『「パニック障害」と言われたら! 』(現代書林)

この間の週末、近所の市立図書館の新着図書に『「パニック障害」と言われたら! 』(現代書林)というソフトカバーの単行本が並んでいた。著者はNPO法人「全国パニック障害の会」とある。こんなNPO法人があるとは知らなかった。
「パニック障害」の患者といえば、女優の高木美保や長嶋一茂が有名だが、とくに理由もなく、突然激しい不安におそわれて、今にも死にそうな感じがするという病気だ。
「パニック障害」はPTSD(外傷性ストレス障害)などのような「こころの病気」ではなく、まったくの「からだの病気」である。脳内の神経伝達物質であるノルアドレナリンやセロトニンのバランスが崩れることが原因だと分かっている。
したがって、主にセロトニンのバランスを保つ薬を気長に服用すれば、完全に治らないにしても、日常生活に支障がない程度には回復する。その意味で、「胃痛持ち」や「糖尿の気がある人」といったたぐいの慢性病持ちの人たちと差はない。タバコをやめられないニコチン中毒の方が、まだたちが悪い。
で、この『「パニック障害」と言われたら! 』という本の面白いところは、「日本初。患者さんへのアンケートを集大成」という表紙のことばにもあるように、中身の大半が患者さんたちのアンケート結果に割かれていることだ。
「薬なしでどこまでできるか」という項目に、「各駅停車に乗る」「美容・理容院に行く」「飛行機に乗る」などがある。人によっては「飛行機は薬を飲んでも絶対にダメ」で、身内の冠婚葬祭でどうしても飛行機に乗らざるを得なくなったとき「他の理由をつけて断った」など、患者の生の声が紹介されている。「各駅停車」はOKでも「新幹線や特急列車」はダメという人もいる。
また、認知行動療法(=症状が出てしまう場面をじっさいに体験して、少しずつ慣れていく治療法)に適した場所として、井の頭公園という具体的な場所があげられているのも面白い。もっとも東京近辺の人たちに限られてしまうが。
井の頭公園で思い切ってボートに乗ってみよう、というのだ。ボートの監視員もいるし、井の頭公園の池はそれほど深くない。万が一溺れても助けてくれる人はたくさんいる。そう考えて体を少しずつ慣らしてみようということだ。
パニック障害でない人からすると、たかが手漕ぎボートに乗るくらい、美容院で髪を切るくらい、新幹線に乗るくらい何だ、と言いたくなるかもしれないが、そんなつまらないことに「死んでしまうんじゃないか」という不安を感じてしまうのがこの「からだの病気」なのだから仕方ない。
ただ、やや語弊があるかもしれないが、そういうパニック障害の症状を自分でも客観的に「なんかヘンだよね」と笑ってしまうくらいがいいのではないかという気もする。
高木美保や長嶋一茂が「カミングアウト」してくれたこともあって、パニック障害という「からだの病気」に対する認知度が高まってきている。そのためか、この本の患者さんたちのアンケート結果を読んでいると、悲壮感ただようというより、力が抜けている印象がある。
胃痛持ちの人がおそらく死ぬまで胃痛と付き合わなければいけないのと同じように、また、ニコチン中毒の人が死ぬまでタバコをやめられないのと同じように、パニック障害の患者さんも病気と共生するという感覚が、案外よいのかもしれない。