そっちに行っちゃったんだ(笑)。
鬼束:そっちの旅行に行ってたの。1回ぐらい(笑)。
barf:時間があるから旅行に行ってたのかな?って。前、「行きたい」って言ってたじゃない?
鬼束:うん。でも、「行きたい」って言ってるだけで、旅行会社を選んだり、荷物詰めたりとかの段階が嫌なんですよ。それするぐらいだったら、行かないんで。でも、仕事とかで、PVをミラノで撮りますとかだったら「しょうがねぇなぁ」って行くんだけど(笑)。今、希望を出してるところなの。ヨーロッパ巡業を。
barf:時間があって、いろんなところへ行けて、いいなって思ってたから。
鬼束:違うところに行っちゃった。川見ちゃった(笑)。で、戻って来て、小林さんに出会って(笑)。昔は実家に帰るのが嫌でたまらなかったけど、ちょっと大人になってきて、「実家っていいな」って思うようになって。ちょこちょこ帰ったりしてたし。でも、夏は絶対帰んない。虫が多いから(笑)。

三途の川を見てきた話と、公式サイトの2008年新年ビデオメッセージでも本人が語っていた、仕事でヨーロッパに行きたい話と、実家っていいなっていう話と、虫が嫌いという話が、まったく同じレベルで語られているのが、たまらなく良い。
これは個人的な意見だが、「死」を日常として意識できない人間はダメだと思う。よく会社員が「病気で入院して初めて健康の大切さが分かりました」などとほざいているが、そういう能天気な人間とは絶対に友人にはなれない。鬼束ちひろのファンにも、そういう能天気な人間はいないと思う。
そういうのをラテン語で言えば「メメント・モリ」になるが、小林武史プロデュースのMr.Childrenの曲に『花~Memento-Mori~』というシングルがあったね。

barf:あんまり、家から出なかったとか?
鬼束:出なかった。
barf:ショッピングは?
鬼束:してた。人とは会わなかったですね。でも、すごく仲良くしてた人がいて、今も仲良いんだけど、その人が、私が何かあるたびに助けてくれてましたね。
barf:活動的なことをやろうとは?
鬼束:んー、落ち込んでた。
barf:ファンの人達から、求められてる的な感触は?
鬼束:うん。「『待ってる』って人がいっぱいいるよ」とは、いろんな人から聴いてたんだけど、全然耳に入んなくて。実感がないから。
barf:でも、そのまま消えていくってパターンって、なかなかないじゃん?
鬼束:いや、あるよ。引退説ささやかれてたもん。
barf:でも、大変だったから、ゆっくり休んで良かったんじゃない?欧米だとリリース・タームとか長いし。
鬼束:うん。休みをとったことは良かったと思いますね。

このあたり、やはり鬼束ちひろが「うつ病」だったのではないかと思わせる。行動が規制される抑うつ状態が見られるのと、休養が良かったという言葉が、鬼束ちひろ自身ではなく、医者から言われた言葉のような気がするからだ。別の根拠は、もう少し後に登場する。

barf:今年いくつ?デビューっていくつだったっけ?
鬼束:今年27。デビューは19。
barf:何気にキャリア長いね。
鬼束:うん。全然歳とったイメージが感じられない。
barf:休み中って、何してたの?
鬼束:マンガ読んでた。本屋よく通って。音楽も聴いてた。トーリ・エイモスとか。それくらいかな。あと、嵐を聴いてましたね(笑)。

正直、Tori Amosは知らなかったのだが、YouTubeで何曲か聴いた結果、僕が今まで読んだインタビューの中で、鬼束ちひろの口から一度も、Kate Bushの名前が出ないのが不思議なのだ。単なる世代の違いなのか?

barf:外出して「鬼束だ」とか騒がれたりは?
鬼束:だんだん、言われなくなっていった(笑)。だから、変装もしなくなって。最近になって、ちょっとバレるけど。でも、変装しない癖が続いてて、よく怒られる。
barf:夜型?
鬼束:うん。
barf:部屋にキーボードは?
鬼束:うん。あるけど、全然触ってない。
barf:「復活」の実感ってある?
鬼束:それがなくて。
barf:ライヴは?
鬼束:来年はやりたいですね。
barf:未遂っていつ頃だったの?
鬼束:3年前ぐらいかな?
barf:「もういいや!」的な感じで?
鬼束:うん、「いいや」的な感じ。死に損ねた感じですね。薬で。
barf:『育つ雑草』のジャケのポスターのまんまじゃん。今は大丈夫?
鬼束:うん。今はもう全然大丈夫。
barf:それを経てなんか変わった?
鬼束:ないんです。
barf:何か見たとか?
鬼束:それが見てないの。1日でヒョイと起き上っちゃって。自分で。「効かねぇじゃん」って(笑)。結構な量を飲んだんだけど。病院に連れていかれたけど、胃の洗浄もされずに。
barf:そんな話を聞いても、あまり驚かないんだけど。
鬼束:おかしいよね。

僕が、鬼束ちひろが神経症で医者にかかっていたのではと思ったのは、まず、活動休止期間もどこかしらの事務所に所属していて、ゴシップにならずに安全に医者にかかれたこと、そして、ここに書いてあるように、大量服薬したのに胃洗浄されなかったことだ。
市販薬を大量服薬した場合、医者は無数にある市販薬に含まれる成分を、いちいち全て把握していないので、とにかく胃洗浄するはずである。一方、処方薬の場合、医者は成分を完全に把握できるので、胃洗浄の必要性を判断できる。
また、「結構な量」を飲んだのに未遂に終わったのも、処方薬っぽい感じがする。処方薬を大量服薬したら、高い確率で死ぬか、絶対に死なないかのどちらかだからだ。
おそらく鬼束ちひろの抑うつ状態は、マンガを買いに本屋に出かけていたとあるように、それほどひどくなく、自殺に使えるような強い薬は処方されていなかったに違いない。
効き目が穏やかな処方薬の安定剤なら、本人としては大量服薬したつもりでも、一時的に血中濃度が上がって眠ったとしても、一時的に肝臓や腎臓に負担がかかるくらいで、代謝されて、排出されてしまえば、おそらく胃洗浄の必要はない。
やはり鬼束ちひろという人は、中学生の頃と変わらない、まじめな優等生で、活動休止期間中も、グダグダしながらも、家族や所属事務所に良い意味で管理された生活を送っていて、それに逆らうような愚かなことをすることもなかったのだと思う。
そろそろ長くなってきたので、つづきはまた次回。
※なお、鬼束ちひろについてツイッターでつぶやくときのハッシュタグは #onitsuka に決まりました。