第4回自殺予防デー・シンポジウムに行ってきた


NPO 自殺対策支援センター ライフリンク主催の第4回「WHO世界自殺予防デー」シンポジウム(東京ビッグサイト・国際会議場)に行ってきた。
我去东京国际展示场参加日本的非营利组织《自杀对策支援中心 LifeLink》主办的第四届《WHO世界自杀预防日》研讨会。
シンポジウム第一部は自殺遺児の体験談。冷静な語り口ながら、ときどき長時間言葉につまる場面があり、実母を自殺で失って8年の年月でも癒されない複雑な感情が胸に迫ってきた。
第二部は2008/07に発刊された「自殺実態白書2008」の概要紹介。大部の白書だが、会場で販売されていたので実費600円で購入した。これから時間をかけてじっくり読んでみたい。
第三部はパネル討論。前半は、姜尚中(東京大学大学院教授)、宮台真司(首都大学東京教授)、町永俊雄(NHKアナウンサー)、清水康之(NPOライフリンク代表)の4名がマクロ的な観点からの議論。

後半は北海道の地方都市で実際に自殺対策に取り組んでいる現場担当者と、「自殺対策基本法」を議員立法で成立させた国会議員も加わって、現実的な自殺予防対策の議論。
第三部パネル討論の前半から、発言者の論点をいくつか抜粋してみる。
姜尚中:
統合失調症の例にならい、「自殺」という名称を例えば「困窮死」と言い換えてはどうか。「自殺」というと個人が自分の意思で選択した死という印象が強い。現実には生き続けたいのに、経済的・精神的に困窮して死に追い込まれるのが自殺だ。
また、「自殺実態白書」では明らかに工業地帯、企業城下町と呼ばれる地域で自殺者が多い(愛知県豊田市など)。特に製造業のリーディングカンパニーの、職場実態のリスクを解明すべき。日本のマスコミ、特に新聞は、これら大企業のプロモータと化してしまっている。

宮台真司:
1990年代にかけて個人的に身近な人間4人が自殺したこと、特に1990年代後半に教え子と読者の若者が自殺したことから、研究の方向性を変えた。「サイファ」概念がその一つの結果。たかが経済低困窮くらいで死なざるを得ない社会の薄っぺらさ、社会的包摂性の欠如が問題。自殺への経路は、郊外ニュータウンの孤独死への経路に酷似。
姜尚中:
開発主義国家である日本、韓国は、『三丁目の夕日』にあるような社会的包摂性は実は存在せず、高福祉が実は企業丸抱え体質で実現されており、グローバル化による企業の変質とともに、実は欧米より「情け容赦ない社会」であることが露呈したのではないか。生きるも死ぬも自己責任という考え方自体がおかしい。
ライフリンク清水代表:
自殺の追い込まれ方は、加速度的。最初はじわじわと追い込まれ、自殺の直前は急速に状況が悪化する。また、既存の支援策は少なくないのに、その情報が末端まで伝わらないのが問題。
宮台真司:
情報が末端まで伝わらないのも、実は社会的包摂性の欠如が原因。包摂性は、血縁、地縁、職縁(職場の人間関係)、階級縁(欧州)、宗教縁(米国)。包摂性が失われた日本では、支援策を末端まで伝達する経路が失われ、個人と行政が直接向き合う必要がある。中でも日本の企業社会の共同性イコール地域社会(水俣の事例)、企業の不調が地域社会の空洞化に直結する。
清水代表:
有効な対策は自殺への追い込まれ方のパターン化と、各パターンに対応する対策のパッケージ化。既存の社会資源でも十分対応できるはず。
姜尚中:
グローバル化後の地方振興の唯一の望みは企業誘致。各地方都市が必死で企業誘致に励み、何とか地域経済をつなぎとめてきた。しかし現在FTA締結により生産拠点の海外移転で地方経済は空洞化している。地方の産業基盤をどう内発的に育てるか。川辺川ダムの例にあるように、地方公共事業も地方経済の内発的成長を阻害し、地域共同体を破壊している。
宮台真司:
1980年代女子高生の売買春のフィールドワーク時に、地方工業都市の高自殺率と女子高生売買春の比例関係に気づいた。企業城下町は企業が撤退したときのリスクヘッジができないのでまずい。グローバル化は不可避で、企業がグローバル化に対応するのも不可避だが、経済を外需で回る部分と、内需で回る部分の両方を維持する必要がある。
過去の日本で「経済さえ回れば社会が回る」が可能だったのは、高度経済成長下で職縁が社会的包摂性の殆どをまかなっていた特殊な条件にあったから。これからは「経済さえ回れば社会が回る」とは行かない。
清水代表:
地域特性と自殺に到る経路の実態が、今回の「自殺実態白書」で初めて明らかになった。なぜここまで遅れたのか?
姜尚中:
身内から責められる遺族の例(あの人が自殺したのはあなたのせい等)にもあるように、自殺を発言できない、自殺がuntouchableになる構造があった。また、正規労働の派遣化など、労働力を代替可能化する雇用環境の変化で、労働者が使い捨てられ、労働者側に見捨てられているという意識が蔓延した。被雇用者にかかわらず、見捨てられているという意識が社会に蔓延しているのでは。
宮台真司:
個人的な経験からも、当事者が自責するのは当然なので、別の誰か、例えばライフリンクのようなNPOが声を上げる必要がある。英国は、実はネオリベ政策と同時に地域の包摂性を保全する政策を始めている。日本はネオリベ政策だけをやった。日本の地域社会の復活は困難であり、新しいタイプの相互扶助が必要。例えばCSRを指標化し、投資家向け情報とすることで企業にインセンティブを与える等。炭素税、環境税などの税制の手当ても必要。
パネル討論の後半では、主な論点は、官僚の縦割り組織をどう克服し、少子化問題同様、省庁横断的な対策の必要な自殺対策を実現するか、また、地方まで下ろしていくかだった。
宮台真司はこの問題について、官僚がイニシアティブをとることは期待できないと明言し、自動車産業におけるプロジェクトリーダ制にならい、課題を集約し、官僚に対して明快な指示を出せる位置づけの人間が必要だと提言していた。
個人的な感想として、このシンポジウムの最後に、会場から突然、自殺遺族の中年男性の方が、政策実現の場に遺族も参加させるべきだと叫ばれたが、自殺遺族の方の感情的な手当てと、戦略的な政策立案の場は、分けるべきだと考えた。
その意味で、ライフリンク・清水代表の、感情に訴えかけるコミュニケーションと、冷静な政策提言者としての顔の使い分けのバランスは、非常に優れていると感じた。