やずや『雪待ちにんにく卵黄物語』コメンタリー(1)

やずやという会社の「雪待にんにく卵黄」のテレビCMに一貫したストーリーがあることをご存知の方もいらっしゃると思う。時代錯誤のお下げ髪で無口な女の子が登場する、あのCMだ。
やずやのWebサイトの下記のページから、現在までに放送されたCM全話を観ることができる。
http://www.yazuya.com/osirase/gekijyo/1.html
舞台は青森県田子町の農村。「第一話 収穫編」はみんみん蝉が鳴いており、主人公の女の子、ユウキが体操着で学校へ向かう途中に、にんにく畑で収穫に励むおじいさんに朝ごはんを届けている。おそらく二学期が始まったばかりの初秋だろう。後で分かるが、このときユウキは小学6年生である。
「第二話 泥洗い編」ではおじいさんとユウキが、収穫したにんにくを川で洗っている。なお、このCMシリーズにはユウキの両親は登場しない。おそらくもう農業を専業としていないか、まったく農業をやめて勤め人をしていると思われる。
第二話は日が高い昼間の場面なので、土曜日か日曜日なのだろう。ユウキは第一話と同じ体操着でおじいさんのにんにく洗いを手伝っている。まだ小学生だし、農作業で汚れるのだから、学校のない日も、ユウキの普段着は体操着なのだ。
「第三話 夕食編」は心優しいユウキが、収穫したにんにくの茎を切る作業をつづけるおじいさんの夕食に、にんにくを準備してあげる場面。さて、夕食の場面にさえ両親が登場しないとなると、にんにくの収穫後の農閑期には、ユウキの両親は都会へ出稼ぎに行っているのかもしれない。
「第四話 駅舎編」では、中学生になったユウキが制服で登場する。通学途中の駅で、にんにくを焼くおばさんを見かけ、おじいさんのことを思い出す冬の場面だ。やずやのWebサイトの解説では、中学生になっておじいさんのもとを離れ、親戚の家で暮らし始めた、とある。
過疎化の進んだ山間部の中学校は廃校になってしまったのか、あるいは、とても真面目そうなユウキのことなので、勉強がよくできて、町の偏差値の高い中学校に通わせてやろうという親心から、家を離れたのだろう。
「第五話 小包編」では、親戚の家で暮らすユウキのもとに、おじいさんから小包が届く。それを知らせる親戚のおばさんのせりふ、「小包が届いてますよ」という他人行儀な言葉が、ユウキと親戚一家の微妙な距離を感じさせる。
小包にはにんにくが一杯に詰め込まれ、「からだに気をつけてください」というおじいさんからの手紙が入っている。こちらの書き言葉は、いかにも手紙を書き慣れないおじいさんが、かわいい孫のために書いた精一杯の手紙という感じがよく出ている。
しかし、この箱一杯のにんにくが、第六話でちょとした波乱を生むことになる。
「第六話 丸揚編」では、ユウキがおじいさんから贈られたにんにくを、いつもお世話になっている親戚の家族のために、夕食のおかずとして丸揚げにする。
親戚のおばさんはユウキを気づかって、自分の息子に「これもお食べなさい」とにんにくの丸揚げをすすめるが、「やだよ。クサいから」とすげない返事。となりでその妹も鼻で笑って、兄に無言で同意する。
「せっかくユウキちゃんが作ってくれたのにね」と親戚のおばさんは残念そうだが、次のカットでアップになるユウキは、悲しげな眉をしながら、唇を一文字に結んで、ただ微笑んでいる。いいえ、いいんです、と言いたげだ。
その頃、夕食をとるおじいさんは、ユウキがよく夕食に作ってくれていたのと同じ、にんにくの醤油煮を一人で食べているのだった。
「第七話 帰郷編」では、風鈴の鳴る晩夏の親戚の家の夕食の席。親戚のおばさんが心配そうな顔で、「帰るって、ユウキちゃん。学校どうするの」とユウキに問いかける。ユウキは黙ったまま。親戚のおじさんが「いいじゃないか」とユウキを気づかう。
このやずやのCM、CMということで時間が短いせいもあるのだろうが、小津安二郎作品の野田高梧の脚本を思い出すのは、僕だけではないだろう。簡潔な台詞と、役者の一本調子な台詞の言い方も、小津作品を思い出させる。単に役者が素人なせいかもしれないが。
さて、とうとうユウキは、おじいさんの家にバスで帰ってしまう。頃はちょうどにんにくの収穫期。だが、ナレーションははっきりとにんにくの収穫期は初夏だと語っている。第一話でみんみん蝉が鳴いていたのとつじつまが合わなくなるが、初夏から晩夏にかけてにんにくは収穫されると理解すればいいのだろう。
初夏ということは、ユウキは町の中学校をやめたわけではなく、夏休み中の登校日や、休み中に開講される補習には出ずに、家に帰ったということだと思われる。
「長い冬を、雪の下で耐えたにんにくは、たくましく育ちます」というナレーションが、決してにんにくのことだけを語っているのではないことは明白だ。初めて親元を離れて、長い冬を過ごしたユウキもまた、たくましく育ったに違いない。
ちなみに、僕がテレビを見ていて、このCMに一貫したストーリーがあると気づいたのは、この第七話である。