高橋源一郎『性交と恋愛にまつわるいくつかの物語』

高橋源一郎の『性交と恋愛にまつわるいくつかの物語』(朝日新聞社)を読んだ。愛読者の期待を裏切らず、高橋源一郎にしか書けない、短編小説集、というより、「現代詩」集だ。
ぎりぎりまで切り詰められた、一見暴力的なまでに乾いた文体から、おさえがたくにじみ出る高橋源一郎ならではの叙情を、この短編集でも心ゆくまで堪能できる。なんでもない単語が、絶妙の空間をへだてて互いに響きあう。その余白・空間のコントロールの仕方が、高橋源一郎の職人芸だ。
最初に収録されている、絶望的なまでにモテない男女が、最終的にアダルトビデオの撮影現場で出会う物語は、まったく恋愛と無縁な人間がいかにして恋愛というものと遭遇を果たすか、恋愛が成立する極限の地点を描いて奇跡的だ。
世の中にあふれている恋愛小説は、少なくともどちらかが美男、美女であるか、人並みの容姿であることが暗黙の前提になっている。高橋源一郎はそういった暗黙の約束事にひそむ、恋愛小説の固定観念を自由に飛びこえる。そして、絶望的にモテない男女を主人公にして、恋愛小説を成立させるという、離れわざを読ませてくれる。
出版から一年半も遅れて手にとったのは、高橋源一郎ファンとしては不覚だったが、さすがとうならせる短編集だった。