『新造人間キャシャーン』第21話の秀逸な演出

『交響詩篇エウレカセブン』では地球の重力圏内での空中戦がほとんどのため、登場人物がスカイダイビングをして、戦闘ロボットの操縦席に飛び込む場面がいくつかある。第2話で、主人公の少年レントンが、少女エウレカのいる戦闘ロボット「ニルヴァーシュ」の操縦席にダイビングして飛び込み、エウレカを抱きしめる場面が、その後の二人の物語のすべての端緒になっている。
そして今日、USENのブロードバンド放送Gyaoで『新造人間キャシャーン』を観ていたら、30年前のこのテレビアニメ作品にも、同じような素晴らしい場面を見つけた。
『新造人間キャシャーン』第21話「ロボット・ハイジャック」。アンドロイドの悪の軍団の攻撃で廃墟となった街から、キャシャーンと上月ルナ(女性キャラクター)は生き残った人々を飛行機で安全な土地へ逃げさせる。その中に瀕死の牧師がいたため、ルナはその牧師に付き添って飛行機に同乗することにし、キャシャーンはエネルギーを回復するために廃墟の街にロボット犬フレンダーと残る。
ところがルナの乗った飛行機はアンドロイド軍団にハイジャックされ、途中の空港に強制着陸させられる。軍団はルナが乗っていることを知ると、キャシャーンの居場所を教えなければ、乗客全員を爆弾で殺害すると脅迫する。
乗客たちは命惜しさに、キャシャーンの居場所を教えるようルナに迫る。しかしエネルギーのないところを襲われれば、キャシャーンの命も危ない。あなた方が助かったのはキャシャーンのおかげではないのかと、ルナは乗客たちに訴えるが、その訴えも虚しい。
多くの乗客の命と、キャシャーンの命のどちらを選ぶのか。その葛藤が、ルナと乗客たちの緊迫した表情の切りかえしで、無音のまま描かれる。無音のまま人物の表情のクローズアップが何度も切りかえしになるシーケンスは、おそらく他の話にはない心理描写ではないか。そこに赤ん坊の泣き声が響き、ルナはついにキャシャーンを裏切って、アンドロイド軍団にその居場所を教えるのだった。
廃墟となった街の、無人の遊園地で体を休めていたキャシャーン。キャシャーンが寝そべっているジェットコースターがゆっくりと動き出す。その動き出す瞬間が、コースターを牽引する滑車のクローズアップで描かれる点も秀逸だ。
アンドロイドの奇襲を何とか切り抜けたキャシャーンは、生き残りのアンドロイドから、ルナが自分を裏切ったことを聞かされる。その言葉を信じられないキャシャーンは、飛行機に変身したロボット犬フレンダーに乗ってルナのいる空港に飛ぶ。
そのころルナは自分の裏切りを悔やみ、自分の命を引き換えにしてもキャシャーンを救って下さいと、静かに神に祈っていた。ところがルナは、空港に降り立ったキャシャーンを銃で殺すよう、アンドロイド軍団に脅迫される。さもなくば飛行機の乗客を全員殺すというのだ。
一歩また一歩と近づいてくるキャシャーンに、ルナは銃口を向ける。キャシャーンの足音だけが響く切りかえしショットで、否応なしに観る者の緊迫感を高める。ルナの心の中の声、「キャシャーン、お願いだから来ないで」。
その叫びが実際の声となってルナの口から発せられたとき、ルナは引き金を引く。しかしその瞬間キャシャーンは身をひるがえし、飛行機の下に仕掛けられた爆弾型ロボットを破壊する。そして次々とアンドロイドたちを倒し、部隊を全滅させる。
再びキャシャーンによって救われた乗客たちは、元の目的地へ飛び立とうと、別の旅客機に乗り込んでいる。キャシャーンはルナの肩に手をかけるが、ルナは意外にも背を向けて、ひとこと「さようなら」とつぶやく。
突然の決別にキャシャーンは驚くが、ルナは涙ながらに言う。
「私の心の中にはキャシャーンだけしかいない。そのあなたを裏切ったあたしを、あたしは許せないのよ。あたしがいればきっとまた、足手まといになるわ」
とても美しい台詞である。
「そんなことはない。ルナ、おれだって君を一瞬うたがった。おれだってそんな自分がゆるせない。でも君といっしょにいたい。おれは君といっしょに戦いたいんだ。ルナ!」
これが愛の告白でなくて何だろうか。しかし、ルナは自責の念を抱えたまま旅客機に乗り込み、キャシャーンの前から飛び立ってしまう。
旅客機の中、体調を回復した牧師は、窓の外に飛行機型のフレンダーに乗るキャシャーンの姿を認め、となりに座っていたルナに語りかける。
「ルナ、私はもう大丈夫だ。さあ行きなさい。キャシャーンのところへ。今行かなければ、一生会えないかもしれないんだ」
ルナはキャシャーンの姿に驚いてつぶやく。「一生...」
「さあ、ルナ!」牧師の言葉に促されて、ルナは駆け出し、客室を出ると、非常用ハッチを開く。眼下に飛行機型のフレンダーに乗るキャシャーンの姿が小さく見える。その瞬間。ルナはハッチから大空に向かってジャンプする。
無音。
ルナの体はスローモーションで回転しながら、キャシャーンのもとへと落ちていく。そこにナレーションがかぶさり、飛び去る旅客機を背景に、キャシャーンがルナを抱きとめる直前のストップモーションで、第21話は終わる。非常に印象的なラストカットである。
今Gyaoで公開されている第20話、第26話などと比較すると、演出の水準が明らかに違う。この第21話の演出は鳥肌が立つほど秀逸なのだ。それもそのはず。この第21話の演出は、富野喜幸、そう、『機動戦士ガンダム』の総監督・富野由悠季の旧名である。