児童ポルノ「単純所持」禁止のバカさ加減(2)

児童ポルノ「単純所持」禁止のバカさ加減(1)から続く)
2つめの疑問は、「児童ポルノの単純所持」とはどういう意味か?
ここには2つの問題がある。「児童ポルノ」とは何か?それから「単純所持」とは何か?だ。
今回の法律で「児童ポルノ」と「単純所持」がどう定義されているかは、あえて無視する。というのは、もっともゆるい基準と、もっとも厳しい基準を仮定すれば議論できるからだ。
まず「児童ポルノ」についての、もっとも厳しい基準から。
少しでも児童ポルノ的なことを連想させるような書画の「単純所持」をすべて禁止する、というものだ。
この場合、自分の子供が水着姿で遊んでいる写真も規制の対象になる。実の親がその写真を、性的な目で見ていないという保証がないからだ。
他の例でいえば、子供服のカタログで、肌の露出が多めの写真も、規制の対象になる。いや、肌の露出がまったくなくても、規制の対象にすべきだ。
ということで、画像だけでなく、文章も含めて、子供に関するあらゆる表象が規制の対象になる。
逆に、「児童ポルノ」についての、もっともゆるい基準は、かなり定義しづらい。
基準をゆるくしようと思えば、いくらでもゆるくできるので、今回、児童ポルノの「単純所持」を禁止する法律をつくった意味がなくなるからだ。
結果として、児童ポルノの「単純所持」を禁止する法律を作ったからには、何が「児童ポルノ」に当たるかは、できるだけ厳しい基準で定義しないと、法律を作った意味がなくなる。
つまり、「児童ポルノ」の定義が、場当たり的に運用されるのは、法律の施行前から目に見えている。
児童ポルノの単純所持は、性犯罪のような親告罪でもないので、警察が「お前が持っているこれは児童ポルノだ!」と決めつければ、いくらでも恣意的に捜査、逮捕できるからだ。
つぎに、「単純所持」についての、もっとも厳しい基準。
唐突な例だが、田舎の実家の食器棚に「児童ポルノ」があって、親が「これは子供の持ち物です」と言っても、「単純所持」にあたる。
親の言うことよりも、もう少し公的な組織の言うことの方が信用できるとすれば、次のような場合も考えられる。
海外のホスティング会社が、自社のサーバ上に「児童ポルノ」が保存されているのを見つけ、「これは日本の誰々という人物がアップロードしたものだ」と主張したとする。これも「単純所持」にあたる。
そうした通報を受け、警察がその人物を逮捕し、結果、証拠不十分で不起訴や起訴猶予になっても、その人物は一生、「児童ポルノの単純所持者」という白い目で見られることになる。
逆に、「単純所持」について、もっともゆるい基準は、これも定義しづらい。
実際の法案では、民主党が繰り返し取得した場合のみを「単純所持」と主張したのに対し、自民党は、一度に大量取得する場合もあるとして反論したようだ。
「単純所持」の基準をどんどんゆるくしていくと、限りなく「製造・販売目的での所持」に近くなり、今回の法律で「単純所持」を新たに禁止する意味がなくなる。
つまり、「児童ポルノ」の定義だけでなく、「単純所持」の定義についても、できるだけ厳しく定義しないと、「児童ポルノの単純所持」をわざわざ法律で禁止する意味がなくなる。
できるだけ厳しく定義しようとすると、「児童ポルノ」のはっきりした定義も、「単純所持」のはっきりした定義も、事実上不可能となり、結果的に、定義が場当たり的に運用されるのは、法律の施行前から目に見えている。
なぜこういう困難な問題が生じたのか。
それは、法律という公的なものが、個人の嗜好という私的な領域に踏み込もうとすることに、すべての原因がある。
繰り返しになるが、僕は「児童ポルノ」の定義が何であれ、「製造」「販売」を法律で禁止することには意味があると考える。じっさいに子供が経済的な理由から、性的搾取される被害を減らせるからだ。
しかし、「単純所持」を法律で禁止しても、「単純所持」の定義が何であれ、人間の頭の中のイメージまで禁止できないので、実質的な効果がない。
逆に、行政が「児童ポルノ」や「単純所持」の定義を拡大することで、まったくお門違いの逮捕や検挙が起こるおそれがある。
どなたか、なぜユニセフが児童ポルノの「単純所持」を禁止するように世界各国に呼びかけているのか、英語の文献でもかまわないので、根拠となる資料を教えていただけないだろうか?
どう考えても、「製造」「販売」の法的な禁止には実質的な効果があるが、「単純所持」の法的な禁止は、政府による思想信条の制限につながりやすい欠点があるのは明白だ。
思想信条の自由を制限するおそれがあるようなキャンペーンを、ユニセフが大々的に行っているとは考えづらいのだ。
極端な話、「児童ポルノ」と「単純所持」の定義のやりようによっては、本来、ユニセフが禁止したい児童ポルノの単純所持を、一部の国民だけが合法的にできるような制度運用も可能になってしまうのではないか。
もっと極端な話をすれば、国家が「児童ポルノ」の「単純所持」を独占するような制度運用も可能になってしまうのではないか。
ユニセフという組織は、個人の良心は疑うが、国家の良心は無条件に信用するといったような、能天気な組織なのだろうか。
つまり、ユニセフという組織は、個人は何をしでかすか分からないので信用できず、法律で規制すべきだが、国家は法律を適切に作り、適切に運用してくれるので、信用に値するものだと考えるような、能天気な組織なのだろうか。
別に「児童ポルノ」でなくても、タバコでも酒でも麻薬でも、何でもいいのだが、そういったものの「単純所持」を法律で禁止するよう、各国に呼びかけるということは、国家権力が、私的領域へ足を踏み入れる口実を与えることになる。
それは、ユニセフが本来守りたい子供の権利を守ることに、本当につながるのだろうか。逆に国家による、より深刻な搾取に道を開くことになるのではないか。
そんなはずはないと思うので、ぜひ、どなたか、ユニセフが「児童ポルノの単純所持の禁止」を各国に呼び掛けている文書をご存じのかたは、教えていただきたい。