「事業継続のためのパンデミック対策」は無意味です(2)

最近、日経がやたらと新型インフルエンザのパンデミック発生時の事業継続計画を話題にしている。『日経ビジネスオンライン』やら『日経ITPro』やら。
たとえばこちらの日経ビジネスオンラインのコラム『会社を停止させないための心得 パンデミックに備えはあるか?』
登場するのはいつも、格付け機関スタンダード&プアーズの佐柳氏。
他人のリスクを利用してお金儲けするのは、サブプライムローンしかり、資本主義では仕方ないことだが、事業継続のためのパンデミック対策については、僕は完全に無意味だと考えている。
強毒性インフルエンザの爆発的感染が起こるという状況は、大地震などの自然災害とはまったく性質が異なる。
自然災害は、発生するのは一瞬で、災害による直接の死者が、数か月にわたって増え続けるということはない。
つまり、リスクの原因となる事象は、短期間で消える。
しかしインフルエンザのパンデミックが起こった場合、それによる直接の死者は、数か月にわたって増え続ける。
つまり、リスクの原因となる事象は、存在し続けるのだ。
長い期間にわたってリスクの原因となる事象が存在し続け、それによって多くの人命が失われるという意味では、パンデミックは、地震よりも戦争に近い。
パンデミックが地震よりも戦争に近い理由は、もう一つある。
それは、政府が一時的に国民の自由を制限する点だ。
パンデミックが起これば、政府は感染者を強制隔離したり、それ以外の国民の外出を禁止するなど、国民の自由を一時的に制限せざるをえないだろう。
そういう状況になると、もはや、個別の民間企業が、自助努力で事業継続を考えるなどというレベルの状況ではなくなるのだ。
民間企業が、それぞれ事業継続計画を準備していても、肝心の社員は政府によって行動の自由を規制され、または、自分自身や家族が生き延びることを最優先に行動せざるを得ない状況におかれる。
まさに、先の大戦で沖縄が経験したような、地上戦と同じような状況になるのだ。
そんな状況で、個々の民間企業が事業継続計画などといった呑気なことを言っていられないのは、少し考えれば誰にでもわかることだ。
パンデミックのような状況で、縮退業務だの、在宅勤務だのといった、お気楽なことなど言ってられるだろうか。
そういうことさえ分かっていない、視野の狭いコンサルタントが、大真面目に「事業継続のためのパンデミック対策」を語り、それを日経BP社のような大手出版社が担ぎ、いかにもそれが民間企業のとるべき正しい施策であるかのように宣伝する。
そしてそれに載せられた企業関係者がセミナーに押しかけ、パンデミック対策の事業継続計画に無駄な費用と時間をついやす。
結果、儲かるのはコンサルタントと、VPN構築技術をもつネットワーク業者というわけだ。
戦争の例えがピンと来なければ、原子力発電所がメルトダウンを起こし、放射線物質が首都圏まで届くような大惨事が起こったらどうするか、考えてみればよい。
生き残った人間は、放射線を防げるシェルター(そんなものがあればの話だが)に逃げ込むしかないだろう。縮退業務だの、在宅勤務だのといった、お気楽なことをやっている余裕などないのだ。
「逃げ場がほとんどない」という点でも、パンデミックは、戦争や原子力発電所のメルトダウンとよく似ている。
「事業継続のための地上戦対策」というセミナーは、誰がどう考えてもナンセンスだろう。
「事業継続のためのメルトダウン対策」というセミナーも、誰がどう考えてもナンセンスだ。
「事業継続のためのパンデミック対策」というセミナーは、それと同じくらいナンセンスなのだ。
こんなことが分からないで、企業のリスク対策の専門家を自称しないでほしいのだけれど。
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