香山リカ『多重化するリアル』

香山リカ『多重化するリアル』(ちくま文庫)を読んだ。多重人格は病気というより、共通の大きな目標(経済成長など?)をもてなくなった現代社会に、人間が適応しようとした結果ではないか、という問題提起だ。
ダニエル・キースなどの多重人格者を主人公にした小説が流行した後、多重人格は精神科医が作り出したニセの病気ではないかという意見も出たが、臨床現場では実際に多重人格(正確には解離性人格障害と呼ばれる)が増えているらしい。
最近では多重人格は病気というより、むしろ、その場その場で複数の役割をこなさなければならない現代人の特徴だという意見が主流になっている。もちろん香山リカは狭い意味での多重人格と、現代人の特徴としての多重人格的な性格を区別する。
ただ、重要なのは、こういった見方が何を生み出すのか、つまり「多重人格は現代人が環境に適応しようとした結果だ」と言ったとして、そこから何が生まれるのかだ。香山リカ自身、解離性人格障害を現代人の特徴と語ること自体、共通の「大きな物語」の再生産ではないかと自問している。
...という論旨はともかく、本書でいちばん興味深いのは文庫版のあとがきである。40代後半になった著者の「実存的」な悩みがかなり正直に吐露されている。売れっ子著述家精神科医の「弱い」一面が垣間見えるので、ぜひご一読を。