「大企業人」と中堅企業の情報システム部

ここ数年、僕は社員数百名の中堅企業で、社内情報システム部門の責任者として働いていた。入社当初からの最大の使命は、まともに機能する情報システム部をつくることだった。というのは、それまで情報システム部自体が存在しなかったからだ。
情報システム部が10人に満たないような会社の場合、部内をはっきり役割分担しても、部全体としての生産性は向上しない。むしろ個々の部員が高度な技術力をもち、自律した技術者として、いかに現場の要求に迅速かつ的確にこたえられるかが重要だ。
ただ、僕もそうだが、大企業の情報システム部門で長く働いた経験があると、どうしても大企業の整然とした組織や業務を、そのまま中堅企業に持ちこんでしまう。
そういう中途採用者のことを、最近公開された松本人志の映画にひっかけて(別にひっかける必要は全くないのだが)「大企業人」と呼ぶことにする。僕もかつては「大企業人」だった。
ところで、大企業の情報システム部門で整然とした組織や業務が成り立つのは、全社の組織や業務があるていど整理されているからだ。中堅企業で情報システム部をはじめとする管理部門だけが、組織や業務の整理を目指しても、現業部門の組織や業務が追随しなければ効果はない。
また、組織や業務を整理すること自体にコストがかかることを忘れてはいけない。どこまで部内の組織や業務を整理するかは、あくまで費用対効果を考えた上でのことだ。
たとえば、業務システムの仕様書が整備されていないとする。追加の費用をかけて文書を整備するよりも、未整備の仕様書からシステムの機能を読みとって業務の要求を満たす方が優先順位は高い。仕様書が未整備のままでは業務システムの保守・運用などできない、というのは「大企業人」の発想だ。
また、他部署からくる情報が未整備な場合に、他部署を非難するのも「大企業人」の発想だ。中堅企業では、まず、なぜ情報が未整備なのか原因を調査し、情報システム部としてIT活用策が提案できないかを検討する方が優先順位は高い。
個人的な例では、人事部からとどく社員の入社日が、1日、16日などに統一されず、月中にばらつくため、情報システム部としてユーザ登録などが煩雑になるという問題があった。
人事業務もたった2~3人でまわしているような中堅企業では、「大企業人」的に人事部を非難しても意味がない。まず原因を調査してみたところ、ある事業部の派遣・契約社員比率が8割以上だとわかった。
人手不足の折、派遣会社に「着任を16日まで待ってほしい」などと言えば他の企業に人材をとられるし、1日でも早く入社したい契約社員の入社日を会社の都合で遅らせるなど、労働者に不利益なことを企業が強要するのは難しい。
このように、入社日がばらつくのには妥当な理由があった。その事業部で正社員を雇用しないのが経営方針である以上、IT活用策も打てない。
もちろん中期的には、費用をかけてでも全社で組織や業務の整備を進める必要がある。しかし、情報システム部門の責任者は、短期的には既存の経営資源の制約のなかで、優先順位の高い対応をとるべきだ。
中堅企業が大企業のようではないことに文句をつけるのは、部員の士気低下にもつながり、非生産的だ。
日本版SOX法対応など、組織や業務の整理に全社で取り組む場合でも、部門の責任者は、既存の経営資源の制約を前提とした短期的な意思決定と、その制約自体の変更をふくむ中期的な意思決定を使いわける必要がある。