ITProのトンデモ連載「企業インスタント・メッセージのすすめ」

日経ITProに「企業インスタント・メッセージのすすめ」という珍妙な連載記事があるのでいちいち反論してみたい。下記の2つの記事だ。
IMの便利な使い方(その1)、会議中でも、在宅ワークにも
IMの便利な使い方(その2)、英語力のカバー、ちょっといいですか?
なおIMとはチャットソフトのことで、マイクロソフトやIBMが企業向けの製品を出している。
まずこの記事によれば、IMはURLやメールアドレスを正確に伝えるために「近くの同僚や電話の相手とのやりとりにも有効」とあるが、こんな理由だけで100万円以上かけてIMシステム一式を導入する企業などない。
次に「会議にも活用できる」として、会議中にオフィスの在席者に「急ぎで資料を5部コピーして会議室に持ってきてくれる?」といった依頼ができるとあるが、会議資料くらい事前に用意しよう。また、会議中に別の担当者に確認するくらいなら、その担当者を初めから召集しよう。会議の準備不足を補うためという理由で、IMシステム一式の投資は正当化できない。
「総務・管理系のプッシュ型活用例」として、提出書類を現場に督促するのにIMが効果的とあるが、直接会えないときにいちばん効果的なのは電話だ。IMのメッセージは他の電子メールに埋もれることもないとあるが、電話なら逃げようがない。やはりこんな下らない理由でIMシステム一式の投資を正当化できるとは思えない。
「プレゼンスで上司をつかまえろ!」として、IMがあれば「在席中」になった瞬間に上司に声をかけに行けるので便利とあるが、そこまで多忙な上司がIMのプレゼンスをいちいち真面目に設定するだろうか。非現実的な想定だ。IM上では「在席中」なのに、行ってみたら席にいない、となるのがオチだろう。やはりこんな理由でIMシステム一式の投資は正当化できない。
「安心して在宅ワーク」として、在宅勤務者との連絡が気兼ねなくとれるようになるとあるが、実例として「電話と電子メールさえあればテレワークはできないことはない。しかし、IMがあることでお互いの仕事がやりやすくなるのであれば導入すべきと判断した。事実そのとおりの効果があった」という企業担当者の発言が引用されている。
まず在宅勤務を幅広く許しているような大企業なら、IMシステム一式の導入投資くらい何でもない可能性が高い。この記事を読んで、本当にIMが必要かどうか見きわめたい企業が、在宅勤務など行っているだろうか。
次に「こっそり助け舟」という部分は、通信販売のコンタクトセンターで、スーパーバイザーがオペレータに指示を出すのにIMを利用するという、きわめて特殊な導入事例なので、これをもってIM投資を正当化できる企業はほとんどない。
「英語力をIMでカバー」として、英語のヒアリングに自信がなくても、IMなら海外拠点の外国人と打合せできるとある。しかし本当にIMだけで会社の会議が成り立つだろうか。一度も顔を見たことがなく、英語で話したこともないような相手と。
仮に顔を知っていて、下手な英語であいさつくらいしたことがある相手だとして、果たしてリスニング能力のない日本人が、複雑な話し合いをするにあたって、どの程度「通じる」英語を、IMで許されるスピードで書けるだろうか。
いくらIMが「書き言葉」だからといって返答するまで5分もかかったのでは、相手の外国人は時間のムダだ!となろう。「英語力をIMでカバー」というのは、一見説得力があるが、よくよく考えるとおよそ非現実的な想定と言える。
次の「電話機の周りのメモを減らす」は論外だろう。このためだけにIMを導入する企業はない。
「今ちょっといいですか?」についても、投資の正当化にならないのはもちろんだが、社員どうしなら断りもなくいきなり電話をかけるのは、日本企業では普通に行われていることだ。この記事の筆者は、電話をいきなりかけて相手を邪魔するのを好まないのが「日本のDNA」だと言い張っているが、以前の記事にも書いたとおり、この記事の筆者はアンケート調査結果の分析を間違えている。いきなりの電話を嫌がるのはむしろ、個人主義的な仕事のスタイルが定着している欧米である。
「ナイショ話が得意?」として、会議中の内緒話ができるとあるが、これも極めて限定された場面で、こんな目的のためだけにIMの導入投資を正当化はできない。
「すみませんが、少し遅れます。先に始めてください」では、携帯電話やPDAのIMクライアントの利便性を説いているが、社内LANで閉じたIMシステムに比べると、さらに投資が必要になる。外出先からIMのプレゼンスを気にして在席中の社員に連絡をとる日本人会社員などいるだろうか?いきなり電話をかけるのが当然だろう。
以上、これらの記事はすでにIMを導入している企業にとって、「そういう使い方もあるのか」という発見にはなるが、IM未導入の企業がIM導入投資を正当化するのにはまったく役に立たない。
そして、さすが筆者がマイクロソフト社員だけあって、日本企業の日本的な仕事のスタイルをまったく理解していない。こういう人たちが最前線に立ってマーケティング活動をしているから、企業にIMが普及しないのだ。
仮に普及するとしても、プライベートでSkypeやYahoo!メッセンジャーなどのIMが、もっと幅広い年齢層に普及してからだろう。ちょうど携帯電話のiモードが企業システムに取り込まれるのに、それだけの時間がかかったように。