自分の会社を批判することの無意味さ

サラリーマンの社会では何が「正しいか」という問いは本質的に無意味だ。僕個人は幸か不幸か、従業員数万人規模の大企業から、数百人のベンチャーまで計7社を、社内SEの立場から眺めることができている。
社内SEというのは企業内の情報システム部門に所属するシステムエンジニア、ということだが、れっきとした社員でありながらも、いわゆる「現場」と一定の距離を保てるという意味で、内側から企業組織のフィールドワークをするのにうってつけの立場だ。
企業組織を分類する方法はいくらでもあるが、最近、個人的に興味深い分類法は「オーナー企業vs非オーナー企業」という分類である。
従業員数百人の企業は、大企業のグループ会社を除いて、社長が創業者であり、最大の株主である場合が多い。そうでなくても社長の個人としての組織に対する影響力が大きいのが特徴だ。
従業員数万人の企業では、従業員の誰もが社長は数年たてばかわるものだと当たり前のように考えているので、社長の性格や人間性が組織に与える影響は無視できる。それに対して経営者が会社の所有者(少なくとも過半の株主)でもある中堅・中小企業では、社長の人間的側面が組織全体に無視できない影響を与える。
しかも従業員から見ると、会社の所有者でもある社長は、年齢や健康問題、業績の深刻な悪化など、よほどのことがない限り交代しないことは当たり前のこととして受けとられている。その会社に在籍する限りは、良くも悪くも社長個人のキャラクターの影響から逃れることはできない。
また別の企業組織の分類法として、「官僚制的」vs「イケイケ」というのがある。ここで官僚制と言っているのは、良い意味での官僚制だ。つまり各人の責任と権限が明確で、部署間の統制がきっちりと働いている、いまはやりの「内部統制」がちゃんとできている企業組織という意味だ。
対して「イケイケ」というのは、極端に言えば、社内規則などおかまいなしに「現場」が突っ走り、社長がその先頭を切る、たとえて言えばちょうど第二次大戦中の日本のように「文民統制の利かない軍部の独走状態」、そういったタイプの企業組織だ。
「現場」がどの部署にあたるかというのは、業種によって違う。製造業なら生産現場か、製品開発の部隊が「現場」になることが多い。不動産デベロッパーなら用地買収部門が「現場」になる。接客商売なら各店舗が「現場」になるし、人材サービス業なら営業部隊が「現場」になる。
僕はここでどちらが「正しい」かという議論をするつもりはまったくない。急成長中のベンチャー企業が、社長の個性を色濃く反映した「オーナー」型で「イケイケ」の組織になるのは当然である。
逆に言えばそういった企業が内部統制を欠いており、従業員の責任と権限が不明確で(だいたい社長がすべての権限を握って、まったく権限委譲しないということが多い)、社長とともに「現場」が先走ってしまうのは不可避だ。
現実としてサラリーマン社会には「イケイケ」的側面と、良い意味での「官僚制」的な考え方のバランスをうまくとれるほど優秀な経営者は、ごくまれにしか存在しない。多くのベンチャー企業が、数十人から始まって、1000人を超える組織になっても「イケイケ」から抜け出せないのも仕方がない。
数百人規模のベンチャー企業に、内部統制と現場主義の絶妙のバランスを求めるような考え方こそ理想主義的で、単なる「ないものねだり」にすぎない。
理想的な組織で働きたいなら、自ら経営者に働きかけるか、理想的な組織を他に見つけるか、どちらかの行動をとるべきなのだ。自分は何のリスクもとらず、安全な場所でグチを垂れ流すことにはまったく意味がない。そもそもサラリーマン社会のような下らない社会が、「理想」を語るにふさわしい場か?ということだ。
自分の所属する企業が一つ倒産したからといって、日本社会全体を見れば大した影響はない。自分が働いているからこそ、この会社を理想的な会社にしたいというのは、自己愛が強すぎるというか、身のまわりのことしか見えていない視野の狭い考え方だ。
むしろ経営者が「イケイケ」を反省しない性格なら、むしろその上をいってとことん「イケイケ」式の仕事をすればよい。営利企業の中にいて、自分に権限も責任もないことについてあれこれ論評することほど無意味なことはない。そのヒマがあるなら、市民としての自分にとって重要なこと、さまざまな社会問題について頭をつかうべきなのだ。
自分の会社を批判することで、何となく自分が見識ある人物であるかのように自己満足する。これこそ日本人サラリーマンの視野の狭さで、結局、昔のムラ社会と同じで、自分が所属する共同体の範囲内でしかモノを考えられないという典型的な「症状」だ。
あなたが思うほど、あなたの所属する会社の経営者がどうだとか、社風がどうだとかいうことは重要な問題ではない。もっと重要なことは、会社という「ムラ社会」の外に山ほどあるのだ。

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