廣松渉『今こそマルクスを読み返す』

廣松渉著『今こそマルクスを読み返す』(講談社現代新書)を読んだ。「廣松渉の著書は難解」という予断を裏切り、とてもわかりやすいマルクス思想入門書、かつ、廣松渉その人の思想の入門書になっている。
ソ連邦が崩壊したからといって、西欧思想史上、マルクスの思想を無視してよいことにはならない。むしろ『資本論』をまともに読んだことのない僕にとって、マルクスの思想の理解はまだ取り組むべき課題として残っている。(「一介のサラリーマン」がそんなことを課題にする必要があるのかは別として)
本書はソ連邦崩壊後に書かれているので、廣松渉自身、世間一般の風潮が「マルクスは死んだ」という考え方になってしまっていることを十分理解している。
それに対して廣松渉は本書の冒頭で、既存の日本語訳に見られる教条主義的なマルクス理解をしりぞけ、ソビエト連邦が崩壊した今もなお有効なマルクスの思想の本質を読み取ることが目的だと書いている。
その言葉にたがわず、本書で廣松渉はマルクスの思想のうち今もなお有効な資本主義批判を注意深く抜き出し、ていねいに説明している。また、マルクスの思想に対する誤解についても、随所でしりぞける慎重さだ。
共産党の教条主義的な解釈によって、マルクスの思想がいかに歪められてきたか、またそれによって一般人のマルクスに対する「アレルギー」がいかにひどくなってしまったか。そういった現状から、廣松渉は厳密に論理的にマルクス思想が現代にもつ射程を救い出そうとする。
本書を読めば、少なくともマルクスの思想に対する無意味なアレルギーはなくなるし、廣松渉自身、マルクスの思想(とくに資本主義後のマルクスの世界観)と意外なほど距離感をたもっていることも理解できる。
教条的でなく、かつ、妙に「ポストモダンかぶれ」していないマルクス思想入門としては、もっとも堅実な書物ではないかと考える。