タミフルと拉致と犯罪被害者問題の共通点

タミフル服用後の異常行動で子供を失った遺族の抗議は、果たして正しかったのか。ついに厚生労働省が10代のインフルエンザ患者にタミフルを処方しないよう指示を出した。
ご承知のように厚生労働省の研究班は、すでにタミフルと異常行動のはっきりした因果関係はないという結論を出している。
研究班に参加した一部の学者の所属する大学が、タミフルの製造元から寄付を受けていたことがスキャンダルとして報道されていた。しかし寄付金は他の製薬会社からのものとまとめて大学にプールされていたのだから、この学者が研究結果に色をつけたというのはこじつけもいいところだ。
ところがこの寄付金問題についても、異常行動で子供を失った遺族たちは強く抗議した。まるでタミフルの製造元から寄付をうけたために、学者たちが研究結果をねつ造したかのようにマスコミの前で語り、世論を見事に誘導することに成功した。その結果が、今日の厚生労働省の決定である。
冷静に考えてみよう。
何百万人という患者がタミフルを服用している。しかし、異常行動は数例しか報告されていない。ふつうに考えれば、異常行動とタミフルを結びつけるのは明らかに無理がある。専門家が言うように、異常行動はむしろインフルエンザ脳症によるものと考えるのが自然だ。
遺族のみなさんの無念は理解できる。その無念を晴らすために、タミフルという分かりやすい因果関係に飛びつきたい心情もお察しする。悪者がはっきりすれば、心はなぐさめられるからだ。
しかしそのために、今回の厚生労働省の決定によって、日本の10代の子供たちはインフルエンザにかかってもタミフルという特効薬を選べなくなってしまったのだ。
まだタミフルと異常行動の因果関係がはっきりしていないのに、というより、おそらくタミフルと異常行動には因果関係がないのに、タミフルを使えないことによって、日本の10代の子供たちは、インフルエンザによる後遺症を避ける手段を失ってしまったのである。
この問題は、北朝鮮の拉致問題や、犯罪被害者の刑事裁判への参加問題に通じるところがある。
世論が拉致被害者に感情移入し、政府に北朝鮮に強硬策をとるように圧力をかけることで、かえって拉致被害者をとりもどす前提としての国交正常化の可能性を低くしてしまっている。
同様に、裁判員が犯罪被害者に感情移入することで、冤罪のリスクが高まる。そして今回のタミフル問題では、異常行動で子供を失った遺族に、世論が感情移入することで、かえって10代の子供たちにとって、インフルエンザの危険性が高まる。
感情を押し殺し、あえて冷静で合理的な行動をとるのも、ひとつの勇気ではないだろうか。