梅田望夫著『ウェブ進化論』の完全に間違った組織論

梅田望夫著『ウェブ進化論』批判を愚直につづけたい。今日は第二章の「5 グーグルの組織マネジメント」における梅田氏の「はてな」自画自賛と、その組織論の基本的な誤りを取り上げる。
p.78で梅田望夫氏は自ら取締役をつとめる「はてな」というインターネットベンチャー企業の仕事のスタイルを自画自賛している。なるほど取締役にとってPR活動は重要かもしれないが、組織マネジメントについての基本的な誤りを犯すべきではなかった。
はてなというネット・ベンチャーでは「社員全員が、戦略の議論、新サービスのアイデアから、日常の相談事や業務報告に至るまで、ほぼすべての情報を社内の誰もが読めるブログに書き込む形で公開し、瞬時に社員全員で共有する。」(p.79)
「しばらくして私は、この仕事のスタイルは『組織と情報』に関するコペルニクス的転回なのだと気づいた。私たちが慣れ親しんできた『組織の仕事』では、組織内の情報は隠蔽されているのが基本だ。」(p.79)「だから、貴重な情報を握ってコントロールすることが組織を生き抜く原則となる。」(p.80)
しかし、はてなの仕事のスタイルは、残念ながら「組織と情報」に関するコペルニクス的転回でも何でもない。小さな組織が全員で情報共有するのは当たり前だ。そして組織が大きくなるにつれて、組織内で機能分化が進み、機能別に部署ができ、部署間では必要最小限の情報だけが共有化される。
それは別に情報を隠蔽したいわけでも何でもなく、部署間の意思疎通にかかるコストを最小限にして、もっとも効率よく成果を生み出すための合理的な組織設計というだけの話だ。このような組織を「官僚制」と言う。
貴重な情報を握ってコントロールすることが組織を生き抜く原則だとは、うがった見方にもほどがある。部署間で必要最小限の情報だけを交換することで、効率的に運用されている大きな組織の中では、地位が上がっていくことで、結果として貴重な情報を握らされる。それだけのことではないか。
そうではなく「貴重な情報」という言葉が「組織の運営に必要な情報」を意味するなら、そのような情報を握ったまま隠蔽する従業員は、梅田氏の議論とはまったく逆で、組織にとって実に困った人物なのである。だから一般の会社組織では、あれほどうるさく「ほう・れん・そう」を言い続けるのではないのか。
すべての組織設計の基本が官僚制であることは、『ウェブ進化論』と同じくちくま新書から公刊されている沼上幹著『組織戦略の考え方―企業経営の健全性のために』の第一章だけをお読み頂ければすぐに分かる。梅田望夫氏にとっては必読書である。
余談になるが、ベンチャー企業出身者で、大組織に大した理由もなく嫌悪感をもっているタイプの社会人は、やたらと制限のないコミュニケーションや情報共有を重視する。臆面もなく「直接会って話すのがいちばんだ」と言ってのける。
しかし組織の中で仕事を進めるときに、いちいち直接会って話さなければ前に進まないような企業文化を根付かせたが最後、その企業は従業員数が増えるにしたがって、業務効率は悪化する一方になる。
梅田氏ならこのようなタイプの人物に対しては、きっとITの活用によるコミュニケーションの効率化を提案してくれるだろう。そして沼上幹氏もやはり、上掲書の中で「官僚制」に対する「修正」の一つの方法として、ITの活用をあげている。
沼上氏の切れ味鋭い「官僚制擁護」を、僕の下手くそな文章で余計に難解にすることは避けたいので、今日の議論はここで切り上げる。梅田望夫氏にはただ、沼上幹氏の本を読んで自らの不明を恥じるようにとだけ伝えたい。
「アナロジー」については、ファインマン教授の言葉まで引用して再三にわたって禁じ手としながら、至るところでアナロジーを使っているし、組織論については上述のような本当に基本的な間違いを犯しているし、『ウェブ進化論』という書物は実に苛立たしい。
その意味で『ウェブ進化論』は精神衛生上よろしくないのだが、まだ気力が残っていたら、別のテーマで再び根気よく批判を続けることにしたい。