現実的なITシェアードサービスの作り方

今日はシェアードサービスについてのお話。ひとくちにシェアードサービスといっても、人事・総務・経理業務なども関係するが、ここでは情報システムの保守・運用についてのシェアードサービスに話を限定する。シェアードサービスというのはご承知のとおり、複数の子会社をもつ大企業が、グループ企業各社の間接部門を1つにまとめ、場合によっては別会社にすることで、グループ全体としての経営効率を高めることをいう。
情報システム部門の場合、グループ各社のそれぞれが各社の情報システムを管理するために個別に人員をかかえていたのを、企業グループ全体で一つの組織に統合し、業務を集中化する。それによってグループ全体としてみたときに、重複していたIT費用を削減することができる。
同時に、情報システムに関する企業グループ内の資源(ハードウェア、ソフトウェア)やノウハウを集約することで、情報システムの標準化を実現でき、情報セキュリティのレベルを同じレベルに高めることも期待できる。
また、情報システム部門を集約することで、これまで社内の管理部門だった人員が、グループ各社にサービスを提供する立場に変わる。それによって、より良いサービスを提供しようという「サービス・マインド」(何だかこういう話について書くとヘンな英語ばかりになってしまう)が産まれることが期待される。
以上が、情報システムのシェアードサービスに関する理想論だが、実際のシェアードサービスはこんなに美しいものではない。
僕はふつうの会社員より転職回数が多い分、某大手コンピュータメーカに情報システム部門のシェアードサービス化を委託している企業を、2社も経験することができた。1社は大手自動車メーカ、もう1社は大手不動産デベロッパーだ。
自動車メーカではグループ会社をとりまとめる親会社の情報システム部門の社内SEとして、そして、不動産デベロッパーではとりまとめられる側の100%子会社の情報システム部門の責任者として働いていた。シェアードサービスを提供する側と受ける側の両方を経験させてもらっているというわけだ。
企業規模を社員数でいうと、自動車メーカはグループ全体で3万人以上、不動産デベロッパーはシェアードサービスの範囲内のグループ各社合計で2000人前後と思われる。これだけ企業規模が違うと、当然のことながら某大手コンピュータメーカが構築しているシェアードサービスの仕組み(かっこよく言うと「スキーム」となる)も異なっていた。
そもそも自動車メーカの方は、シェアードサービス化する以前に、情報システムの保守・運用を担当する100%IT子会社が存在した。そのIT子会社にネットワークから業務システムまで、保守・運用のノウハウが蓄積されていたので、某大手コンピュータメーカはこの子会社に出資することで、シェアードサービス提供会社として生まれ変わらせるという方法をとっていた。最終的にこの会社は自動車メーカは完全に某コンピュータメーカの100%子会社になった。
一方、大手不動産デベロッパーの方は親会社の情報システム部門のうち数人が某大手コンピュータメーカからの出向者といっしょになって、シェアードサービスを提供するための別会社を立ち上げていた。別会社の主要メンバーは某大手コンピュータメーカからの出向者で、親会社からの出向者はどちらかといえば脇役だ。
不動産デベロッパーのシェアードサービス提供会社には、自動車メーカの元100%IT子会社と違って、そもそもグループ各社の情報システムに関する知識がまったくないので、分社化された後もネットワークと情報共有基盤の運用にサービスを特化していた。対して自動車メーカのシェアードサービス提供会社はネットワークなどの情報基盤だけでなく、業務アプリケーションの保守運用も継続してサービスメニューとして提供していた。
グループとして社員数が2~3千人以下の場合、シェアードサービス提供会社の人員がグループ各社の業務システムの内容まで把握するというのは、超人的に有能な業務SEでもいない限り不可能である。したがって情報基盤に関するサービスに特化するというのは、一定のサービス水準を維持するには妥当な方針だ。その意味でこの大手不動産デベロッパーのシェアードサービスの仕組みは合理的だと言える。
他方の自動車メーカのシェアードサービス提供会社についても、もともと各社の業務システムの保守・運用ノウハウを有していた100%IT子会社が母体になっているので、このIT子会社そのものが数百名規模をほこっていたことからして、グループ各社の業務システムの保守・運用までをサービス内容に含めるというのは妥当である。
しかし、グループとして社員数が2~3千人以下であり、もともとグループ各社の業務システムノウハウが集約されているようなIT子会社もなく、シェアードサービス提供会社の人員数も数十人という規模といった状態なのに、各社の業務システムの保守・運用までサービスに含めるというシェアードサービスのスキームには無理がある。現実的なマネジメント感覚をもっている管理職なら、このようなスキームに明らかに無理があることは容易に判断できる。
しかし、そういった明らかに非合理的なことがたびたび起こってしまうのが、現実のサラリーマン社会というものなのである。現実のサラリーマン社会で人の合理的な判断を歪める要素になるのは、過剰な期待、過剰な自信、過剰な自尊心などだろうか。
完璧な人間は一人もいない、それが単なる一介のサラリーマンならなおさらである、と言ってしまえばそれまでなのだが、そのような誤りに対するチェック機構が働くかどうかが、失敗を避けられるかどうかの分かれ目であるような気がする。