鬼束ちひろ×岡村靖幸対談『BARFOUT!』2007/11号レビュー

鬼束ちひろがどうやって復活をとげたのか。いちばんよくわかる雑誌のバックナンバーを、ついに手に入れた。
幻冬舎の雑誌『BARFOUT!』2007年11月号(Volume 147)。第1特集『復活の日~RISE, FALL and RETURN!!!』鬼束ちひろ×岡村靖幸。

幻冬舎の公式サイトを確認しても、この号は絶版で重版未定となっている。ネットで購入すると中間業者が儲かるだけで、今回、僕も定価の4倍の値段で買わされた。もちろんこの中間マージンは、幻冬舎にも、インタビューの執筆者にも、鬼束ちひろにも、一銭も入らない。
鬼束ちひろファンの皆さんが、これ以上、中間利益を搾取されないように、数回にわたって鬼束ちひろのインタビュー部分をレビューしてみたい。
(もし重版が決まったら幻冬舎の方、ご連絡下さい。ただちにこのブログの記事は削除します)
岡村靖幸の方は、残念ながらこのインタビューの数ヵ月後に、三度目の逮捕で実刑判決を受け、復帰は早くても来年以降になる。『BARFOUT!』の表紙と見開きの、鬼束ちひろとのツーショットは皮肉だ。
鬼束ファンにとってこの『BARFOUT!』2007年11月号が重要な理由は、鬼束ちひろが大量服薬による自殺未遂をしたことを、正直に告白しているからだ。
そのことが書いてある単独インタビューの前に、p.016~p.017が岡村靖幸と記者との鼎談があるので、まずはそこから。
ちなみに、どうでもいいことを先に片づけておく。僕はもちろん岡村靖幸の名前は知っているが曲は聴いたこともないし、聴く気にもならなかった。

理由は、1曲だけ聴いたことのある曲がヒドすぎたことと、あまりに自意識過剰だからだ。自意識過剰な人間は、自意識過剰な人間が大嫌いなのだと思う。洋楽でもPrinceはあまり好きではなかったし。『Raspberry Beret』は大好きだけど。
「Face to Face 鬼束ちひろ×岡村靖幸」p.016~p.017
でも鬼束ちひろは岡村靖幸の大ファンらしい。以下、その部分を引用してみる。

鬼束:『AP BANG!東京環境会議』で、リハを観ました。すごく、感動しました。
岡村:ホントすか?(笑)
鬼束:いつも、カラオケで歌ってるんです。「聖書(バイブル)」とか死んじゃう(笑)。
岡村:本当ですか?話かけてくれれば……。
鬼束:友達がすごいファンで。それで聴かせてもらったら、すごく惹かれて。だから、遅いファンなんですけど。それで色々知って、アルバム、ライヴDVDも買って。昨日も、『Peach Show ’89』ライヴを観ました。
岡村:あれは『LIVE 家庭教師 ’91』の前ですかね。
鬼束:もう、すごくて(笑)。
岡村:ありがとうございます(照)。
鬼束:岡村さんの存在が、唯一無二なんです。
岡村:困った状況になってますよね(照)。

めったに他の歌手を褒めない岡村靖幸のスタッフが、鬼束ちひろの歌唱を絶賛したことがある、というのは、鬼束ファンの間では有名な話だが、その部分を引用してみる。

barf:岡村さんは、鬼束さんの曲を聴いて、どんな感想をお持ちになりましたか?
岡村:僕のマネージャーが、鬼束さんの『AP BANG!東京環境会議』でのパフォーマンスが「すごく良い」って言ってたんですよ。「もしかしたら、ベスト・アクトじゃないか?というくらい、良いアクトだったんじゃないか?」って言うので、映像を見せてもらったんですけど、確かにすごい迫力がありましたし、鬼気迫る感じで、すごい良かったんですね。うちのスタッフは、あまり人を褒めたりしないんですけど、珍しく褒めてて。あと、小林武史さんが、バックでピアノを弾いてらっしゃるんですけど、そのピアノもすごい良かったですね。歌にすごい合ってて、すごい良かったです。

そして、二人とも映画好きという話題になる。


barf:2人共、すごく映画をチェックしてますね。
岡村:『死ぬまでにしたい10のこと』の監督の、次の作品は、すごかったですよ。

(※筆者註:ペドロ・アルモドバル監督のこと。僕は『私の秘密の花』『オール・アバウト・マイ・マザー』を観て、過去にちゃんと感想を書いている)

鬼束:『死ぬまでにしたい10のこと』は主人公の女の子が印象的でしたね。サラ・ポーリーでしたっけ?洋楽ではどんなものを聴くんですか?
岡村:いろんなのを聴きますよ。ロックンロールも聴きますし、ダンス・ミュージックも聴きますし。
鬼束:失礼かもしれないですが、やっぱり、プリンスとかもお好きなんですか?
岡村:好き好き、すごい好きですね。最近はあまり聴いてないですけど。でも10代の頃とか、すごい影響を受けました。好きですか?
鬼束:私はあまりブラック・ミュージックとか聴かないんですけど。カントリーが好きなんですね。

いつの間にか話題は音楽に変わっているが、やはり鬼束ちひろは黒人系の音楽は聴かず、カントリーが好きだと明言している。

岡村:kd・ラングみたいなのとか好きですか?

鬼束:好きですね。
岡村:モロ、カントリーというより、カントリーの味があるポップ、みたいな?
鬼束:そうです。
岡村:最近だと、ノラ・ジョーンズとかも、ちょっとカントリーのようなものですね。あと、ダン・ヒックスとか。
鬼束:すみません。知らないです。
岡村:ダン・ヒックス、いいですよ。カントリーの味があるんだけど、ただのカントリーじゃなくて、かなり凝ってて面白いですね。kd・ラングって、映画に出たじゃないですか?『バグダッド・カフェ』の監督の作品で。氷の上を裸足で歩くレズビアンの役で。かなり暗かったですね。

僕はkd・ラングを知らなかったが、カナダの女性カントリー歌手で同性愛者であることをカミングアウトしている。でも鬼束ちひろ、2007年時点でノラ・ジョーンズを知らないとは、そうとう引きこもっていたんだなぁ。

barf:「この俳優が出てる作品は観よう」というのは、ありますか?
岡村:あんま、ないですね。思い出せないだけかもしれないけど。
鬼束:私は、意外かもしれないですが、ベン・スティラーとか好きですね。モロ、コメディーとか好きなんです。『ズーランダー』とかすっごい面白くて(笑)。アンジェリーナ・ジョリーも好きです。ゴシップ誌まで買ってるくらいで(笑)。
岡村:俳優では選ばないですが、傾向としては、精神的に余裕のある時は、大作とかドキュメンタリーとかの重いヤツをバンバン借りて観るんですけど、精神的に余裕がなかったり、忙しかったりする時は、軽いものにしますね。コメディも借ります。だから、戦争ものは余裕がないと観れないですね。『戦場のピアニスト』とか、みんな「面白い」っていうから観たいんですけど。
barf:僕も、ついコメディーとかドキュメンタリーに流れちゃいます。鬼束さんは?
鬼束:サクセス・ストーリーが好きです。『天使にラヴ・ソングを』とか。
岡村:あれ、いいですよね。

そうか。鬼束ちひろは『天使にラヴ・ソングを』みたいなサクセス・ストーリーが好きなのか。意外に純粋だな。

鬼束:質問してもいいですか?
岡村:どうぞ。
鬼束:いっぱい、いろんな方に曲を提供してらっしゃいますが、そういうのが好きなんですか?それとも、頼まれて作るって感じなんですか?
岡村:頼まれて、ですね。
鬼束:嫌々ですか?
岡村:嫌々な時もあるんでしょうけど、でも、楽しくやってます。「この人はやる、やらない」とか、選ばないですよ。
鬼束:私。岡村さんがプロデュースしたMEGちゃんと友達なんです。
岡村:へぇー。僕のところでマニュピレーターをやってた方が、「鬼束さんと仕事してた」って聞きました。
barf:鬼束さんが岡村さんの曲を歌うとしたら、どの曲でしょう?
鬼束:「聖書(バイブル)」と「ターザン・ボーイ」。
岡村:ありがとうございます……。あー、でも聴いてみたいですね。ものすごいはっちゃけてるのを。バリッバリに踊りながら。でもライヴだと、結構ガッてやってる曲もあるんですか?
鬼束:はい、結構動いてます。
岡村:僕は『AP BANG!東京環境会議』のライヴしか観たことないから。じゃあ、はじけてガーッと行ってる曲もある?
barf:でも、激しいのはあるけど、リズムに乗って踊りながら歌うっていうのはないですよね?
鬼束:それは、ないです。
barf:踊って歌う願望ってありますでしょ?
鬼束:(笑)ありますね。
岡村:(笑)あーいいですね。ぜひ、行ってください。
鬼束:岡村さんの踊りは自己流ですか?
岡村:自己流です。
鬼束:すごいですね。
岡村:絶対やってくださいよ、今年。
鬼束:(笑)。
barf:ブリトニー・スピアーズとか、マイケル・ジャクソンとか好きですもんね。
鬼束:ええ、大好きです。
岡村:そういうのやってくださいよ。絶対似合いますよ。
鬼束:マイケルも好きですか?
岡村:すごい好きです。

で、『X』のプロモーション・ビデオの、あの踊りになりましたとか、そういうこと?まさか。

barf:プロデュースなんだけど、相手に合わせるというより、仕上がりが岡村さんテイストになってるのがすごいなと思うんです。
岡村:発注が「岡村さんらしいのにしてください」なんですよ。例えば川本真琴さんの時とか反対したんです。「彼女も曲を書けるし、あまり僕の色が強い曲でデビューにしない方がいいんじゃないですか?」って言ったんですけど、「これで行きたい」っておっしゃったんで。
鬼束:歌詞って、すごく考えて書くんですか?
岡本:考えますねぇ。すぐ出てきますか?
鬼束:いえ、全然。
岡本:全然、時間がかかりますね。
barf:デビュー時は、自分で作詞するつもりではなかったと聞いて驚きました。
鬼束:絶対、自分で書かれた方がいいと思います。
barf:鬼束さんの場合は、詞が先にできるんですよね?
岡本:あ、そうなんですか。すごい。そういう人って、多分少ないですよね。僕は詞が難産ですから。
barf:ライヴでフリースタイルで歌っているので、つい詞もすーっとできるのかと思いがちですが。
鬼束:そうですよね。
岡村:この前、他の人に詞を書いたんですけど、他人のだと早いんですよ。発注に「こういうのにしてほしい」というニーズがあるんで。でも、自分の曲だと、自分の中から搾り出す、向き合いながら出さないといけないじゃないですか?鬼束さんもそうだと思いますけど。そうなると、自分にかなり向き合って……。楽勝ではないですよね。多分、バンバン、楽勝の人もいると思うんですけど、そういう人はすごく羨ましいですね。
鬼束:詞から先に作るんですが、もう、どうしようもない時は曲と一緒に作ります。
岡村:僕は、それはないですね。
鬼束:曲からですか?
岡村:はい。たまに詞からできる時もあるんですけど、使いものにならない。女言葉になってたりして。
鬼束:(笑)
岡村:僕の周りに、どの人と付き合っても、どうしても不倫に向かっちゃって、いつも悲しい思いをしてる子がいて。不倫とかしてると、どうしても周りの人を傷つけてしまう過程があると分かってるので、「止められないの?」みたいな話をしたんです。でも、「不倫でも恋は恋で、打算ではなくやってる」って聞いて、「あー、そうなんだ。あんなオッサンとでも、ピュアにやってるんだ。ふうん」って思って、その女の子の視点で、不倫の歌詞を書いたことがありますけど。
鬼束:ライヴの設定とかも、岡村さんが考えるんですか?バスケット・ゴールがいつもあるとか。
岡村:そうです。
鬼束:本当にバスケット・ボール部だったんですか?
岡村:そうです。ライヴの設定とか、ご自分で考えないですか?
鬼束:あんまり考えないですね。舞台監督にお任せして。
岡村:任せられるのは、信頼できる人がいるからでしょう。それはいいですよね。僕はそういう人と出会ってないから、自分でやってしまうんですね。

ここで岡村靖幸、さりげなく非常に寂しいことを語っている。単に自意識過剰なアーティストだと思っていたが、自分の才能と個性ゆえに、信頼して任せられる仲間を見つけられない孤独さが、薬物に走らせたのかもしれないなぁ。

barf:恋愛話ですが。相手が岡村さんだと知ってて、来られると引いてしまうと。
鬼束:私みたいに、岡村さんを知ってると全然ダメですか?
岡村:(照)いやいや、全然ダメじゃないですよ。
鬼束:可能性はありですか?
岡村:そんな……(笑)
鬼束:(笑)。
岡村:まぁ、ドギマギしちゃいますね。
barf:岡村さんの新曲、聴きました?
鬼束:はい、すごく良かったです、すごく。
岡村:ありがとうございます。今度ギターとかで呼んでくれないですかね?
barf:同じステージで観たいですね。
岡村:いいですよ。
鬼束:お願いします。
barf:リズムが強い曲で。
岡村:それは、面白いかもしれない。
鬼束:がんばります(笑)。今日は、もう、会えただけで光栄です。
岡村:こちらこそ。
(2009/09/18 代官山にて)

というわけで、鬼束ちひろが本気で岡村靖幸を逆ナンしかねない対談はここでおしまい。残念ながら岡村靖幸の服役と、2008年の鬼束ちひろのツアーの中止で、二人の共演は実現しなかった。悲しいことだ。
で、いよいよ鬼束ちひろの単独インタビューだが、それは回を改めて。