IT業界の5年後を占う(1)

※日経BP社からの依頼で執筆したものの、紙面の都合でボツになった原稿を、日経BP社の許可を得て掲載しました。
■IT業界をとりまく環境の「ゆりもどし」
◆グローバル化から「美しい国」へ
IT業界の5年後を予想する前に社会・経済環境をおさえておこう。社会・経済環境には二つの「ゆりもどし」状況が見られる。まずは「グローバル化からのゆりもどし」だ。
これまで日本企業は業務標準化で欧米型モデルをお手本にしてきた。ERP(基幹業務パッケージ)の導入とBPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)をセットにするのがその典型だ。しかし景気回復で欧米標準を無条件に是とする考え方から、自社の独自性を追求する考え方にシフトしつつある。
ERP研究推進フォーラムの2006『ERP市場の最新動向』によれば、相変わらずERP導入への関心は強く、導入済み企業と利用範囲の拡大を検討している企業をあわせると、2005年比5.3ポイント増となっている。しかしERP製品が「自社業務に合わない」と回答する企業が急増しており、ERP自体の仕様に大きな変化がないことからすると、むしろ「カスタマイズは無条件に悪」という考え方が急速に弱まっている証拠だ。このことは2004年のノークリサーチの調査にあるように、中堅・中小企業向けERP市場で、外資系ベンダーが日本の商習慣への対応が不十分で苦戦を強いられていることに端的にあらわれている。今後、各企業は自社の強みを活かす「良い」カスタマイズを積極化するだろう。
◆製造業の国内設備投資の復活
また、製造業は1990年代に国内を上回る海外設備投資を行ってきたが、2002年から海外とともに国内の設備投資も復活している(日本政策投資銀行「今月のトピックス」No.079, 2005年1月27日)。国内顧客の納期・品質・保守サービス要求の高まりが背景にある。
海外への設備投資と同時に、国内の生産設備投資も復活することで、今後数年間は製造業の設備投資にかかわる国内IT需要が期待できる。MES(生産実行システム)やSCM(サプライチェーン管理)システム、新規工場建設にともなうIT関連機器や間接部門向けシステムの需要も堅調に推移するだろう。
◆小さな政府から経済成長重視へ
国内政治に目を転じると、もう一つの「ゆりもどし」として「小さな政府からのゆりもどし」がある。先日誕生した安部新内閣は「小さな政府」路線を微修正し、経済成長重視の考え方を明確に打ち出した。具体的にIT、バイオ分野の政策減税と、地方活性化のためのメリハリある公共投資をうたっている。IT分野の政策減税は各企業のシステム化投資を活発にし、地方への公共投資の回復は、ある程度まで地方のIT関連需要の伸びをもたらす。
◆サービス業の堅調なIT投資
個別の業界を見るとこれまでは製造業のIT投資がIT業界の流れを左右していたが、今後は金融をふくむサービス業が重要になる。2006年9月の『日経コンピュータ』誌調査によれば、2007年度のIT投資計画が、製造業全般で対前年比3.1%減となっているのに対し、非製造業全般では15.2%増となっている。中でも金融業が26.2%増、商社・アパレルが15.0%増と突出している。
いまの好景気を下支えしているのは堅調な個人消費であり、インターネット上のショッピングやオークション、株取引など、B2C(最終消費者向けの電子商取引)がきわだって元気だ。
また、サービス・流通業は製造業より地域性が強い。中核業務のプロセスは国内で完結するし、何より日本語の壁や、日本人特有のきめこまかい対人サービスが求められる点で海外企業が参入しづらい。カルフールは2000年の日本上陸からわずか4年余りで全店舗をイオンに売却して撤退、ウォルマートも傘下の西友は苦戦を続けているのがその典型例だ。国内IT業界にとっては好材料となる。
◆2007年問題とSE職の労働環境改善
IT業界の労働市場は労働者側にとって見通しが明るい。団塊世代の大量退職をむかえる2007年問題は、若手・中堅SEにとってキャリアップのチャンスとなる。歴史の長い企業は定年退職したベテランSEの再雇用で、旧資産のノウハウを伝承しようと苦心しているが、再雇用の延長にも限界がくるだろう。
また「SEはキツい」というイメージがSE職の不人気、ひいては慢性的なSE不足につながった。毎日コミュニケーションズが2006年3月23日に発表した「2006年度 大学生の就職意識調査」によれば、情報システム部門を希望する学生の割合はたった4.1%で、2001年に比べると1.2ポイントも減っている。
その反省から、各企業で労働環境改善の動きがある。日本経済新聞2006年9月25日朝刊一面「雇用最前線」によれば、情報処理や介護・医療などの専門職の職種別求人倍率は3~5倍もの高倍率だという。圧倒的な売り手市場で、今後5年間はSEにとって戦略的な転職のチャンスだ。