梅田望夫著『ウェブ進化論』補完計画の完成

以上で梅田氏の書いているネット世界の「三大法則」が、すべて法則と呼べないものであることが論証できた。第一法則と第二法則はともに、単なる「結果」としての現象を法則にしている点で法則と呼べない。
しかも第一法則は、仮にそれを法則と呼ばず、結果としての「現象」と呼ぶにしても、深刻な事実誤認を含んでいる。
つまり、ネット利用者がクリティカル・マスにまで増大した結果、膨大なデータベースとその統計処理が行われるようになっただけの現象を、まるで機械が「神」のようにウェブサイトの意味を「理解」しているかのように過大評価している点で、現象の認定そのものが誤っている。正しくは「神の視点からの世界理解」ではなく、「テラバイト級の膨大なデータとその統計処理の実現」といった、常識的な言葉づかいで十分正確に表現できる現象である。
第二法則も、その内容自体に事実誤認がある。一部のネット利用者が、ネット世界の分身である自分のウェブサイトに一定の金額を稼がせることができるのは、現時点でネットを駆使する企業・個人とそうでない企業・個人の間に、能力や情報の格差があるからに過ぎない。
ネットがさらに普及することでその格差が小さくなれば、市場原理の収穫逓減の法則にしたがって、もはやネットの分身に稼がせることは不可能になる(「ネット世界は収穫逓増の法則が支配する世界だ!」などという反論は、無根拠な妄想なのでやめて頂きたい)。したがって梅田氏の言うような「新しい経済圏」など存在せず、そこにあるのは昔ながらの市場主義経済圏である。したがって、第二法則は法則ごと抹消できる。
そして第三法則は、人間が瞬時に知的成果物を産出するのに必要な、長期間にわたる蓄積(教育など)を無視している点で、これも法則の内容そのものが誤っている。人間がときにたった3秒で付加価値を生み出せるのは、それまでの何千時間、何万時間という蓄積があるからこそだ。この事実を完全に無視しているために、第三法則も法則ごと抹消できる。
もうこれでいいだろう。ベストセラーというものは、出版社や書籍流通業界、マスメディアといった既存のメディアや権威が、大量の資金を投じて人工的に作り出すものであり、梅田望夫氏の『ウェブ進化論』もその例外ではない。不特定多数の人々を信頼するという梅田氏の主張が本当なら、これほど粗雑で根拠薄弱なウェブ進化擁護論がベストセラーになるはずがない。
賢明なる「愛と苦悩の日記」の読者の皆さんには、ティム・オライリー氏の『Web2.0とは何か』の和訳を読むことをお勧めしておけば十分だろう。IT業界では有名な出版社社長のこの試論を読めば、いまウェブの世界で何が起こりつつあるのか、誇張も論理的飛躍もない的確な理解を手に入れることができる。それは他でもない、オライリー氏がウェブ世界のれっきとしたエスタブリッシュメントであり、権威であるからだ。