非正社員の正社員化は本当に合理的な判断か

人手不足のため、最近、非正社員を正社員化する動きが小売業を中心に広がっているようだ。今朝の日本経済新聞を見ても、とある小売業者が正社員化したパートの意欲が高まった結果、正社員化による経費増を収益増でまかなえた、とある。
ただ、この理屈はおかしい。
非正社員を正社員化することで一人あたりの生産性が上がったのが本当だとすれば、それは、非正社員だったときと、正社員になった後を比較して、一人当たりの収益が増えているということだ。
そうすると、正社員化による収益改善は、正社員化した瞬間にしか期待できないことになる。たとえ正社員になった後も、しばらくは生産性の向上を期待できるとしても、その向上分はだんだんと減っていくことは間違いない。
生産性の向上幅がだんだんと減っても、正社員化したことによる人件費は固定費であり、もっと言えば、ふつうは少しずつ増えていくものなので、長期的には正社員化したことによる経費増の効果だけが残ることになる。
ここで経営者はこう反論するかもしれない。いや、非正社員に比べて、正社員の方が持続的に生産性が向上するので、元非正社員は正社員化した後も持続的に生産性が向上するのだ。
しかし、この理屈もおかしい。正社員が持続的に生産性を向上させることができるなら、もともと正社員だった人たちも持続的に生産性を向上させているはずだ。もともと正社員だった人たちが持続的に生産性を向上させているなら、非正社員が正社員化したからといって、会社全体として、その経費増を相殺するほど生産性が向上するはずがない。
つまり、経営者が本当に正社員の方が持続的に生産性が向上すると分かっていたのなら、非正社員をはじめから正社員として雇用していたはずではないのか。
要するに非正社員を正社員化した経営者は、非正社員を非正社員として雇用したころは、目先の経費増を避けるために行動し、非正社員を正社員化したのは、目先の人手不足に対応したということで、何ら中長期的に一貫性のある考えにもとづいて行動しているわけではない。
重要なのは、この問題が雇用に関係しているという点だ。非正社員をいったん正社員化してしまうと、日本の法制度上、そうかんたんに解雇できなくなる。要するに、正社員化というのは「もどれない道」、不可逆な変化なのだ。
日本経済新聞はこうした正社員化の流れについて、反論もしないし、上に書いたような疑義をさしはさむことさえしない。日本経済新聞を読んでいると、ほとんどの場合、経営者の具体的な判断について、その正当性を相対化するために、記事の最後の方にひとこと反論を付け加えている。
ところがこの正社員化の流れについては、そうしたコメントがないので、あたかも全面的に是認しているかのように読める。それがとても不思議だったので、この記事を書いてみた。ぜひ次のような反論を付け加えてほしいものだ。
「正社員化で収益が改善するなら、なぜもっと早く正社員化しなかったのか」、あるいは、「正社員化による効果は短期的で、長期的には人件費増の負担を強いられることになる」などの反論を。