IT業界の5年後を占う(3)

※日経BP社からの依頼で執筆したものの、紙面の都合でボツになった原稿を、日経BP社の許可を得て掲載しました。
■5年後へのキャリアパス
以上のようなIT業界のトレンドの中で、われわれSEはどのようにキャリアを設計すればいいのか。SEのキャリアパスは次の4つに絞られてきたと考えていいだろう。つまり「脱SE指向」「全体設計指向」「業務業界指向」「求道的職人指向」だ。
◆脱SE・起業家指向
このキャリアパスは文字どおりSE経験を起業のための手段と考えるキャリア設計だ。最終的に自ら起業するための人脈づくりや、技術・業界動向を知るために業界に身をおくという考え方だ。
このキャリアパスを選択する場合、もっとも注意すべきは上述のWeb2.0のような事大主義に踊らされないことだ。これだけ寡占化が進むIT業界で起業するなら、ミクシィのように欧米の新事業モデルをいち早く日本に導入して短期的な先行者利益をねらうか、特定の業務・業界の経験をベースにしてユニークな事業モデルを発案するか、フリーランスでやっていける高度な技術力を身につけるかのいずれかだろう。
ただ、この起業家指向のパスでわざと7合目で立ち止まれば、組織内の管理職やプロジェクトマネージャとしてのキャリアパスになる。技術力ではなくマネジメント能力で生きていくSEの道だ。しかし漫然とSEをやっていると、SE不足ということもあり、いつの間にか管理職に昇格し、技術力に見合わない責任を負わされる落とし穴もある。7合目を目指すにしても自覚的に技術力とマネジメントスキルを磨くべきだ。
◆全体設計指向
この全体設計指向のキャリアパスのゴールは、職種名では「ITアーキテクト」にあたる。今後SOA(サービス指向アーキテクチャ)によってシステム設計の分散度が高まるため、複数の技術を組み合わせてシステム全体を矛盾なく構想する全体設計者がますます重要になる。
複数の技術を無矛盾に統合するには、要素技術全般について広く深い見識が必要になるため、さまざまな技術にふれられるキャリアパスを意識的に選ぶ必要がでてくる。メインフレーム開発しかやったことがない、Webサイト構築しかやったことがないというのでは全体設計指向のキャリアパスにならない。そのためには多様なシステム構築を手がける大手システム構築業者に入社するか、戦略的に複数の会社を転職するシナリオが必要になる。
◆業務・業界指向
このキャリアパスは特定の業務(経理・人事など)や業界(製造・金融など)に特化した専門知識を徹底して習得する道すじだ。ゴール地点の職種名でいえば「業務系ITコンサルタント」となるだろう。経理なら簿記だけでなく税理士の科目合格、人事なら社労士資格を目指すのもよい。業界の専門知識については単なる教科書的知識ではダメで、その業界での実務経験が必須だ。
深い考えもなくある業界に入ってしまったという人にも、この業務・業界指向のキャリアパスなら十分にチャンスがある。その業界の中で少なくとも3年は業務知識を貪欲に学び、システム構築業者に転職するという道すじがとれる。
◆求道的職人指向
4つめのキャリアパスは、通信、データベース、言語処理、画像処理など、ITの要素技術を徹底的に深堀りする専門家としての道だ。最初は理系大学院や企業の研究室で学術的研究の基礎を固める。専門性を高めるには研究予算がついて、一定の設備投資ができることが条件になるため、ふつうに民間企業に就職してプライベートな時間でこのキャリアパスを選ぶことは考えない方がよい。
また、特定の開発言語・開発環境についての専門知識は技術の変遷とともに必ず陳腐化するため、この求道的職人指向のパスには乗れない。開発スキルを生かして個人で起業する起業家指向ならまだ可能性はある。
SEとしてのキャリアパスは以上の4つにしぼられるが、最後に一つ注意しておきたいことがある。それは、どのキャリアパスが自分に最適かという「自分探し」に時間を浪費しないことだ。「自分がどんな人間か」という問いは、問いが新たな問いを生み、それが無限に続くので答えが出ない。このことは哲学者や数学者がすでに証明済みだ。個性重視のゆとり教育をうけてきた今の20代~30代前半世代は「自分探し」の泥沼にはまる危険性が高いので、十分に注意したい。
5年後のIT業界の見通しは明るい。一人のSEとして見ると悲観的な材料はほとんどない。しかしIT業界は「から騒ぎ」に踊らされやすい業界でもある。したがって5年後の自分のポジションを確実なものにするには、社会全体を冷静にながめること、「自分探し」に時間を浪費せず一つのキャリアパスに早めにコミットすること、その上で今やるべきことを着実にやること、この王道しかない。