伊坂幸太郎『ラッシュライフ』

伊坂幸太郎『ラッシュライフ』(新潮文庫)を読んだ。物語の構成が奇跡的なほどよく出来た小説だ、という感想を持ったのは、僕がミステリーを読まないせいかもしれない。ミステリーを読みなれている読者であれば、この小説に「構成の妙」以外の素晴らしさを真っ先に見出すのかもしれないが、僕にとっては第一に物語の構成が信じられないくらいよくできた小説だ。

5つの物語が、それぞれの物語の主人公がそれと気付くことなく、接点を持ちながら並行して語られるのだが、それぞれの物語が同じ日時のことを語っているのではなく、実は時間に前後関係があり、それが最後の方になってだんだんと分かってくる、しかも、物語どうしの入り組み方を暗示するように、エッシャーのだまし絵がモチーフとして使われているとう、とにかくこれ以上凝りようがないほど、凝りに凝った物語構成をもっている。この物語構成の巧みさを楽しむためだけでも十二分に読む価値のある小説だ。
次に気付いたのは、死体をのこぎりでバラバラにしたり、殺人を企図する連中がいたり、若者が失業者を殴りつけたり、暴力的な場面が決して少なくないにもかかわらず、強い倫理観に裏付けられた作品だという点である。それは最後の最後をお読み頂ければわかる。「人間にとって本当に大切なものは何か」という問いに対して、伊坂幸太郎は愚直なほど前向きな答えを提示している。
そのせいで、決して幸福とはいえない登場人物たち、というよりむしろ、不幸のどん底と言ってもいい登場人物たちばかりであるにもかかわらず、読後感は爽快だ。
夏の新潮文庫の100冊キャンペーンで、かわいいパンダのマスコットがもれなくもらえるというので、どれを読もうかと選んだ2冊が、スティーブンソンの『ジーキル博士とハイド氏』と『ラッシュライフ』だった。『ジーキル博士とハイド氏』も古典ながらミステリー的な展開をもった物語だが、『ラッシュライフ』は思わぬ拾い物だった。

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  1. 本を読む女。改訂版

    「ラッシュライフ」伊坂幸太郎

    ラッシュライフ発売元: 新潮社価格: ¥ 660発売日: 2005/04売上ランキング: 4,534おすすめ度 posted with Socialtunes at 2006/01/19
    伊坂氏の本の中でも格別評判がよかったので
    楽しみに読みましたが、本当に面白かった。
    様々な人々が犯罪に関わっていきます。
    泥棒の黒澤は順調に空き巣を繰り返し、
    リストラされた男は小汚い柴犬と、そして何故か銃を手に入れてしまい、
    カウンセラーの京子は愛人の妻を殺そうと画策し、
    新興宗…

  2. *モナミ*

    『ラッシュライフ』 伊坂幸太郎

    ぐるぐる回る回る絡まる絡まる。
    時間軸が、読んでる通りじゃないのか!
    と気づいたのは、すでに終わりに近づいた頃(笑)。
    息の切れそうなスピード感で進められる、
    5つのエピソードが、表紙のエッシャーの絵の通り、
    ぐるっと回ってる。
    全部繋がってる。
    終わりが振りだしで、始まりが…