北朝鮮外交についての宮台真司の「予言」

2003/11に出版された姜尚中(カン・サンジュン)と宮台真司の対談集『挑発する知』(双風舎)を読んでいるのだが、北朝鮮の核実験について宮台真司の鋭い指摘があったので、引用しておく。
「2002年10月に政府が拉致被害者五人の強制帰国を決め、北朝鮮との約束を破ったときに、私はすぐにラジオで『北朝鮮は今後、日本を外交交渉の相手として認めず、アメリカを相手にして核カードを切るだろう』と予測したら、そのようになった。(中略)五人の拉致を認めるということは、あとのないカードを北朝鮮が切ったとみることができるからです。
 究極のカードを切った北朝鮮の意図は、簡単です。(米国との)休戦協定を平和条約や不可侵条約に変えることも含めて北朝鮮を助けてくれないか。アメリカの愛人である日本からアメリカに口を利いてくれないか。そういうシグナルをだしてきたわけです。
 ここで日本が口を利けば、戦後始めて日本が外交でイニシアティブを執ることができたでしょう。これほど国益に資することはないと思ったのですが、拉致被害者の北朝鮮への帰国を拒否したことにより、そのチャンスは一瞬にしてつぶれてしまいました」(p.52)
 僕自身、日本のマスコミがあまりに一般人の感情面に訴えて、拉致被害者の奪還をあおりすぎることに疑問を抱いていたのだが、なるほどそういうことだったのかと宮台氏の議論に納得した。
 北朝鮮は核実験を強行し、まさに宮台真司の予言したとおりの展開になってしまっている。そしていま北朝鮮外交のイニシアティブを握っているのは、中国である。この部分の少し後で、北朝鮮の脅威をあおる読売・産経系メディアについて、宮台氏はその矛盾をついている。
 彼らは、一方では、北朝鮮の核の脅威に対抗するにはアメリカに追従する必要があると言いながら、他方では、北朝鮮の核の脅威など恐れるに足らず!徹底して強硬姿勢を貫いて拉致被害者の全員奪回をめざせ!と言う。
 安倍晋三の外交姿勢もまったく同じで、北朝鮮の核の脅威について、一方ではそれを意図的に「あおる」ことで、アメリカ追従外交の口実に利用し、他方ではそれを意図的に「なめる」ことで、対北朝鮮の強行姿勢の口実に利用する。
 もちろん安倍晋三自身は完全に矛盾していることを承知で、拉致被害者に対する同情心をうまく利用して国民を巻き込みながら、北朝鮮外交をおしすすめているわけだが、その目的はおそらく一つしかなく、自衛隊を正規軍にして軍備増強を図るという、宮台氏の言う米国のネオコン式のマッチポンプ(自分でマッチの火をつけておきながら、自分でポンプで消すこと)なのだろう。北朝鮮の脅威を自分であおっておいて、それを利用して軍備増強へ世論を誘導する。その循環がすこしずつ世論を軍備増強の方向へ動員していく。
 そういうわけで安倍晋三が小泉首相の正統な後継者であることは確かだが、注意したいのは、「安倍晋三の外交姿勢に反対!」という主張と、「拉致被害者を還せ!」という主張は両立しないということだ。
 小泉首相時代に敷かれた現在の北朝鮮外交を軌道修正するには、残念ながらもはや日本は、逆説的ではあるが、米国べったりの姿勢を貫くことで、中国のイニシアティブを際立たせるしか手がなくなっている。
 宮台氏の言うように、拉致被害者5人を北朝鮮へ帰国させなかった時点で、日本にはアメリカ追従の道しかなくなってしまったのだ。これは真の右翼からすれば国辱ものの外交上の失策である。