野中郁次郎ほか『失敗の本質』(中公文庫)

日本のナレッジマネジメント研究の権威、野中郁次郎が執筆に参加している『失敗の本質 日本軍の組織論的研究』(中公文庫)を恥ずかしながら今さら初めて読んだ。
言うまでもなく本書は大東亜戦争中の日本軍の失敗の原因を、6つの事例(ノモンハン事件、ミッドウェー作戦、ガダルカナル作戦、インパール作戦、レイテ海戦、沖縄戦)から分析するものだ。
注目すべきは本書刊行のきっかけとなった研究会が、昭和55年秋に始まっているという点だろう。1980年代前半といえば日本経済は絶好調、まさに「ジャパン・アズ・ナンバーワン」の時代だ。その時代にあえて日本の企業組織に残る日本軍の負の遺産を自己批判しようという点に、執筆陣の研究者としての良心が現れていると考える。
事例研究とその分析については、とにかく本書をじっくりと読んでいただきたい。ここでは僕が個人的に説得力があると考えた部分を引用するにとどめたい。
第一章の事例研究にもとづいて、第二章では大きく「戦略」と「組織」に分けて失敗の原因が分析されている。「戦略」はさらに戦略の「目的」が明確か不明確か、戦略が短期決戦志向か長期決戦志向か、戦略の策定方法が帰納的(インクリメンタル)か演繹的(グランド・デザイン)か、戦略のオプションが狭いか広いか、技術体系が一点豪華主義か標準化重視かに分類されている。
「組織」はさらに組織構造が集団主義か構造主義か、組織統合の方式が属人的統合かシステムによる統合か、組織学習の形態がシングル・ループかダブル・ループか、組織内の業績評価が同期・プロセス重視か結果重視かに分類されている。
その第二章から引用する。
「日本軍の組織構造上の特性は、『集団主義』と呼ぶことができるであろう。ここでいう『集団主義』とは(中略)、組織とメンバーとの共生を志向するために、人間と人間との間の関係(対人関係)それ自体が最も価値あるものとされるという『日本的集団主義』に立脚していると考えられるのである。そこで重視されるのは、組織目標と目標達成の合理的、体系的な形成・選択よりも、組織メンバー間の『間柄』に対する配慮である」(p.314-315)
「個人責任の不明確さは、評価をあいまいにし、評価のあいまいさは、組織学習を阻害し、論理よりも声の大きな者の突出を許容した」(p.335)
本書を読むと、日本企業の組織運営が、いまだに日本軍の負の遺産を見事に残していることがよく分かる。「愛と苦悩の日記」の賢明な読者の皆さんは、おそらくほとんどの方が既読と思われるが、もし未読の方は、自分の勤める会社組織と、本書で批判されている日本軍の組織的な側面を比較されるとよい。
おそらくほとんどの日本軍の負の側面が、読者のみなさんの会社組織にも日本人のDNAとしてしっかりと受け継がれているだろう。要するに日本はまだ近代化していないのだ。日本が近代を超克するには、まずまともな近代化を実現しなければならない、ということである。